起 編

―第一話―


―12月30日(水) 午後11時過ぎ―


泰叡山護國院たいえいざんごこくいん 瀧泉寺りゅうせんじ 目黒不動尊―


この時間帯―師走なら尚のこと―人は誰もいなかった。

閑静な住宅街でもあるし、誰もいないのは当然だった。


雄一「目黒不動― ここか…?」


祖母の言葉を改めて思い出し、確認する様に呟いた。

思い立ったが吉日ではあるが、流石に急だったか…

軽く自身の軽率さを恥じた。

だが、来てしまった手前、もう気にしてもしょうがない。

改めて、周りを見渡してみる。

目黒不動は静まりかえっていた。

年末で大晦日前とはいえ、静か過ぎた。異常なくらいに。


雄一「まさかばあちゃんの夢に諭されて来てみた…なんてなろう小説みたいな事が…」


その異常なぐらいの不気味さに、その不安感を拭う様に、有り得ない事を呟く。

門は不思議と閉まっていなかった。

その不自然さに軽く違和感を覚えた。

だが、中に入ると、そんな事とは関係無く、強い風が吹いた。

その風は、悪寒の走る様な、生理的嫌悪感を感じさせる、気持ちの悪い風だった。


雄一「ぅわ!なんだ…?」


思わず疑問を口に出しつつ、風から護る様に顔を覆う。

眼を開けると、目前には、火の玉の様なものが在った。

その火の玉の中には、人の顔があり、それは苦悶の表情をしていた。


霊 「アアアァァァ…」


それは、何か、恨みがましい声を上げながら、ゆっくり近寄ってくる。


雄一「え?!は?!何…?!」


突然の事で気が動転する。意味が解らない。


霊 「アツイ…アツイ…!」


ソレは口を開くと、苦痛の声を上げた。


雄一「うぁっ!くんなよ!」


脊髄反射的に危機を感じ、持ってるラケットをソレに振るった。


テニスボールを打つ様に、ソレをはたいた。


霊 「ァァァアアァヲヲォォォォォ…!」


すると、苦痛の声と共に蒸発する様に消えていった。


雄一「…? え?効くの?ラケットが?」


自分が一番驚いていた。


こんなふつーのラケットでぶん殴っただけで、どうにかなるとか…


霊 「アツイ…!」


声の方を振り向くと、いつの間にか、複数の火の玉が湧いていた。


雄一「…!っ! なら!」


よくわかんないけど、コレラケットでどうにかなる…そして、自分でもなんとか出来る…!

それが、に立ち向かう理由になった。

ラケットを両の手で強く握りしめ、喧嘩などした事もないが、立ち向かっていった。



―同時刻―


―目黒不動横、ビルの屋上―


その様を、ビルの上から見つめる男がいた。

左手には刀を所持している。

そこそこ長い、ロン毛と言われるくらいの髪に、革のジャケット、デニム姿。

それは、青年の様だった。


??「…」


その男は、何かを伺っている様にその場を見下ろした。



―同時刻―


―目黒不動入り口、大門前―


ラケットを、迫ってくる火の玉のようなものに当てていく。

テニスの打ち返す要領で打ち飛ばしていく。

既に数体は打ち消していた。


雄一「五、六匹は倒したんじゃないのー?!」


慣れない事と緊張感で、息が上がっていた。

そこを、後ろから火の玉のようなものが襲いかかってきた。


雄一「え?!ヤバッ!」


完全に隙を突かれた。

当たる…! その時、

突如、上空から刀を持った男が上空から現れ、その火の玉に一閃し、危機を救ってくれた。そして、直ぐ跳躍する。

疾風の様に、何事も無かった様に、過ぎ去っていった。

自分は、ポカーン(゜Д゜)とした表情をしていた。


雄一「…え? あ、ヤベッ!」


気を抜いていたのを理解し、眼の前に気を戻す。

まだ危機は終わってないのだから。

その最中さなか、入り口にZX―10Rが来る。

乗っている男は、青いジャンパーと、デニム姿の青年だった。

この異常な状態に驚く事もなく、それを尻目に、バイクに前のめりになりつつ呟く。


青い男「あー遅かった …けど?」


本来居る筈のない男がいる。

火の玉をラケットで打っている。

息も絶え絶え。

異常な状態に驚きもせず、


青い男「…誰? てか…珍しいな」


当たり前の様に、しかし軽い驚きと共に視ていた。

だが、これでは終わらないだろうし、埒もあかない。なので、


青い男「よっこいしょ…助けてやるか」


バイクを降りつつそう呟く。

そしてポケットから野球のボールを出し、投球フォームをとる。

極フツーの。

そして、力を込め始める。


青い男「おおおぉぉぉ…!『行け』ッ!」


その言葉の""を、投球寸前の球に込める。

これで、自分の意思を乗せた球は、』だろう。

凄まじい勢いでそのボールは進んで行く。


雄一「! うわっ!」


急激な横槍に驚き、顔を護る様に両手を挙げる。

そして、その火の玉のようなものが、ボールの衝撃に巻き込まれ、消滅していく。


雄一「え…?」


突然の事に(@_@;)という顔になり、戸惑う。

気付けば、さっきの火の玉は一体もいなくなっていた。


青い男「大丈夫ー?」


そこに、軽い感じで声を掛けられ、更に困惑する。


雄一「誰…?」


思った事がストレートに疑問として出た。


青い男「ダレって失礼だなー助けて貰ったのに 先ずは感謝だろ」


サラッと当然の事を言われた。ああそうだ。


雄一「あ…ありがと…」


助けて貰ったのか…なら、確かにお礼を言わないと…


青い男「アンタ珍しいねー特別なのはラケットだけって てかラケットって!」


礼を言われた事など関係無く話を先に続ける。


雄一「あ…コレばーちゃんにもらった木で作ったヤツで…」


このラケットに興味を持たれたのか。

そりゃあ火の玉をラケットで打つヤツなんて、動画配信者くらいしかいない。


青い男「じゃなくて、あ、でもそーなんだ だからか」


答えた事とは違うと言った反応が返ってきた。『だから』?


雄一「え?だからって? 説明してよ…!」


一人で納得されるのに疎外感を感じ、聞いてしまう。


青い男「あーオレも詳しくはわかんないんだけど、この木って、多分何かの御神木じゃない?"能力チカラ"は感じるから あと、オレは読めないけど木の部分に梵字が刻まれてるから

…んでもコレって後に彫られた…?」


ごしんぼく…? チカラ…? ぼんじ…? 一人で納得し始め、更に混乱する。


雄一「? そんなことより…境内裏に行かないと…!」


そうだ、目的は境内裏の大行事権現だ。

一番の目的を思い出す。


青い男「なんで?」


純粋な疑問が返ってきた。


雄一「夢で死んだばーちゃんが出てきて、このラケットを持って裏の祠に行けって言われて…」


自分でも奇天烈キテレツな事を喋っているとは思う。

だけど、自分にとっては重要な事なのだ。


青い男「…はぁぁーん」


あまり信じていない様な返答だった。

でも、本当なんだ…!


雄一「可笑しな事言ってるってのは解るよ!でも…!」


その気持ちで弁明をする。


青い男「イヤ、そうじゃなくて そこに今オレも向かってるから…せっかちだな」


たしなめられた。


雄一「え…そうなの ゴメン」


申し訳なく感じ、謝罪してしまう。


青い男「とにかく、理由があるなら一緒に来て貰う」


雄一「え?? あ…うん」


その誘いは、予想外だった。


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