【雪解け】
場面1
一部文章akua様、アクセル様のご協力を得ています。
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今日の天気は快晴……とは、言いがたかった。
しかしながら雨や雪でもなく、少しばかり雲が目立つだけの過ごしやすい気候だ。
雲と一面の雪が溶け合って、境目が曖昧なままの景色が広がっている。
ここはプロメティア帝国の辺境。
実を言うと、除雪と銘打ってはあるものの、実情はただ子供たちを遊ばせにおいで、という内容の依頼だった。
先日またも雪が降ったこともあり、町中至るところに雪が積もっている。
広場も数個あるため、ある場所では雪合戦を、ある場所では雪像製作を行っているのだった。
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アンバーとジュリアは既に談話室内にいた。
一部の寒いのが苦手な保育係たちも暖を取っている。
アンバーは外の寒さにかこつけて膝の上にジュリアを乗せていた。
当のジュリアは嬉しそうではあるが真っ赤な顔をしている。
そんな彼女をアンバーは撫でたり菓子を食べさせたりして甘やかしていた。
ネコ科……もとい、白猫の名付きであるジュリアは寒いのが苦手なのだろう、外に出ようとはあまりしない。
ちなみにそんな二人といつも一緒に行動しているルシアはといえば、イヌ科なので喜び勇んで外に走っていった。
先ほどまではジュリアも、いつも大人しいルシアがぴかぴかの泥団子に喜んでいたときのような勢いだったのが気になったのかややそわそわとしていたが、今は暖かい室内にいるというのもあってか落ち着いている。
いぬはよろこびにわかけまわり ねこはこたつでまるくなるというどこぞの童謡が頭に浮かぶようだ。
「ん?……やあ、きみは外で遊ばないの?」
そこにたまたまヴァシリーサが通りがかる。
いや、アンバーに用があって来たのだから、実際のところはたまたまではないのだが。
確かルシアと同じように犬科だし、てっきり外で遊ぶものだと思っていたのだが。
とアンバーが言外に言う。
しかしヴァシリーサはそれには気づかず、なにやらてれてれと頬を掻く。
「いやあ、今日はお菓子配って回ろうかなあと思いまして」
ホワイトデーだし、とヴァシリーサはそっとお菓子をアンバーに渡した。
色んな人に配る予定なのだろう、片手には多き目の籠を持っている。
そして同時にアンバーと一緒にいたジュリアにもお菓子を渡す。
「アンバーさんのは甘さ控えめで、ジュリアちゃんには甘いのをあげました!」
「わざわざありがとうございます」
ごくりと食べていたお菓子を飲み込んで、ジュリアはきちんとお礼を口にした。
もしかして渡す相手ごとに好みをチェックしているんだろうかとジュリアは内心首を傾げる。
「ところでルシアちゃんはどこです?」
「彼女なら外で遊んでいるよ。
持ち運ぶのは少し難しいんじゃないかい?」
それを聞くとヴァシリーサはそっかあと少ししょんとして、ならばとジュリアに差し出した。
「これ、ルシアちゃの分……」
「あ、わかりました、ちゃんと預かっておきますわ」
ジュリアがルシアに渡すことを約束すると、ヴァシリーサは「ありがとうございます!」ときりっとした顔でお礼を言う。
そして「他の子にも渡すので!」と言って風のように去っていった。
それから少しして。
「えへへ、あの、アンバー様もどうぞ」
「ん、……うん、ありがとう」
二人はまたも最初のようないちゃいちゃに戻っていた。
ジュリアがおずおずとチョコレートを差し出し、アンバーはそれを手で受け取らずに口にする。
危うく唇に指先が触れかけてジュリアは声にならない声をあげた。
その様子に気づいているだろうにアンバーはそ知らぬふりをして、飲み込み微笑みながら彼女の頭をなでる。
少し前、彼女らが群の一員でなかった頃とも違う平穏な時間が流れていた。
アンバーは思わず、呆れてしまうほど暖かな空気に平和ボケをしてしまいそうだ、なんて心中で呟く。
けれども、先ほど喜んで外に出て行ったルシアと、今こうして幸せそうに近くに座っているジュリアのことを思えば、案外それも悪くないのかもしれないだなんて彼女らしくもない感想が頭をよぎった。
「ルシアもまだまだお子様だね」
ぽつりとアンバーがそう呟いて微笑を浮かべる。
それはいつもの何の感情も見られないものとは少し違っていた。
口いっぱいにお菓子をアンバーに詰められていたために、ジュリアはすぐに返事が出来ずもくもくと口を動かしたままうんうんと頷く。
それが自分のやったこととはいえなんともおかしく思えて、アンバーは微かに声を溢して笑った。
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暖かな室内とは違い、外は涼やかな空気が流れている。
否、涼やかとも言い難いのだが。
「っぶぃっ!!
っひ~~~、さっむ!」
そしてそんな寒さに負けてかまくらに引きこもる、コメット。
ほんの少しだけ自宅でぬくぬくとコーヒーを飲んでいるであろうウィレスを恨みつつ、彼女は七輪の火に当たる。
かまくらの中と言うのは意外と温まりやすいようで、七輪を置くだけで大分暖かくなってきた。
餅でも食べようかなー、なんて思いながら、持ち込んできた餅を開封して焼き始める。
いつも一緒にいる恋人……もといつい数ヶ月前に夫になったイグニスは、現在除雪作業の方に回っているためこの場にはいない。
そんな彼女のいるかまくらの近くでマリアは雪像を作ろうと思い、しかしモチーフが決まらず頭をひねっていた。
少しの間雪をいじりながら考えていたものの、最終的に主人であるコメットに聞こうと思ったのかその場から動いてかまくらに近づく。
「マスタ~!」
さくさくと雪を踏む音と自分を呼ぶ声に、コメットは顔を上げてマリアの方を見た。
「ん?どしたの?」
「何を作るか決まらないくて……」
自分に決めて欲しいのだということに気がついて、コメットは数秒頭を悩ませる。
結局思いつかなかったのかただ単にそう思ったのか、「マリアが好きなものを作ったらどうだ?」と返事をした。
マリアはそれを聞くとなるほど!と大きく頷いて、「そうします!」と元気よく返事をする。
またもさくさくと音をさせながら歩いていくのを見送り、コメットは餅をひっくり返した。
餅が焼けた頃、マリアの雪像が完成する。
満足のいく出来なのだろう、彼女は目を細めて見上げ、大きく頷いた。
「マスタ~!みてください~!」
「ん?……ンッ!?!?!?!ゲホッ!!!ンゴホッ!!!!」
そこにあったのは決めポーズをとるコメット(雪像)。
コメット(本人)は焼けた餅を食べていたところであったので、あまりの驚きに喉に詰まらせてしまいむせていた。
好きなものとは言ったが、まさか自分を作られるとは全く思っていなかったのだろう。
コメット(本人)は未だむせている。
そんな彼女にマリアは首を傾げていたが、ふと足音が聞こえて顔を上げた。
足音の主を視認してぱあっと花の咲くような笑みを浮かべる。
そこにいたのは彼女の恋人であるヴィノスと、彼が一時的な保護者役をしているロキアだった。
よ、というように空いている手を振るヴィノス、マリアの作ったコメット(雪像)に目を輝かせるロキア。
「折角だし一緒に回ろうぜ。」
「ぜひ!」
ヴィノスはどうやらマリアを探していたらしかった。
雪景色なんていう綺麗な景色を、恋人と見たいと思うのは当然のことである。
さて、そんな風に楽しげにその場から去る三人を見送って、コメット(本人)は黄昏ていた。
「……ど~しよっかなあ、これ」
コメット(雪像)が決めポーズを決めている。
妹分が一生懸命、それも好きなものとして自分を選んで作ったものをまさか壊すわけにもいかず、かといって放置するには自分が恥ずかしい。
コメット(本人)は黄昏ていた。
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除雪作業の依頼。普通はそんなもの目にもくれないはずのヴィノスは何故か今日ここに居た。
「一緒に来れてよかった、寒くないか?」
「大丈夫です!」
左手にはマリアの手が握られており、マリアはヴィノスに向かって笑顔を見せると手をぎゅっと握る。それにヴィノスは微笑み、少し雪景色でも楽しむかと考えるが──
「ロキアあっち行ってみたいです!あれはなんでしょう!?ああ!あそこも気になります!」
「あ〜あ〜、ちゃんと手ぇ握ってろ」
右手はぐんぐんと色んな方向に引かれ、ぴょんぴょんと跳ねればブンブン振られ、千切れるのではと言わんばかりに乱暴にされている。
見た事ない大雪にテンションが上がり何処も彼処も初めての世界のロキアは早く遊びたいようだ。
ヴィノスが周りを見渡すと幾人か顔見知りがおり、そこまで警戒しないでも大丈夫かと一安心する。
その時ロキアが腕をべしべしと叩き、ヴィノスの体を引っ張るようにどこかへ向かおうとした。
「ルシアお姉さん居ました!あっち行きたいです!」
「ルシア?……大丈夫なのか」
その名を聞きヴィノスはロキアの視線の先を見つめた。過去にある少女らを拉致したアンバーの仲間ではなかったかと迷うが、では彼女のこの懐きようはどういう事だろうと足を止める。
詳しくは知らないがアンバーは誰かの管理下にあり悪事は働けないはず、そう記憶しているヴィノスはまあいいかと屈んでロキアと目線を合わせる。
「いいか、まず俺様との約束を守るといい事が起こる」
「ほんとですか!?」
「ああ、嘘はつかねぇ。まず不審者について行くな。危ないことはするな。もし判断できないことがあったら知ってる大人に相談しろ、以上。もう10歳だし、お利口さんなら出来るよな?」
何より今だけはマリアに渡していた自分の枷をロキアに渡してあるとヴィノスは考えながら、ぶんぶんと頷くロキアと約束をすると背をぽんと叩く。
「よし、行ってこい」
「わ〜い!」
手を離し走っていくロキアを転ばないか心配しながら見送り、ゆっくり立ち上がる。
その様子にマリアはくいくいとヴィノスの手を引き、同じくロキアの方へ視線を向けた。
「お一人で大丈夫なんでしょうか……?」
「心配すんな、過保護な保護者がみっちり言い聞かせたらしいからな」
なるほど、と頷いたマリアの頭をヴィノスは軽く撫でる。
さて、もう恋人と2人きりになった。では取り繕う必要は無くなったとヴィノスは笑みを浮かべる。
「おっしゃ、思う存分遊ぼうぜ!除雪作業なんかクソくらえってんだ!」
「お〜っ」
「じゃあ、そうだな……。定番だが雪だるまでも作るか!」
緩く腕を掲げ意気込んだマリア。ヴィノスは雪を集め固めると、コロコロと転がし大きくしていく。確か色んな方向に転がすのがコツじゃなかったかと転がし徐々に綺麗な雪玉が見えてくる。
「マリア、そっちは出来たか──って、居ねぇ……!」
「ここです〜!」
真っ白過ぎて雪と同化して若干埋もれていたマリアを引き抜き体に着いた雪を払う。危うく見失う所だったと焦りながら、マリアの頭をワシワシと撫でる。
「俺んのは出来たから手伝う」
「ありがとうございます!」
ある程度雪玉の大きさを整え、小さい方を大きい雪玉に乗せる。しかしよくあるような目鼻になる物は持っておらず、2人で頭を悩ませる。
「人参とかそれっぽいし持ってくりゃ良かったかな……」
「何か……あ、石を目にできますよ!」
マリアは周りをきょろきょろと見渡し石を拾ってくると、雪だるまの顔にズドッと2つはめ、ならばとヴィノスは魔術で氷柱を作り、先端を少し丸くするとそれを鼻に見立ててズドッと刺す。
ヴィノスの腰辺りの高さの雪だるまが完成し、ヴィノスがマリアの前に手を出すと、それに手を合わせ軽くハイタッチを交わした。
「結構綺麗に出来たな」
「ですね!マスタにも見せたいなぁ……」
2個目でも作るかと相談していると、何やらがやがやと騒がしい声が聞こえヴィノスは振り返る。少し離れた場所で数人が集まり何かを始めようとしていた。
「なんでしょう?」
「あー、ちょっと待て」
じっと耳を澄ます。するとある単語が聞こえヴィノスはマリアを抱えるとその団体の方へ走り出した。何が何だかとマリアがきょとんとしていると、ヴィノスは軽く笑う。
「雪合戦だってよ。俺達も混ぜてもらおうぜ!」
「雪合戦!」
今日のヴィノスはいつもより子供のような笑顔が多いなと、同じく笑顔を浮かべながらマリアは頷いた。
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「ルシアおねーさーん!」
ぱたたたたっと走ってくる音に、ルシアはぴく、と耳を揺らして顔を上げる。
ロキアが走ってくるのが見えた。
どーんっとそのままでいけばぶつかりそうな勢いでロキアは走ってきて、あわやぶつかるギリギリのところで急ブレーキをかける。
「一緒に遊びましょ!」
ロキアは輝かんばかりの笑顔でそう言った。
ルシアはこっくり頷く。
手元では雪兎を作っていたらしく、何匹か雪の上にちょこんと乗っていた。
「わあ、かわいい!ルシアお姉さんが作ったんですか?」
「……」
その言葉にルシアはこっくり頷いて肯定の意を示す。
はっぱと赤い何かの実を使って耳と目を作っていた。
「お、友達か?」
「……こっちはロキア。友達。
こっちは玉城。保護者。」
そこに最近なめくじねこ株式会社で開発された使い捨てのコップに、暖かい飲み物を入れた玉城がやってくる。
つい先ほど遅れてアンバーに合流した玉城がルシアを任されたのだ。
ロキアが来る少し前に玉城はルシアにその旨を伝え、寒かったので飲み物だけでもと一旦離れたのである。
ルシアは玉城とロキアが知り合いかを把握していなかったため、とりあえずと紹介をした。
二人はルシアの想定したように知り合いではなかったので、彼女の紹介は無駄ではなかった。
ロキアは少し首を傾げたあとルシアと玉城を交互に見てハッとする。
「もしかして、ルシアお姉さんのお兄さんですか!?」
ルシアが言葉足らずなのとどっちも犬科故の勘違いである。
「ん?ああ、いや、」
「うん、そうだよ」
それに対して一応否定しておくべきかと玉城が血縁関係はないと言おうとしてルシアが遮り肯定した。
玉城はきょとんとした後満更でもなさそうな笑いを浮かべる。
それを見たルシアは何か変なことを言っただろうかと首を傾げた。
そんな二人をロキアは見ていて、そしてにぱっと笑う。
「仲良しさんなんですね!ロキアもそうだったんですよ!」
えっへんと胸を張るロキアを微笑ましく思った玉城が笑いながらそりゃいいことだと相槌を打った。
そこで突然すっくとルシアが立ち上がったので玉城とロキアはルシアに注目をする。
そしてそんな状態で「ゆきだるまを作る」と言い出しすたすたと歩き出した。
「ロキアも手伝います!」
その後ろをロキアが追いかけ、玉城は一口飲み物を飲んでから歩き出す。
平和だなあ、なんて彼は内心呟いた。
「転ばないように気をつけろよ~」
「……転んだら一番危ないの、玉城」
「おおっと」
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雪遊びといえば。
無論ながら雪合戦という選択肢がある。
運動が好きな人、或いは雪合戦が好きな人。
様々な理由でそれを選ぶ、それが遊戯であれ、真剣であれ─────。
「うわっぷ・・・!このー!」
「あぶなっ」
普段は世界中で、或いは身近で人助けに奔走する彼ら。
クウガとミーティアは無邪気に雪玉をぶつけ合っていた。
「私も仲間に入れろーっ!!」
「うわリベルさ・・・ぶっ」
「ちょっとま・・・あぷっ」
そこにリベルが乱入。彼女のパートナーであるアイネストはというと─────
「チ───(´-ω-`)───ン」
────リベルとの雪合戦で疲れ果てていた。
そのせいで矛先がクウガ達に向いたらしい。交流もあるし、融合種との契約者同士だし、遠慮がない。
クウガ達も乱入者に対して反撃。
実に楽しそうな一幕である。
一方その頃・・・
「そこぉっ!」
「やりましたね・・・!」
狸獣人の少年マサト、そしてセグロジャッカル獣人の女性シャーリアもまた微笑ましい雪合戦が行われていた。
シャーリアは寒いのは得意では無いのだが、マサトが勇気を出して、この行事に誘った際に・・・
『じゃぁ・・・僕のマフラーとか、貸しましょうか・・・?
大丈夫です!僕は慣れてますから!』
と言ってOKを貰ったのだとか・・・。
普通に防寒具は持っているのだが、マフラーを結局借りたのは、あえてその好意に応じたのかもしれない。
ともかくとして、およそ5歳以上程歳の離れた姉弟のような彼女らは楽しげである。
特にマサトは完全に少年ハート大暴走といった具合で疲れなど無いかのように夢中で遊んでいる。
それを理解してか、シャーリアは合わせているといった感じか。これ以上ないほどの微笑ましい光景だと言えるだろう。
─────・・・・・
「おー、楽しそうだな。よし、混ざるか!」
ホルストはそんな雪合戦を見て童心に返りつつあった。
我らが群を代表とする彼は非常にアクティブである。
「俺は行かないからな。明日動けなくなる。」
一方副リーダーであるクロヴィスは、雪合戦はしたくないそうである。
実際雪で遊ぶのは相当な体力を使うので仕方がない。
「オッサンみたいなことを言うなよ」
「オッサンだろ、もう。」
「・・・そうだったな。」
「・・・なんかごめん。」
・・・彼らはもう三十路を過ぎている。
見た目若いように見えるが、もう"オッサン"というワードに当てはまってしまう年齢に差し掛かっているという事実を会話にて突きつけられてしまった。
なんだか悲しくなってくる。
「・・・でもまぁ遊びたい事には変わらないので行くわ!」
それはそれとして、溢れんばかりの欲求は抑えられない。
さあ行こう、という時に────
「ああ、丁度良い所に。そこに居ましたか。少し要件があって話しかけて頂きました。」
この場に、帝国軍が誇る"赤騎士"ミコト=F=ジャックオーが立ち寄る。
帝国で行われたこの行事で、彼らの中隊も参加し、交流をしているので此処に居ること自体は不思議ではない。
群といえば、身寄りのない子供の為の機関でもあるが、同時に多大な戦果を上げた機関でもある。
故に、なにかその件で話でもあるのかと身構えた。
だが────
「貴公らが誇る群の代表8人、そして私の中隊代表8人で雪合戦をしてみませんか?」
「「はい???」」
─────赤騎士からの誘いは、彼らの予想を見事裏切った。
──────その後
「えー、そんな訳で試合形式で帝国軍と雪合戦する事になった。まっ、せっかくの交流だしこういうのもいいだろ!」
先程雪合戦をしていた6人と我らがリーダーのホルスト。加えてそれを聞きつけたヴィノスが来たことにより、群選抜チームは8人揃った。
もう既に、普段絡みがなかったメンツの挨拶も終えている。
「それはそれで楽しそうだしな、いいんじゃねえの?」
ホルストの言葉に同調するヴィノス。
唐突な帝国軍であるミコト中隊からの誘いに疑問を浮かべたメンツも居たが、いま大事なのは楽しむことである。
ヴィノスの言葉はこの場においてあまりに正しかった。
顔怖いけどいいことを言うのである。
「ヴィノスさ〜ん、がんばってくださ〜い!」
「おーう」
顔は怖いがそれはそれとして、応援するマリアにはメロメロであったという。
一方で
「これより、群選抜チームと私たち中隊の選抜で雪合戦を行う。」
ミコトは、契約している融合種ヘリオスと、諜報員のヨルム。その他5名の隊員を集めミーティングを行っていた。
遊びの場においていつもの調子に見えるミコトに、まだ新人の軍人は
(この場でも気を緩めない・・・凄いなあ)
と思っていたが、一方でヘリオスを初めミコトに慣れたメンツは
(楽しみで仕方ないんだろうなあ)
と見抜いていた。
そう、いまミコトの内心はかなり童心に帰っていた。
思えば、彼はまだ20歳なので仕方なくあるのだが、それでもギャップが凄い。
─────
いよいよ試合開始が近づいてきた。
ルールは既に互いに確認は終わっている。
縦におよそ35m、横に10mほどのエリアで、中心とエリア内に雪壁を設置。
エリアの半々を各チームの陣地とし、エリア中心から12m離れた所に各チームの小さな旗を設置。
これで場は完成した。
ルールは
・時間制限なし
・魔法の使用禁止(特例はあるが、このメンツなら関係なし)
・飛行及び浮遊は使用禁止
・各チーム、フォワードとバックスそれぞれ4人ずつ決める。敵エリア内に侵入出来るのはフォワードのみ。ただしフォワードが全滅した場合、バックスが敵エリア内の侵入は許可される。
・雪玉に当たったらその時点でアウト。エリア外に出なければならない。
・勝利条件は、敵チームの全滅か敵フラッグ奪取。
となる。
これにより各チーム役割がある訳だが、群のチームは
〇フォワード
・ホルスト
・クウガ
・リベル
・シャーリア
〇バックス
・ミーティア
・アイネスト
・マサト
・ヴィノス
となった。
一方で帝国のチームはミコトとヘリオスとヨルムは揃ってバックスである。
さて、そうなると審判が必要である。
そして空を飛べるとなおよし、広い視野がそれだけで確保出来る。
つまり、丁度よくその場に居合わせてしまっていたとある翼人が審判となるわけで─────
「実質肉体労働だ・・・」
─────クロヴィスは泣いていい。
後にイグニスはそう言ったそうな。
「文句言っても仕方ない・・・。
────試合開始!」
時間が来た。合図が来た。
雪合戦の始まりである。
「行くよ!」
真っ先に飛び出したのは群チームのリベル。
このチームに置いて精神、戦い方共に最も勢いのある彼女が飛び出すのは必然である。
突撃するリベルに対し、迎撃の為に雪玉を投げる。
しかし厄介な事に、回避を頭に入れていないと言われれば、そうではない。
「よっと・・・!」
帝国軍側の前衛と後衛が共に雪玉が飛んでくるのを見て大きく回避する。
「厄介ですねぇ・・・。彼女、相手するだけ徒労になりますよ?」
ヨルムが雪玉を作りながら悠長に言う。
何をこいつは呑気に、とヘリオスは思ってはいたが雪玉投げながらなので言う暇がない。
実際、リベルに集中してしまう形になる。
かと言って緩めれば彼女の突撃を許すことになるが・・・。
「解っている、だが彼女は本命じゃない。」
ミコトは冷静だった。
確かにリベルは厄介だ。だが彼女1人で覆すほど雪合戦は甘くない。
前衛が持ち得る弾丸(ゆきだま)は限られている。
つまるところ、その隙に攻め込む"誰か"が必要になる。
「─────ヘリオス、壁の右側に投げろ。私は左だ。」
「あ、うん。」
やばいこいつマジだ、と内心思ったヘリオスだがそんな野暮なことは言わずに、言われた通りに最も中心線に近い群チームのエリアにある壁、その右側向けて投げる。
ミコトも間髪入れずに左側へ投げる。
「あっぶな!」
「く・・・!」
そんな声が響く。
壁の向こう側の端にはホルストとクウガが居た。
これからリベルにターゲットが向いてる隙に攻めるという算段だったのだろう。
それを先にミコトに見破られた結果となった。
ギリギリ命中は免れたが、最前線にいるリベルが孤立してしまう。
「戻れリベル!!」
それを危惧したヴィノスは叫ぶ。
アイネストも雪玉を作る手を止めてしまう程に
「うわっ・・・!」
ホルストとクウガが出鼻をくじかれた隙に再びリベルに向けて前衛4人と後衛にいるヘリオスが一斉に雪玉を投げる。
リベルも自陣に逃げながら雪玉を投げるが、それが当たるはずもなく、あっさり弾切れに。
「やば・・・!」
迎撃する手を失った彼女が退避が間に合うか。
「させるかッ!」
クウガがそれを許すはずもなく、壁から飛び出してリベルに向けての攻勢を行う相手に雪玉を投げる─────
「─────それを待っていた、流星。」
「なっ──────」
─────しかし
無情にも、リベルを助ける為に飛び出したクウガに雪玉が命中。
投げたのはミコトだった。
「私が最も知っているのは君だったからな、厄介になるのは分かりきっていた故に潰させてもらった。」
「ッ・・・!」
クウガ、退場。
リベルは何とか自陣の壁に隠れることが出来た。
出鼻をくじかれた上に一人減る。劣勢は目に見えた展開だったが、群チームも簡単ではない。
「─────ほう。」
「悪ぃな、こっちもタダじゃやられねぇよ。」
「そういう事だ。」
帝国側の前衛が一人、その間に雪玉に命中した。
リベルの孤立を危惧したヴィノスが、咄嗟に前衛に向けて雪玉を投げ、ホルストもそれに合わせて雪玉を投げていた。
狙われた隊員の1人は回避しきれずに命中してしまった。
「これで互いに一人減ったか・・・」
さて、振り出しである。
お互いに一度退く、試合上は静かになった。
ミコトは万全を目指し、配置を固める。
対し、群チームは違った。
「賭ける。」
「どういうことですか?」
ホルストの一言に首を傾げる一同。
マサトの疑問符も当然だった。
「正直、赤騎士に頭で勝つのはキツイ。」
そりゃそうだ、と頷く一部の人々。
じゃあどうするんだ、と同時に思う。
「だから補給と防御全部捨てる。」
「おもしれぇじゃん。でもよ、やぶれかぶれって訳じゃないよな?」
ホルストの言葉に絶句する中、ヴィノスは笑ってそう言う。
勿論だ、とホルストは言う。
一応策ではある、だが賭けである事には変わらない。
その内容は、あまりにも思い切りが良すぎた─────。
それから一分も経たず、状況は動いた。
「なに・・・!」
ミコトは驚愕の声を漏らす。
群チー厶残った前衛3人が一斉に壁の左側から飛び出してきた。
それだけでは無い、後衛四人も前衛の為に用意した壁まで走りつつ雪玉を投げている。
結果、雪玉を補給する役目が誰もいない。
全員が自陣の最前線に立ち、前衛は敵陣営に入り込む。
それも左側から一斉に。
面で攻めても勝ち目はない。だから点で攻めるというのか。
「総員迎撃だ、壁からは出るな!」
ミコトは声を張り上げる。
相手が死力を尽くして攻めるなら、それに対して生半可な防御は紙屑同然である。
雪玉を補給する後衛のメンツも壁の向こうから迎撃を開始する。
前衛も、帝国側の陣営にある壁から迎撃する。
群のメンツは確かに強力ではあるが、後衛を含めた総合力は帝国側の方が上である。
事実、試合前に遊んでいたアイネストは特に、ミーティアも同じく身体能力は決して高くない。
人数は同じ、防御に徹していれば負けはない。
お互いに大きく戦力が削れるが、キルレートが逆転することは無い。
ミコトはそう踏んでいたし、それは正しかった。
事実、群チームと帝国チーム互いに次々に退場者の名前が審判から発せられる。
聞いている内容で帝国側の方が人数有利となってきたのがわかる。
ミコトは整理し始める。
乱戦となったが故に、状況が混乱してきたからだ。
群陣営に見えるのは3人、ヴィノスとマサト、前衛のホルスト。
こちらはミコトとヨルム、他3名。
退場者の数を考えれば群チームは4人─────
「・・・なに?」
ならば、あと人は何処にいった?
「────まずい!」
虚を突かれた。
もう遅い、帝国側の陣営にすでに入り込んでいる。
視線を群陣営の壁、その右側から帝国側の陣営に視線を流す。
何故、何故気が付かなかったのか。
速い。想定を遥かに超えた速さで走ってくる。
「気づかれた・・・!援護だテメェら!」
「行ってください
──────"シャーリアさん"!!」
その敵陣営まで駆ける人物の名は、シャーリア。
時間は少し遡る・・・。
『君が切り札だ。』
『私が・・・ですか?』
ホルストはシャーリアに向けてそう言った。彼女にとっては予想外だったようだ。
『さっき遊んでた時に見られてたとしても、恐らくミコトにとっては"君の本気だけは知らない"。』
『それなら・・・ヴィノスさんは?』
ヴィノスもまた、どれだけの実力があるかミコトからは把握されていない。
『そりゃ無理だ。俺が前衛に立つ時点で、元々前衛だった奴は全滅って事だろ?もうその時点で取り返しが付かねぇよ。』
『あ・・・。』
ヴィノスが代わりになってもいい、というのが無理なのは今回のルールにある。
"ただしフォワードが全滅した場合、バックスが敵エリア内の侵入は許可される。"
逆を言えば後衛は、前衛が全滅しない限り動けない。
仮に前衛が全滅し、後衛が全員残っていても、前衛も問題なくこなせるのはヴィノスしかいない。
その頃には人材の差でどうあっても敵わない。
だから前衛が残っているうちに勝たなくては行けない。
だからこその"シャーリア"なのである。
『頑張ってください、シャーリアさん・・・!僕もなんとか、サポートしますから・・・!』
マサトは力強くそう言って激励する。
そう言われてしまっては仕方がない。
いいや、仕方ないではない。
『分かりました・・・頑張ります!』
その期待には、応えなくては─────
時は戻る。
シャーリアの視界には、敵は映っていない。
そして雪玉すら持っていない。
狙いはたった一つ─────
「"旗"か・・・!」
真っ先に気づいたミコトがシャーリアに向けて雪玉を投げようとする。
「させる、かぁあああ!!」
マサトがそれに気づき、大遠投をする。
届かない、或いは通り過ぎる。
そう思われていた雪玉は、ミコトの手から離れた雪玉に命中、相殺した。
「なに・・・!?」
周りの隊員が気づく、急ぎ雪玉を拾って投げようとするがもう遅く─────
「・・・これが、民族最強です。」
─────既にシャーリアは帝国側の旗を手に、静かに勝利宣言をした。
「・・・試合終了、群チームの勝利!」
審判、クロヴィスの宣言により、ギャラリから一斉に歓声があがる。
「勝った!勝ったぁあ!」
「っと、マサトくん・・・はい、頑張りした・・・!」
感極まって走ってきたマサトを抱きしめるシャーリア。
微笑ましい限りだが後にマサトが恥ずか死する未来が待ち構えてるのは言うまでもない。
「・・・見事でした。」
「いや、賭けに勝っただけさ。」
その一方で、ホルストとミコトは互いに晴れやかな表情で握手を交わしたという。
実に白熱した試合だった。
負けた側も悔しさもあるが、運も絡んでいた。
何よりお互いに真剣だった。
この出来事は忘れられない思い出となるだろう。
まぁ、それはそれとして───────
「やっぱり気楽にやるのが1番だな!」
「やりましたね、このー!」
このあと、検討した帝国側の軍人も交流としてホルストたちと、ただの雪玉のぶつけあいをした。
今は休憩しているミコトもまた、後に参加したという─────。
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各々が各々なりの楽しみ方をする。
その裏で除雪作業をしていた面々の協力もあり、比較的平穏に暮らせる程度に雪が減った。
依頼としては成功を収めているわけだが、時間がすぎるのはあっという間、もう暗くなっている。
元々宿を取っていたのと暗い中帰るのは危ないからと言うことで、子供たちを含めた群の面々はその町に今日一日は留まることになった。
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