幕間―鬼ノ刻― 後編
三
―午前0時前―
―大行事権現祠前―
"其処"は静まりかえっていた。
祠が崩れ、その奥にあった竜玉が割れていた。
そのせいで、邪気が漂っている。
急いで邪気を吸わなければ―
左手の毘沙門の竜玉を掲げる。
その時だった。
横からの殺気。
それを直感で感じ、後方に跳躍し、その殺気を避ける。
それは汚い甚平の様な服を羽織り、小悪党と言わんばかりの格好をした、火を纏った様な霊だった。
邪気も纏っているらしく、不快な陰気をばらまいている。
「…なんで避けられるんだぁ…? お前妙なヤツだなぁ…」
直接聞こえる様な声…空気の振動ではなく、この空間の、あの汚い男から聞こえる様な声…
「オラァの邪魔をすんのかァ…?」
耳障りの悪い品の無いカンジが強く、竜尾鬼は不快感を露わにした。
しかし、その"小汚い霊"は続ける。
「邪魔す」
余りに聴きたくなかったので、神速の抜刀で切り裂いた。
"彼"の持つ刀の様に、悪意を喰らってはくれないが、この刀に斬れないモノはない。自負している。
納刀し、左手の竜玉を祠に掲げ、邪気を吸い始める。
「オラァが話してるだろぅがァァァァ!」
その"小汚い霊"が襲ってきた。
また邪魔された。
竜尾鬼は更に苛ついた。
「お前もオラァの邪魔すんのかァ!? あの長谷川みてぇに!」
―誰の事だ 知るか―
竜尾鬼は心の中で一人ごちた。
「お前も焼き殺してやろぅかぁ?!」
山羊の様な角が生え、襲いかかってきた。
―面倒臭い―
今の心情を一言で表す言葉だった。
中途半端に"
この地に平穏を戻す為に。
その
竜尾鬼は刀を抜くと同時に、それを切り裂き、その"山羊頭"に袈裟斬りを放った。
苦しみながら
しかし勿論致命傷ではないらしい。
「こんな程度で死なねぇ…!」
裂けている状態で答える。
「またあの場所に…!」
煩わしい喋りを無視し、袈裟から続けて切り上げ、更に左袈裟斬り、右袈裟と四連撃を喰らわした。
"
切り裂いた部分からは大量の邪気があふれ出し、漂っている。
「オマエ…! 何者…!」
続けざま、左手の竜玉から邪気を吸収する。
「あぁぁああぁあぁぁぁあああ!!」
苦しみながら悶える。
その"力"を一定量吸う。そろそろか。
―今だ―
この"
これ以上時間を掛けるのも無駄だ。
竜尾鬼は、"魔人化"した。
四
竜尾鬼の身体の筋肉が隆起し、硬化し、頭部に二つの角が生え、髪が伸び、犬歯が伸び、刀が変化し、両刃の剣に変貌した。
「な…?!なんだァ…?!その姿…! お…! 鬼」
言葉を最後まで終わらす前に剣で一閃し、切り裂いた。
「ギィヨェェェェェェェェ…!」
その聴くに堪えない断末魔を無視し、左手の竜玉で邪気を全て吸い、竜尾鬼は魔人化を解いた。
そして、竜玉を祠の奥に安置する。
竜玉にて浄化された力が、大きな光と共に祠の痛みを元に戻す。
「ここまでかな…」
竜尾鬼はそう言い、大行事権現を後にした。
自分の役割は終わった。
まだ、多少の違和感は感じるものの、それは、"彼"がやってくれるだろう。
そう信じる仲間に任せ、その場を後にした。
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