幕間―鬼ノ刻― 後編



―午前0時前―


―大行事権現祠前―


""は静まりかえっていた。

地主神じぬしのかみを奉っている、神聖なハズなのに。

祠が崩れ、その奥にあった竜玉が割れていた。

そのせいで、邪気が漂っている。

急いで邪気を吸わなければ―

左手の毘沙門の竜玉を掲げる。

その時だった。

横からの殺気。

それを直感で感じ、後方に跳躍し、その殺気を避ける。

それは汚い甚平の様な服を羽織り、小悪党と言わんばかりの格好をした、火を纏った様な霊だった。

邪気も纏っているらしく、不快な陰気をばらまいている。


「…なんで避けられるんだぁ…? お前妙なヤツだなぁ…」


直接聞こえる様な声…空気の振動ではなく、この空間の、あの汚い男から聞こえる様な声…


「オラァの邪魔をすんのかァ…?」


耳障りの悪い品の無いカンジが強く、竜尾鬼は不快感を露わにした。

しかし、その"小汚い霊"は続ける。


「邪魔す」


余りに聴きたくなかったので、神速の抜刀で切り裂いた。

"彼"の持つ刀の様に、悪意を喰らってはくれないが、この刀に斬れないモノはない。自負している。

納刀し、左手の竜玉を祠に掲げ、邪気を吸い始める。


「オラァが話してるだろぅがァァァァ!」


その"小汚い霊"が襲ってきた。

また邪魔された。

竜尾鬼は更に苛ついた。


「お前もオラァの邪魔すんのかァ!? あの長谷川みてぇに!」


―誰の事だ 知るか―

竜尾鬼は心の中で一人ごちた。


「お前も焼き殺してやろぅかぁ?!」


山羊の様な角が生え、襲いかかってきた。


―面倒臭い―


今の心情を一言で表す言葉だった。

中途半端に"能力チカラ"があるのか、面倒だ。早くこの祠を戻したい。

この地に平穏を戻す為に。

その山羊角小汚い霊は、烏枢沙摩うすさまの真言らしきものを説き、炎を両手から放った。

竜尾鬼は刀を抜くと同時に、それを切り裂き、その"山羊頭"に袈裟斬りを放った。

苦しみながらこうべ項垂うなだれる。

しかし勿論致命傷ではないらしい。


「こんな程度で死なねぇ…!」


裂けている状態で答える。


「またあの場所に…!」


煩わしい喋りを無視し、袈裟から続けて切り上げ、更に左袈裟斬り、右袈裟と四連撃を喰らわした。

"山羊頭小汚い霊"はそんな連撃を喰らうとは思わず、苦悶に啼いている。

切り裂いた部分からは大量の邪気があふれ出し、漂っている。


「オマエ…! 何者…!」


続けざま、左手の竜玉から邪気を吸収する。


「あぁぁああぁあぁぁぁあああ!!」


苦しみながら悶える。

その"力"を一定量吸う。そろそろか。


―今だ―


この"浮浪霊小汚い霊"を"消す"為に、"能力チカラ"を解放する。

これ以上時間を掛けるのも無駄だ。

竜尾鬼は、"魔人化"した。





竜尾鬼の身体の筋肉が隆起し、硬化し、頭部に二つの角が生え、髪が伸び、犬歯が伸び、刀が変化し、両刃の剣に変貌した。


「な…?!なんだァ…?!その姿…! お…! 鬼」


言葉を最後まで終わらす前に剣で一閃し、切り裂いた。


「ギィヨェェェェェェェェ…!」


その聴くに堪えない断末魔を無視し、左手の竜玉で邪気を全て吸い、竜尾鬼は魔人化を解いた。

そして、竜玉を祠の奥に安置する。

竜玉にて浄化された力が、大きな光と共に祠の痛みを元に戻す。


「ここまでかな…」


竜尾鬼はそう言い、大行事権現を後にした。

自分の役割は終わった。

まだ、多少の違和感は感じるものの、それは、"彼"がやってくれるだろう。

そう信じる仲間に任せ、その場を後にした。



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