幕間―鬼ノ刻― 前編



―2015年12月30日(水) 午後11時過ぎ―


泰叡山護國院たいえいざんごこくいん 瀧泉寺りゅうせんじ―目黒不動尊― 前ビル屋上―


坂本竜尾鬼さかもとたつおきはビルの上からその様子を眺めていた―

奥にある大行事権現の祠が邪気を吸っていた筈だが、その"力"が失われた。

"鬼の力"で強化した、独鈷杵どっこしょの結界が壊された―

―感じられるからだ。

竜尾鬼は、同じ"鬼の力"を感じられた。それが今は無い―

竜尾鬼は動いていた。

友人であり、仲間である、あの、"黒い男"にも連絡せず―

もう、動いていた。

手にした、打刀明智拵うちがたなあけちごしらえを脇に―

この結界を施した先祖の意思を受け継ぎ―

この東京の平穏を護る為―

五色を護る為に―

竜尾鬼は動いていた。




目黒不動尊に着いたら、妙な光景が広がっていた。

一般人の男が、怪異に立ち向かっていた。

しかも、なんの能力も持たない一般人が だ。

"能力チカラ"があるのも手にしたラケットだけ―

ラケットって…なんだ?

そんなものでこの状況に抗うなんて…

世の中にはおかしな事もあるものだ としか、竜尾鬼は感じなかった。

それほど、竜尾鬼の心は冷静だった。動かなかった。

しかし、

―なんとかなるだろう―

そう思っていた。

ラケットなんて変なモノでも対処は出来ている。―だが、

―少し、危険か?―

息は上がり、気が分散している。

そこに、天火てんかが隙を突く様に迫っていた。

―危ない…!―

そう感じた瞬間、動いていた。

竜尾鬼は跳躍し、その天火を持っていた刀で一閃、切り裂いた。

そして、大行事権現の祠に向かう為、その一般人を放って、本殿へ向かう。

近くに、あの、"バイク好きの青年"の気配もした。

あとは彼が何とかしてくれるだろう。

ならあのと話せるだろう。

その信頼の元、それ以降、彼はその"妙な一般人"の事は忘れた。



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