―第二話―



―12月31日(木) 午前0時過ぎ―


―本殿前―


入り口の門を越えた所にある広場で自分を助けてくれた、その青年と一緒に男坂を上り、大本殿前まで来る。

左腕の時計に眼をやると、いつの間にか12時を過ぎていた。

もう、大晦日になっていた。


青い男「まだか?」


雄一「えと…もうすぐ…

!」


地理的に詳しくない彼を連れて、詳しい自分が先導する。

何故か、その自信ありげな態度に圧倒されて、かしこまってしまう。


青い男「え?なんだアレ…?」


階段を上りきって、彼がそう言う。

その言葉に反応して本殿を見遣ると、驚くべき人影があった。


雄一「え?ばぁちゃん?!」


それは、祖母だった。若い頃の写真を見せて貰ったから解る。

間違いなくばーちゃんだ。

ばーちゃんは白いワンピースらしきものを着ている。


青い男「は?!ばーちゃんて年齢に視えねーぞ!」


その言葉に反応する。

その驚きを遮る様に…が口を開く。


祖母?「雄一…よく来たね…」


ああ…祖母の声だ…間違いなく自分の知っている祖母の喋りでもある。


雄一「あ…うん…! ちゃんとコレ…! 持ってきたよ…!」


ラケットを掲げ、祖母にそう言う。


青い男「イヤ!おかしーだろ!…ン?」


その彼の疑問をよそに、手が伸び、そこに多数の鳥目が現れる。

そんなに必要なのかな。

じゃ、渡さないと。

その思いで足を進めた。


青い男「『離れろ』ッ!」


突然その言葉を投げかけられ、『離れ』てしまう。


雄一「!え! あ…!」


その意思と違う行動に戸惑う。


祖母?「なんだ…?貴様…?その能力チカラ…?」


それを見た祖母の表情が曇る。


青い男「ハ…! 言霊ってヤツ…!」


軽口を叩きながら威嚇する。


雄一「え…? 何…? ばぁちゃん…?」


その状況に付いていけず、疑問を口にしてしまう。


青い男「ばーちゃんじゃねー」


即座に否定する。


祖母?「おばあちゃんだよ…ホラ…」


そう ばーちゃんなんだ…でも


青い男「違う…! よく見ろ!」


確かに有り得ない…


祖母?「雄一…よく持ってきてくれたね…」


持ってきたんだけど…


青い男「あんなに眼があるか!」


目?


雄一「え…オレ…? どうすれば…?」


もうどうすればいいか解らなくなった。


祖母?「そんな奴の言う事は聞かないで…」


それでも祖母は囁く。


青い男「あー!もう!メンドくせー!」


煮え切らない自分の態度に腹を立てたのか、懐から何か、金属の棒の様な物を取り出し、祖母に投げつけた。

そして―


青い男「『当たれ』ッ!」


その言葉通り、投げた棒は祖母に『当たった』


祖母?「げぇあっ!」


およそ祖母が出さない様な嗚咽を漏らす。


青い男「『インダラヤ・ソワカ』!」


その見知らぬ言葉を叫ぶと同時に、祖母に雷が落ちる。


祖母?「!!!!!!」


雄一「うわっ!」


途轍もない衝撃と轟音に焼かれ、倒れ込む。


青い男「はぁ…」


一息を付く。


雄一「終わった…?」


その突然の展開に付いていけず、訳が分からなくなり、呟く。


青い男「…ハーぁあ」


めんどくさそうに祖母だったモノに近付き、金属の棒を回収する。


雄一「はぁ…」


終わったという事に安堵し、溜息を吐く。

そして祖母を背中に振り向いて、


青い男「…良いけどさ…いつもそんな曖昧なの…?」


疑問を感じたのか、聞いてくる。


雄一「え…?どういう… !」


疑問だという事以外解らず、聞き返してしまう。

戸惑っている自分が俯いている間に、祖母は急に起き上がり、

その青年に背後から抱きついた。


青い男「ぅおッ!」


雄一「え?!」


突然の事に二人して驚いてしまう。


祖母?「酷いねぇ…悪いコだ…!」


黒焦げで喉が焼けているのか、擦れたガラガラ声でそう言う。

ばーちゃん…そんなにまでなってそんな事するなんて…!


雄一「!止めてよ!ばーちゃん!」


その制止の言葉も聞かず、青年に組み付き、首もとを締め付けながら、その肩口に思い切り噛み付く。


青い男「ゥおおぉぉぉぉ…ッ! なんだコイツッッ…!」


激痛に顔を歪めながら、抗っている。


祖母?「おばあちゃんだよ♪」


その抵抗をものともせず、嘲笑う様に囁く。


雄一「えっ…! えっ…! ど…どうしたら…!」


その状況に混乱する。

ばーちゃんが雷に打たれたのに無事で…自分を助けてくれた彼がそのばーちゃんに噛まれてて…どうしたらいいんだ?


祖母?「を頂戴雄一…!」


雄一「それって何?!」


思わず答えていた。ラケットの事?


青い男「!聴くな!バカ!」


雄一「でも…!」


ばーちゃんだから…


青い男「あー!クソッ!『離せ』ッ!」


そう言って振り解き、背負いの形で祖母を投げ飛ばした。


雄一「あ…」


投げ飛ばされたは、


青い男「なんだコイツ?! 強すぎる! タダの百目じゃねぇ!」


噛まれた肩を押さえながら祖母を睨み付ける。


祖母?「さぁ…雄一…」


だが、そんな事も意に介さず、祖母は自分に言う。


青い男「盗みのハズ…! 盗み…」


そう、何かを呟きつつ、自分を見遣る。


青い男「違う…盗みじゃない…! 『お前か』?!」


そう言って振り向き様、急に腹を殴られ、吹っ飛んだ。


雄一「ぅあっ… なんで…??!ぐッ…うぅぅぅぅぅ!あああああ!」


殴られた事に驚く間も無く急激な痛みと共に痺れが身体を駆け巡り、前のめりに両手膝を付き、倒れ込む。


雄一「ぐッ…! ぁぁぁぁ…!」


祖母?「あぁぁぁぁあぁぁぁ!」


同時に祖母も苦しみ悶え始める。


雄一「ッ…え…?」


痛みを忘れるかの様な状況に驚く。


青い男「憑かれていたのはお前だった」


雄一「え…?」


そう言われて腹を視ると、何かの御札が貼られていた。


青い男「お前の罪はなんだ?」


問い詰める様に言われる。


雄一「罪なんて…! うッ…!犯して…!ない…!」


そうだ なにも罪なんて無い

むしろ自分より罪深いヤツを知っている


青い男「盗みじゃない…となると怒り?嘘?強欲?」


そんな事を意にも介さず続ける。

…怒り?


雄一「怒りなんて…!溜めてないし大層な嘘もついてないッ…!欲しい物だって特にない…!」


痛みで絶え絶えに成りながらも心情を爆発させた。

そうだ、欲なんて無い


青い男「選ばない…曖昧…理解しない…視ない…」


ブツブツと何か呟いている。

やってるよ…!

聞いてくれないのに苦痛も相俟って段々腹が立ってくる。


雄一「なに…! 言ってるんだっ…! 全部やってるよ…っ!」


青い男「違う…どれも十に当てはまらない…」


絞り出した言葉も一概に伏されてしまう。


青い男「! …七つの方か?」


何か気付いた様だが、全く繋がらない。


雄一「ワケのわからない事…っ!」


青い男「全て流れに任す…避ける… ! 怠惰か…!」


雄一「俺は怠惰じゃない…っ! ちゃんと働いてる…っ!」


出された言葉にカッとなり応える。怠けてなどいない。


青い男「けど満足していない」


そんなことない


雄一「良い大学にも入って親孝行してる…っ!」


間違ってない


青い男「けど不満を抱えてる」


うるさい…!


雄一「何がダメなんだよッ…!ああああぁぁ!」


青い男「お前はどーしたいんだ」


雄一「…え?」


急に出された疑問に面食らう。


なにを?


青い男「ばーちゃんをどーしたいんだ」


雄一「ぇ…えぇ…?」


どうする…? って?


青い男「逢いたいのか?斃したいのか―」


そう言いながらさっき使った金属の棒を取り出した。


雄一「え…?」


青い男「お前が選べ」


突然の事にパニックになる。


雄一「そんな…! え…君が選んでよっ…!」


そうだ。コレは自分の役目じゃない。出来る人がするべきだ。

だが


青い男「これはお前の責任なんだ お前が選ばなきゃダメなんだ

ただし、両方お前にとっては辛いかもしれないな」


正しい。

でもムリだ。

失敗するかも知れないし、上手く出来ないかも知れない。

何より、生殺与奪を自分が選ぶなんて考えられない…!

そうだ!自分は専門家じゃない…だったら!


雄一「それなら専門家なんだからキミがやってくれよ…っ」


そうだ!それが確実だ…! 万事解決!


青い男「お前が選ばなきゃ終われないんだよ 先を視るんだ」


アッサリと断られた…なんでだよ…

なんでこんなに頼んでるのにやってくれないんだよ!

俺にはムリなんだって言ったじゃないか!

こんなに頼んだのに…!


雄一「クソックソックソォォォォォ…ッ!」


言葉となってその気持ちが口から出る。


青い男「そうやって他人に任せて自分の得意な事をやっているのは楽だよな…オレもそれは解る でもそれじゃダメなんだ… 選ばなきゃいけない時がくるんだ 選ばないで虚無感を得るのか、選んで苦痛の先にある答えを得るのか…」


なんだその正論?! ムリだって言ってるだろ…!


雄一「そんなの…っ! わかんねぇよっ…!」


青い男「解らないからやるんだろ」


一瞥される。無慈悲に。


雄一「そんなの…! 怖い…っ!」


その容赦無き否定に恐怖でうずくまる。そう、怖いんだ。


青い男「みんな怖いんだよ オレだって怖かった」


そうなのか…? それは、憂いがこもっていた。同情する様な。


雄一「そんな…! そんなっ…!」


それが、更に自分の恐怖を煽る。


青い男「もう咒符が持たない」


雄一「うううぅっ…!」


痛みと痺れが強い。…だが、さっきに比べ、弱くなってきている。

それが、より一層自分を追い詰めた。


青い男「これは…お前がお前を救う選択なんだ」


それは、決意をたもす声色だった。


雄一「俺が俺を救う…?」


よく解らずに、でも、答えていた。


青い男「そうだよ」


コレが…? コレが自分の運命の?


雄一「選択…」


痛みと痺れが引いてきた。

この調子だと、近くにいる祖母も動き出しそうだ…

それが引くまでに選ばないと…

決めないと…

そう決めないと

決めた

そう意識したと同時に、凄まじい衝撃が起こった。



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