【雪解け】2

一部akua様から文章をいただきました。


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日はとっぷりと暮れていた。

星と月が青暗い夜闇の中で瞬いている。

街に敷かれるようにして残っている雪は、家からもれ出る明かりと木に下げられた装飾灯によって様々な色を鏡のように映していた。

この街には温泉なるものがあり、冷えた体を温めることもできる。

成人済みの人々は子どもを寝かしつけ、酒を飲むなんてのもありだろう。

無論、恋人がいる者などは各々手を繋いで観光を、なんてこともできた。

昼間とはまた空気の違う街の様子は少しロマンチックなんて言葉が似合いそうである。

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さて、この世界においてはどこに行っても星が見えないなんてことはないのだが、この街においては空気がより澄んでいるということもあって街から少し離れると星がよく見えた。

そして、クウガとミーティアは天体観測をしようと思い、綺羅綺羅しい街の外れ、望遠鏡と呼ばれるものがある塔にいた。

街の人々がよければと口にしていた設備の内の一つである。

二人は街の人々に貸してもらった毛布に包まり、空を見ていた。

流石に夜は昼間よりも冷えていて、けれど二人で寄り添っていればその寒さも軽減される。

時間は緩やかに流れていた。


「……平和、だね」


ミーティアがぽつりと口にする。

その言葉に思い出されるのは少し前、あの仮面の何者かが起こした事件である。

こうして二人が何も不安に思わず、ただ仲間と笑い合うことができたのは、紛うことなく奇跡だった。


世界が一度終わろうとしたそのことを、今はもう自らたちとアークノイツの三人しか知らない。


無論ただ喜べるわけではないが、だが、何を思っているのかただクウガは笑う。


「雪合戦楽しかったなあ」


彼はそうとだけ言った。

昼間の本気の雪合戦。

童心に返ったというには少々本気を出しすぎな雪合戦。

でもそんな風に遊べるのは、この場所が平和だからに他ならない。

大喜びで勝利を祝うのも、悔しがりながらも相手の勝利を称えられるのも、全て。


「ミコトさん、本当に強かったなあ」


「クロヴィスさん、明日筋肉痛で動けないかもって言ってたね」


「シャーリアさんかっこよかったね、旗持ってるとことか絵になってた」


なんて、他愛のない話を二人でしている。

二人は視線を合わせることなく、空を見上げながらそうしていたが、お互いの話を聞いていないわけでは勿論ない。

今は二人しかいない塔の中、穏やかな時間をクウガとミーティアは過ごしていた。

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「お〜、綺麗だねぇ!」

「ええ」


イルミネーションに飾られた通りを歩きながら、リベルは感嘆の声を上げ、アイネストをその姿を見て僅かに微笑んだ。自然と二人の距離が縮まり軽く指先を絡め、その美しい光景を楽しんでいる。


「今日はアイネストの珍しい所見れて楽しかったな〜」

「俺の珍しい所ですか?」


何をしたかと今日の行動を思い浮かべながら、アイネストは首を傾げた。その様子にリベルはニコニコと笑みを浮かべながら、彼が気づいていないことも珍しいと軽く笑い声を上げる。


「ほら、クウガ君とミーティアちゃんとは普通に話してたじゃん。いつも私だけか、私越しに話すだけだったのに」

「……確かにそうかもしれません。同じ融合種ですし、何より彼等は俺が話す事を避けていていても、不快そうにはしませんから」


アイネストはなるべくリベル以外と会話をしたくない。自分は彼女の為に存在し、それ以外は特に必要ないし興味もないと考えているからだ。


「2人とも優しいからね。あとからかうと面白い!」

「それはやめなさい」

「ちぇ〜、まぁいいけど。代わりにアイネストをからかえばいいだけだし!」


そう言いリベルはアイネストの腕に自分の腕を回しぎゅっと近づく。急接近、そして腕に柔らかい感覚があるとアイネストは赤面する。アイネストがじっとリベルを睨むと、更に腕に擦り寄ってきた。


「公衆の面前で、恥ずかしいですよ……!」

「いーじゃんいーじゃん。ラブラブアピールしようよ」


むふふと笑うリベルは完全にアイネストをからかっている。それにアイネストは立ち止まり大きくため息をつき、怒ったのかとリベルが見上げると急に視界が暗くなり唇に柔らかいものが触れる。


「──」

「ラブラブアピールするんじゃないんですか?」


口付けられたとリベルは理解すると、ぽかんと口を開けたまま固まった。声をかけてもフリーズしたままのリベルにアイネストはやり過ぎたかと彼女の顔の前で手を振る。

リベルはハッとして耳まで赤らめるとぎゅんっとアイネストから距離を取り、顔を両手で覆ったまま「あー!」と声を上げた。


そこに人が近づく気配がし、アイネストがリベルの方に寄り道を開けようとすると、知った顔に会い今度はアイネストが心の中で叫びを上げる。


「おい、テメェら……何やってんだ」

「…………いえ、別に」


ヴィノスはマリアと手を繋ぎながらジト目でリベルとアイネストを見つめる。先程の行動を見られていたとアイネストは恥ずかしさやら後悔やらで顔を背け、そこにマリアが追い打ちをかけた。


「キスしてましたね!お二人は仲良しなんですよ、ヴィノスさん」

「へぇ〜、路チューするほど仲良しかぁ。羨ましいこったなぁ、俺は恥ずかしくてできねぇなー」


棒読みでアイネストの肩をぽんぽんと叩きながらゲス顔を浮かべるヴィノスにアイネストは軽く睨みつけた。その程度で動じるはずも無く、更に笑みを深めるその姿はまさにチンピラである。


「なんかヴィノスくん昼間と違くない?」

「誰が「ヴィノスくん」だ、気安く呼ぶんじゃねぇよ」


舌打ちをしていつの間にか復活していたリベルを睨むヴィノスは、流石に雪ではしゃぎ過ぎたかとその場を立ち去る。


「じゃあなラブラブカップル。砂糖吐いちまう」

「ヴィノスさんお砂糖口から出るんですか!?知りませんでした……!」

「そういう意味じゃねぇよ……」


是非お菓子作りの時出してみてくださいと言うマリアを止めながら、ヴィノスはマリアの頭を撫でる。

恋人繋ぎは手の大きさの違いがあり過ぎて出来ない、口付けようものなら速攻通報されると苦笑いを浮かべるヴィノスを、マリアは不思議そうに見上げた。

その綺麗な瞳に吸い込まれるように体を屈めたヴィノスは、マリアの額に軽く口付け、何も無かったように歩き出した。


「まぁ、これぐらいだろうな」

「?、何がですか?」


自分達のラブラブアピールは、と先程聞いたリベルとアイネストの会話を思い出しながらヴィノスは小さく笑った。

マリアはヴィノスが何を考えているのか分からなかったが、笑ったのを見て楽しそうなら良かったと同じく笑う。


「キスの事ですけどいつもみたいに口にはしないんで──」

「さぁ!そろそろ寒いし戻るか!あー寒ぃなぁ!!」

「あ、はい!」


誰にも聞かれてないよなとヴィノスが焦るなか、確かに少し寒いかもしれないとマリアは手を強く握り直した。

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アンバーは温泉に浸かっていた。

室内の湯ではなく、露天の方にいる。

湯の熱さと外の寒さが丁度いい塩梅だ。

この文化はかなり昔にソウリュウ出身の者から入ったものらしい。

当時はこのあたりもまだ発展しておらず、岩肌に滾々と沸いていただけだったそうだ。


そして今、そんな温泉の中にいる彼女の近くには酒。

珍しくルシアとジュリア、両者とも姿が見えず、彼女は一人月見酒をしていた。

アンバーは独り言を言うタイプではなく、ただ黙々と何かを考えながら月を見上げている。

常に人を侍らすことを好む彼女だが、今はその気分でもないらしい。

彼女が何を思っているのかはわからない、ただ静かだ。


僅かな水音が響いていたが、それが崩れ水面が揺れた。

アンバーが目を動かして視線を向ける。

そこにいたのはヴァシリーサだった。

彼女はアンバーと目が合うとにこっと笑うも、アンバーが今はそっとしておいてほしいと思っているのを感じ取ってか、特に声をかけることはしない。

人一人分のスペースを開けて、彼女の隣に座る。

アンバーは数秒思考を巡らすとふっと息を吐いた。

そしていつもの薄ら笑いを浮かべるとやあ、と声をかける。


「いい夜だね」

「そうですねえ」


相槌を打つヴァシリーサに、アンバーは近くの酒と空いた器を取る。

君も飲む?と首を傾げれば、ヴァシリーサは少しだけ、と頷いた。

ヴァシリーサに持たせた器に酒を注いでやりながら、アンバーは肩をすくめる。


「なんだか今日は良く会うね」

「運命ですかね」


アンバーはヴァシリーサの言葉を笑いで流した。


「お菓子はみんなに配れたの?」

「一通りは。でもまだ会えてない子いるし、少なくともここにいる子には配りたいですねえ」

「そう。……ああ、そうだ。ルシアが美味しかったってさ。」


アンバーが思い出したように付け加えた言葉にヴァシリーサは「それはよかった」とにこにこ笑う。

それから沈黙が訪れる。

特に話すこともないのか、二人して酒を飲みながら月を見ていた。


途中のぼせたヴァシリーサが倒れ、アンバーが脱衣所に転移させたとか、させてないとか。

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ジュリアは一つあくびをした。

先ほどまで眠っていたが、扉が開いた音に気がついて起きたのである。

ルシアが中に入ってきたのを見て、そういえば同じ部屋で寝ていたはずのアンバーが見当たらずジュリアは口を開いた。


「ねぇルシア、アンバー様どこか知ってる?」

「アンバー、お風呂入った。」


ルシアの返答になら自分も、と思いかける。

でもルシアがジュリアを呼ぶためではなく戻ってきたということはもしかすると一人がいいのかもしれないと思い直した。

ベッドの上でジュリアはもう一度あくびをする。


「お菓子食べる?」


ルシアがその近くに寄ってお菓子を差し出した。

ジュリアはんーん、と首を横に振る。


「今はいいわ。」

「そっか。」


差し出したお菓子をルシアは自分の口に放り込んだ。

もくもくと口を動かしている。

「夜だからあんまり食べちゃ駄目よ」なんていいつつ、そういえば玉城は別の部屋だったな、と思い出した。


「玉城は今何してるのかしら、仲間はずれみたいでちょっと可哀想だわ」

「ねてた」


ルシアはここに戻ってくる前に、玉城もと思って玉城の部屋を覗いたのだ。

だが残念なことに玉城は既に寝ていた。

昼間ルシアとロキアによって遊びに借り出されたので既に疲れているらしい。

子どもの体力に大人が追いつけないのはよくあることである。

なのでルシアは大人しくこの部屋に戻ってきたのだった。


「そう。私も寝ちゃおっかな~」

「えっ」


布団に潜りながらジュリアがそういうと、ルシアはぴょんっと耳を跳ね上げさせしょんぼりと垂れさせる。

その様子を見ずとも察したのだろう、ジュリアがくすくす笑った。


「冗談よ、まだ起きてるわよ。

でもお菓子はそこまでにして歯を磨いてくるべきだと思うわ、ルシア」


すっかりおねえちゃんである。

ルシアはぷぅ、と頬を膨らませるも、それが正しいのはわかっているので渋々まだあるお菓子に伸ばしていた手を引っ込めた。

ぱすぱすと尻尾でベッドを何度かはたいてから立ち上がり、彼女は歯を磨いてこようとベッドから降りる。

洗面所からルシアが戻ってくる頃にはジュリアが眠気に負けていて、ルシアは更に頬を膨らませた。

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その頃、コメットとイグニスも酒を飲み交わしていた。

無論彼女らは夫婦とはいえ男女なので、町の宿泊施設内にあるバーのような場所にいたが。


コメットはつい数ヶ月前に群における成人年齢に達したため、もう酒は飲めるようになっている。

だが、まだ自分がどの程度飲めるのかを把握してないのではないかとクロヴィスが心配しており、酒を飲み過ぎないようにと少し前まで近くにいたクロヴィスに散々釘を刺されていた。

ついでにイグニスもクロヴィスにちゃんと見張ってくれと言われている。まるで保護者だ。

ちなみに彼はホルストが酒を飲まないようにと止めるため今は二人から少し離れた場所にホルストといるが、それはさておき。

実を言うとコメット、これが初の飲酒ではない。

白星やイグニスには結構な頻度でバレていたが、クロヴィスらには報告していなかったらしく、バレていないがリーダーやその他の人間の目をかい潜って度々少量ではあるもののアルコールを摂取していた。

アルコール入りのチョコなんざ序の口である。


「あー、うまいなあ。カクテルが一番だけど」


そんなことをいいながら酒の肴として持ってきた菓子を齧るコメット。

食いすぎるなよ、と言いつつもイグニスはそれを止めない。

勿論あんまり食べ過ぎるようなら没収も考えてはいるようだが。

イグニスも勿論酒を飲んでいる。

この地域特産の酒だ。

度数は高めのものを割って飲んでいる。


少しばかり時間が経って、マリアが近くに来る。


「マスター、こんばんは」

「おっ、マリア。ここ座る?」


先ほどヴィノスと一緒に戻ってきたが、ヴィノスは一旦シルフィに預けたロキアの様子を見に行った。

コメットは席を少しずれ、マリアを隣の席に座らせる。

彼女らはまた酒を飲み始め、マリアはふと自分の目の前にあるコップにオレンジジュースらしきものが入っていることに気づいた。

そこでそういえば喉渇いたなあ、なんて思いながらコップを手に取る。

とはいえこれは恐らくコメットの飲みさしだろう。

勝手に飲むのは行儀が悪いかもしれない。

そうだ、許可を取れば問題ないだろうとコメットを見た。

コメットは若干へべれけになりかけている。

イグニスはつまみを齧りながら何事か別のことに気を取られているらしい。


「ますた、このオレンジジュース飲んでいいですか?」

「うん?いいぞ~」


そう許可をしてしまってから、ふとオレンジジュースなんか俺頼んだっけ?と首を傾げるコメット。

マリアはオレンジジュースらしきものを飲み干した。

そういえばオレンジカクテル俺用意してたっけとマリアの方を見るコメット。

そこにはなんと。


「あっやべ」


コップを握り締めた赤い顔のマリアがいた。

やっちまったと悟るコメット、そこで事態に気がつき呆れ顔でコメットを見るイグニス。

副リーダーの梟にバレたら大目玉である、コメットは少しばかり青ざめた。

さて、酒が入ったことにより体温が上がり、寒くなったマリアはコメットに擦り寄っている。

そこに丁度マリアを探しにきたヴィノスがやってきた。


「こっちだ」


とヴィノスを呼ぶイグニス。

彼は事情を話し、自分はコメットの様子を見なければならないからとマリアを渡した。


「悪いな」

「いや、別に?役得ってやつだろ」


マリアは赤らんだ顔のままヴィノスにぐりぐりと擦り寄っている。

ヴィノスは若干険しい顔だ、頑張れヴィノス。

そんなこんなでヴィノスがマリアを連れて行き、残されたコメットとイグニス。

イグニスがコメットを見ると、なおも酒を飲んでいた。

いい飲みっぷりなのはいいのだが……


「……おい、飲みすぎるなよ?」

「わ~ってるって~」


最早返事のテンションがおかしい。

これ以上は駄目だなと判断してコメットの近くの酒を没収した。


「なにすんだよ~!」

「飲み過ぎだ、それで最後にしろ」

「なんだよう、子ども扱いしやがって!」


ぷすぷすと怒っていたコメットだったが、ふと口を閉じ、うっと声を漏らす。

イグニスは全てを察した。

眉間にしわがよる。


「おい、ここで吐くなよ?」

「きもちわり・・・・・・」

「……」


イグニスはこめかみに手を当てながら、仕方ないと席を立ち、コメットの介抱をしに回った。

いっつもこんな調子であるが、惚れた弱みと言うやつだろう。

ともかく、彼はとりあえずとコメットに水を握らせたのだった。

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雪解け

第二部 完

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