【星を砕く呪い】2

一部文章アクセルさんとakuaさんよりいただきました。

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─────遠い、夢を見た気がする。


"見知った天井で"

"馴染んだ布団で"

"当たり前のような自室で"

"いつものように目が覚めた"


時間は────もう少しで"登校時間"───!?


「ヤバい!?遅刻しちゃ─────!?」


僕は飛び起きて早速吊っていた制服を下ろす。

さあ速攻で着替えてやろうと、服を脱ぎ始め───


「────ミーティアはやく!遅刻するから!」


─────そんなタイミングで、ひとりの少年が部屋に入ってきた。


「「・・・」」


沈黙が流れた。

彼は口をあけてドアを開けたままフリーズし。

ミーティアと呼ばれた僕は下着姿で徐々に顔を真っ赤に。


ようやく我に帰った彼は、わたわたしだし・・・


「えと、ごめ・・・!」

「〜〜〜ッッ!!!!」


でも、もう遅い。


「─────クウガの馬鹿ぁあああああ!!!!」


朝一番、僕の罵倒が響き渡った。


桜が散り始めた季節。

いつもより少し違う1日の始まり。

僕達は、"高校生"になっていた。


近所の、偏差値も普通な高校。

揃って僕達は、そこへ行くと決めていた。

クウガと僕は幼なじみで、家も隣。

小学生の時からずっと、一緒に学校に行っていた。

勿論、恥ずかしくなって一緒に行ってない時期もあったけど・・・。


それでも、いまはもうその辺の人達は付き合ってることもバレちゃってるから・・・ある意味では、堂々としていられる。


「ごめん・・・」

「・・・次はちゃんとノックしてね。」


とはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。

下着姿を見られた僕も、見たクウガも。

今はこうしていつもより半歩離れて頬を赤くして歩く。


「えーと、今日は、何かあったっけ?」


少しでもこの空気をどうにかしたくて別の話題を切り出す。


「何もなかったような・・・。」

「・・・そっか」


しかしまるで話題が続かない結果となった。

こんな空気のまま登校したものだから────


「「「お前・・・遂に初めてをやったのか!?」」」

「「「遂に!?どっちから先に誘った!?」」」


「「なんの話!?」」


─────こんな風に、同級生に問い詰められる。


クウガは男子の友達に囲まれ。

僕は女子の友達に囲まれ。

同じ教室で別々に尋問を受けている。


「隠すなよー。親公認のカップルで遂に一線超えたと思ってな?」

「大丈夫だった!?痛くなかった!?」


一線超えたとかそんなわけがないのだが、仮にそれが広まったら更に居ずらくなるので流石に誤解だと言いたい。


「違うから!ただ・・・朝、ミーティアを起こしに行ったら着替中なの見てしまって・・・」


なんと、クウガがホントに起きたことをつい言ってしまった。

それに対して同級生たちは・・・


「「「は???」」」


男女問わずに全員でそう反応した。


「なんだよ、ただのラッキースケベかよ」

「しかもそのくらいか・・・バカップルめ」

「つかしれっと家にあがってんじゃねーか」

「口の中が甘い、ブラックコーヒー飲みたい・・・」


口々に言いながら散り散りになる同級生。

助かったと見るべきかどうなのか、非常に複雑な気分だった。


「────ラッキースケベ、か。確かにそうだな。」

「おっと??」


クウガが俯いて呟き、僕はクウガを見る。

不味い─────!


「そうだ!俺は何をのほほんとしてるんだ!わざとで無いにしろ女の子に恥をかかせた罪は死に値するだろう!!誰か!刀持ってないか!?」


クウガがそう叫び出した。

それを知っている同級生は流石に不味いと思ったのかクウガを押さえつける。


「あるわけねーだろ!法治国家なめんな!?」

「てか落ち着け!そんくらいで死のうとか考えんな!?」

「離せ!!ならミーティアにはなんて詫びればいいんだ俺は!?」

「次は気をつけてねって僕は言ったよね!?」


朝のホームルーム前、騒がしくて・・・飽きない時間が経っていく。


「────ラッキースケベなど死ねばいいッ!!」


そんな叫びが、学校に響き渡った。



─────昼食時


「ごめん、取り乱した・・・」

「まったくもう・・・」


屋上に上がる階段で、僕らはお互いが持ってきたお弁当で昼食をとっていた。

先生に怒られたクウガは冷静になって、"いつものように"授業を受けた。

そして昼食時に至る。


「なら、クウガにら罰ゲームを与えますっ」

「ば、罰ゲーム・・・?」


すこし怖がるクウガを前に、僕がした行動は・・・


「・・・あー」

「・・・え?」


口をあけて、ただ待つことにした。

クウガはわけが分かってないのかフリーズしている。

数秒待っても動く気配がないので・・・


「・・・何か食べさせてよっ」

「ご、ごめんっ!」


流石に答えを言うことにした。

クウガは慌てて、卵焼きを差し出す。

クウガの持ってくる卵焼きは美味しいからね、なんでも良かったけど、これはとても嬉しい。


「ぁむ・・・!・・・おいひー・・・!」


その差し出された卵焼きを僕は食いついて味わう。

その様子を、何故だかクウガは微笑みながら見ていた。


「・・・どうしたの?」


思えば、僕は少しやらかした気がする。


「可愛いな、って」

「ん゛!?」


クウガのごく当たり前かのような物言いに、僕は危うく喉に詰まらせかけた。


「待って!?今の一連で何でそうなったの!?」


更に僕はやらかした。

追求するべきではなかった。

分かっていたはずだ────


「食べ物待ってる姿が雛鳥みたいで可愛いとか、美味しそうに食べる姿が可愛いとか、正直なところが可愛いとk」

「わかった!もういい!いいから!僕のハートが爆発しちゃうからあ!」


────こいつは根から天然タラシということを。


「ぁあああぅううう・・・聞くんじゃなかったぁ・・・クウガのばかあ・・・」


もう頬が熱くて仕方ない。

どうしてこう、気持ちを伝える時だけは恥ずかしがらずに言えてしまうのか。


「・・・はい。」


お返しに、僕は自分が持ってきたミニハンバーグを差し出す。

それをクウガは迷わず食べた。

こんなことがお返しになるとは到底思ってない。


「ん、美味しい。」


当たり前のようにそんな風に言ってくれる。

僕が作ったものだからか、嬉しさは隠せなくて・・・


「・・・なら、よかった。」


笑みを浮かべてしまうことに、ちょっとだけ悔しくて、しかしとても幸福"だった"。



─────下校時間。


僕らは夕暮れ時に、2人で帰り道を歩く。

入学してから"二週間"。

騒がしくて、楽しくて、平和な僕らの生活。


でも、どこか違和感を感じていた。


"こんなに平和だっただろうか"


まるでこの生活が当たり前のに、否定されてるかのような思考が頭を過ぎる。

それを僕は繰り返しながらも、誰にも言えないでいた。


「どうしたの、ミーティア。」

「んぇ?」


ぼー、としていたのか、クウガにそう問いかけられたら間抜けな声を出してしまった。


「な、なんでもないよ!?」

「・・・ミーティア」

「ぅ・・・。」


やっばり、クウガには隠しごとは出来ない。

いつも、僕が何かを抱えることを見逃さない。

支え合って生きると決めた時から、ずっと。


「・・・あのね。」


だから言おう、きっとクウガなら────


「危ない!!」

「え─────?」


クウガが飛び出した先には・・・車に轢かれそうな子猫がいた。


「クウガ・・・!」


僕は動けず、見ることしか出来なかった。

車は急ブレーキし、クウガは子猫を抱えて反対側へ転がる。

事故にはならず・・・子猫は助かった。


「・・・よかったぁ。」


諸々の安心感で僕はへたりこむ。

この後、運転手からは謝罪を受けて、僕らも謝った。


車が去っていく、子猫は逃がして、再び僕らは帰り道を歩こうとして────。


「・・・クウガ?」


クウガが、遠くを見たままで立ち止まっていた。

不安になる。

クウガが何処かに行ってしまいそうで・・・

そう思ってクウガの背中に触れた刹那─────。


──────欠けた過去(きのう)を、見た気がした。


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ピーピーッ


手探りで目覚ましを探しアラームを止め、数秒目をぐっと強く閉じた後ゆっくりと開く。

朝には強い方で、むくりと体を起こすとすぐにベッドから降り軽く伸びをした。

今日は休日、しかし特にやることはない。そもそも趣味が特になく、強いていうのなら筋トレぐらいだろうか。

消防士という仕事柄体力づくりがなっていないといけない職なので、趣味と呼べるかは微妙だとどうでも良いことを考えながら歯を磨いていると、リビングの方から音が聞こえる。


(このタイミングは……)


急いでうがいを済ませ音の発生源に向かうと予想した通り聞きなれたスマートフォンの着信音で、軽く咳ばらいをすると通話を開始して耳に当てた。


「アークノイツ!私と遊べ!」

「うるさいぞ、全く…お前はいつもそれだな」


大きな声に顔を顰め軽く耳からスマホを離す。

この友人はいつも声がデカい上に自分が休みだと知るとすぐにこうやって電話をかけてくる。

実家が近所で更には小中高ずっと同じ学校だったため、幼い頃からの付き合いなのでもう慣れたのだが。


「今日はゆっくりしたい、また今度にしてくれ」

「そうか……そう言えば恋人とは最近どうだ?」

「切るぞ」

「ぇ、あ、ちょっと!?」


通話を切り溜息を吐きながらスマホをテーブルに置く。

友人はすぐ恋愛話を聞こうとしてくる。恋人ができたと打ち明けたのは失敗だっただろうかとキッチンに向かい朝食の準備をした。

コーヒーを淹れ、クロワッサンを食べながら新聞を読む。いつも通りの朝だ。

さて、ゆっくりとすると言ったがこのまま読みかけの本を読み飽きたら寝てしまおうか、それとも外に出て散歩でもしようか。

どちらもいいが今日は家で過ごそうと脳内会議で決定すると、新聞を置きコーヒーを一口飲む。


趣味はないと思ったが、そういえば本を読むのは好きだなとページを捲る手を止め窓の外を見た。

コーヒー片手に読書をするこの時間は平和だと僅かに頬を緩めたアークノイツは、再び物語の世界へ入り込む。

主役は強大な力を持つ敵と戦う戦士。

仲間と協力して悪に立ち向かい、ライバルと共闘し、時には一度戦った敵さえも味方に引き入れる姿はまさに希望の光だと言えるだろう。

憧れ。消防士という職はこの主人公のように命の輝きを守る事に繋がるのではないかと、ヒーローに憧れたアークノイツの少年時代からの夢だった。

それを叶えられた自分は幸せ者なのだろうとまたページを捲る手が止まる。


二回目の着信音。友人は一度断られれば何度もしつこく電話してくることはない。

画面を見れば職場の名前が表示されており、アークノイツは気を引き締める。


「アークノイツさん!!休日に申し訳ないんですけど──」

「火災か?」

「は、はい。今日が当番の隊員が一人怪我をしてしまって」

「詳しくは移動しながら。すぐに消防署に向かう」


車を出し、ホルダーにスマホを置くと火災の状況を詳しく聞く。

非番に呼び出されるのは珍しい事なので、それほど危険な状態にあるという事だろう。


「ショッピングモール内で火災、原因はイベントの準備中に起こったと思われます」

「イベント準備か……」


火災原因を考えるのは自分たちの仕事ではないと一旦考えるのをやめると、はやる気持ちを抑えながら車を走らせる。

幸いアークノイツの家と消防署は近い。自分が代わりとして呼び出されたのはそういう理由もあるだろうと考えていると消防署に着き急いで車を止めた。

もう準備を済ませている仲間を一瞥すると署内に入り、何度も訓練した素早い動作で救護服に着替える。

オレンジの救護服、レスキュー隊の証だ。

隊列に並ぶと点呼を取り、消防車に乗り込むみ現場に向かう。

アークノイツは深く深呼吸をした。そうしなければこの不安な気持ち…恐怖に勝てない気がしたのだ。


(俺が不安がっててどうするんだ……!)

「アークノイツ、調子が悪いのなら残ってもらうが」

「…いえ、もう俺は大丈夫です」


少し前、アークノイツは救護中に爆発に巻き込まれ大けがを負った。

彼が背負っていた男性は不運にもその爆発でなくなってしまったらしく、のうのうと自分だけが生き残ってしまったことにアークノイツは自分を責める気持ちで寝れない日々が続いた。

しかし、生き残ったのならこの命でもっと沢山の命を救えばいいのだとリハビリを重ね、出勤要請が出ても現場に向かえないもどかしさに耐えながら、やっと最近現場復帰したのだ。

その事故からレスキュー隊の中でも精鋭と言える部隊、ハイパーレスキューからは降ろされてしまったが、今はそこの戻ることが目標と言えるだろう。


「着いたぞ」

「はい」


火災現場に着き、消防車から降りると一瞬呼吸が止まったように感じる。

ごうごうと炎が上がる建物。既に逃げ出せた人たちは救急隊員が対応している。


あの時と似ているのだ。あの大爆破が自分を襲ったあの時と──


(手が震える……)


ドキドキと脈が早くなり、汗が流れる。

しかし、立ち向かわなくてはならない。こうやって自分が恐怖に飲まれそうになっている瞬間にも、建物内には助けを求める人たちがいるのだ。

アークノイツの”生きる”は自分のためだけではない、助けを必要としている人に手を差し伸べることだと、自分がそういう生き方しかできないと理解している。


「メット着用!」

「よし!」

「現在時間は10分、作業時間10分、退出時間20分!」


じりじりと炎の熱さを感じる。

それが自分を襲うのではないかという気持ちが一瞬湧くが、それはすぐにかき消される。

自分の身に纏うオレンジ、それが勇気をくれるのだ。


「これより侵入!」


隊長の合図に従い、ショッピングモール内に入ると指示された場所に向かう。

あの時の現場と状況が似てようが関係ない。まだ早い脈に若干の苛立ちを感じる。


「誰かいませんかー!誰かいま──」

「こ、っちだぁ……」

「生存者確認!」


声のした方に早足で向かうと男性が倒れており、足が崩れた瓦礫に挟まっている。

それ以外にも軽傷を負っていて、必死に助けを求め手を伸ばしていた。

一緒にいた隊長に目で合図して頷き合うと、瓦礫を持ち上げようと力を入れる。


「イチ、ニイ、サン!」


大人二人でやっと落ち上がるという大きさで、動かされたことに男性は痛みに顔を歪めた。


「いだぃ…ぃ…!!」

「もう少しの辛抱です、もう少し!」


持ち上げた瓦礫を素早く、しかし慎重に移動させ降ろすと男性の傍による。

男性は恐怖で混乱しているのかアークノイツの腕を強くに掴むともうダメだと繰り返し涙を流し始める。死に直面したのだ。こういう状態になってもおかしくは無い。


「助け…て……くださ…い!助けて…!!」


『騎士様…!!助け…てくだ、さい!!』


ふと、昔見た映画のワンシーンを思い出した時のように曖昧な記憶が頭をよぎり、隊長が自分に話しかけているが声が遠くに聞こえた。


怪我を負い、必死の形相で誰かに、いや、自分に?助けを乞う人。


確かに、自分に沢山の人が助けを求めていた。いつかの現場の記憶だろうか。

そうではない……。そうではない?

なぜ自分はそう思う?なぜそう確信できる?


分からない、なにか、何か重要なことを、忘れて──


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砂漠の地で、それに見合わぬ大樹が顕現した。

僕達は急いで向かった。

見た事のない、惨劇が広がっていた。

竜族たちは荒れ狂い、人々を食い荒らして血肉が舞う。


迷っている時間なんて無い。

僕らは"融合"して、それに立ち向かった。

多くの犠牲を産んでしまった。

助けられなかった人達は山ほどいた。

その上でも、僕たちはようやく大樹にたどり着いて


「『スターライトォ・・・ブレイカァアアアア!!!』」


その場にいた、仲間たちでその大樹を壊すことが出来た。


でも──────


「きみらは試合に勝って勝負に負けたんだからね!」

「気づいてるかもしれないけど、もうこの世界は終わりだって!」

「楽しいね、さっきよりすごい地獄絵図が見れるよ!」


嗤う、嗤う、嗤う。

元凶が嗤う。

意味がよく分からなかった。

正確には、理解が追いつかなかった。

だがこれだけは分かる。


"無駄だ"

"無意味だ"

"無価値だ"


そんなことを認めたくなかった僕らだが・・・最悪なことに、それが正しかったといえる結末が待っていた。


白星さん。

僕らがいる"群"という組織に存在する、僕らはよく知らない存在。

でもこの一件で確信した。


「私はこの世界を愛している

だから…ここで終わらせるつもりはない」


微笑んでくる、小さな星。

ああ、この人は神様に近い人なんだって。

この人が獣の姿になっても、僕の印象は変わらなかった。


《我は世界の楔、世界の守人―――》

《今此処に、王の権能を以てして―――》

《我が燈火を捧げ、此世を繋ぎ留めん》


詠唱を継げたあの人の身体は崩れ去った。

当然といえば、当然だった。

あの状況からどうにかする"一手"が、軽いはずが無いのだから。


《自己犠牲による救いだなんて…

きっときみたちは嫌いだろう。》


当然だ、と言えるなら言っていた。

意識が薄れる。戻される。

抗うすべなんてない。

でも、それでも・・・あなたにそれだけの事をさせてしまったからには、必ず報いるから。


────どうか、待っていてください。


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「さて、どうしたものかなあ。」


あっさりと。

あまりに簡単に自分の積み上げてきた破滅のかけらが白紙に戻されてしまったものだから。

語り部はその場に横になったまま岩肌の天井を見つめていた。

ただただ同じ手を使っただけでは、きっとまた戻されてしまうだろう。

語り部は一度意識を自分の心中に沈める。

それは自分が暗躍したときだったり、或いは何もしていないときだったり。

世界は幾度となく巻き戻しをしていたが、その原因が漸くつかめたのだ。

くつくつと笑いを溢す。


「今度こそ次はないね」


身体を起こし、目の前の球体を見る。

その中には三人の、語り部にとっては敵の存在が閉じ込められていた。

三人っぽっちを閉じ込めたくらいじゃあなあと球体を見つめる。


「……まあ、幸せな夢を見せるくらいはしてあげるよ。」


元々ただの腹いせ目的だ、何か彼らにしようとも思わないししてもらおうとも思わない。

……そう、思っていた。


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「・・・クウガ」

「・・・ミーティア」


お互いの視線が向かいあう。

ああ、やっぱり─────クウガも思い出したんだ。

僕らはあのあと、遠い願望(ユメ)を見せられ続けていた。


「・・・これが、俺たちの望みだったのかな。」

「・・・そう、かもね。」


クウガの言葉に、僕は肯定するしかなかった。

僕だって、戦うのは怖い。

傷つくことも、傷つつけることも。


──────それでも、あの時に助けられなかった人たちを助けたい。


「・・・行こう。」

「・・・うん。」


楽しかった。

本当に、楽しかった。

本当に、夢じゃないかのような日々だった。

でも、それはもう終わり。


驚くほど、交わす言葉は少なかった。

お互いがやるべきことが分かっている。


手を繋ぐ、僕らが混ざり合うのがわかる。


「「・・・融合!」」


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ぱきり。

ひびが入る。

語り部は目を瞬かせた。

彼らが出てこようとしているのだと理解するよりも先にそれを修復しようとして、しかし視界に移る夕焼けの光に気を取られその隙にその光の持ち主が語り部との間に現れる。

赤い瞳はじっと語り部を見つめた。


「……旧世界の遺物のくせして、本来干渉しちゃいけない存在のくせして。

彼らの味方をするんだね?」


赤い瞳の彼女は目を細めながら何も言わずに笑う。

そうするうちにもひびは大きく、深くなっていった。


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星光の粒子になって、クウガとミーティアは融合して行く。

それを機に、この願望(セカイ)が壊れ始めた。


青い星光から、七色の光に変貌する。

視線は遥か空へ。

彼らは彼らの世界へ還る為に。


七色の恒星は、その場で何よりも煌めいた。

願望(セカイ)は破れ、崩れ去る。

原因は彼らの願望とは、また別の願望。

それは、夢では叶えられず、"現実だからこそ成就するもの"。

"誰かの笑顔を守りたい"ということにほかならない。


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甘い夢は、優しい檻は粉々に砕け散った。

それと共に夕焼けの翼の天使は消えて、その代わりに三人の、閉じ込められていた彼らが現れる。

この騒動という名のはた迷惑な八つ当たりは、決着の時を迎えていた。


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夢の終わり、救えなかった過去(きのう)に彼らは踏み入る。

たどり着いたのは、世界の終わりを見せつけた場所。

水晶の大樹と地底湖。

そして──────


「──────ここまで綺麗にご破算にされちゃうかあ。」


─────"語り部"がいる。

見た目こそ、あの時とは違うが・・・彼らはその存在を知っている。

今は黒い髪の男の子という姿だが・・・もはや彼らにはその見た目も意味を成さない。


『誰だろうと、なんだろうと・・・!』


月光は煌めく、その切っ先を向ける。


「もう奪わせない・・・!みんなの笑顔を・・・お前なんかに!」


たった二人でも、退くつもりはない。


「『─────俺(僕)たちを、舐めるなよッ!』」


流星による宣戦布告。

世界の驚異に対する、救世主の逆襲劇の開幕である。


流星、流星、流星──────


ふと語り部は頭の中で思案する。

人々を助け、笑顔を守るヒーローのような若者。

そんな存在が確かに、この世界じゃ昔にもいたらしい。

どうでも良さそうに思い出す。


確かに様々な窮地を救ったが、今回は救えなかったのだし。


まぁ、今回の彼らも顔がいい。

遊んであわよくば身体をモノにしてもいいだろう。


彼らの啖呵を巫山戯た思考と態度でまるで通じるはずもなく、自身の身体を浮かせたまま流星を見下ろす。


「『行くぞッ!』」


流星は一直線に七色の輝きを纏って、宇宙的神秘を持った聖剣を振りかぶる。


「おぉっと!」


一撃目を寸前で下がりながら回避する。

二撃目を振りかぶる様が見える。


「危ないなっ!」


瞬間移動・・・転移とも言うべきか。

背後に回り込む。


「このッ・・・!?」


流星は振り返ろうとする、語り部はその流星の顔面を掴む。


「だから危ないって!」

「『ッッ!?』」


強烈な風圧を放ち、思い切り後方に吹き飛ばす。


『ぐは、っ・・・!』

「っ・・・!くそっ・・・!」


水晶の木に強く打ち付け、地面に降りる。

倒れはせず、見上げて睨む。


「顔は崩したくないんだからさ、加減してくれないと困るなー。」

『こいつ・・・!』

「巫山戯るなッ!!」


凝りもせず飛翔する流星。

それに対して、「まぁそうなるよね」という思考と「どうしてそんなに立てるのかな」という思考が交差する。

最終的にはそれも「まぁいいか」と打ち切ることに変わりはないのだが。


「仕方ないなぁ。」


流星の行先に様々な現象が阻む。

上側からは雷が降り注ぎ、下側からは氷が棘のように突き上がり、目前では大爆発が起こる。


「ッ・・・!」

『この、くらい・・・!』


急停止し、大爆発に巻き込まれないように下がりながらバレルロールで雷を回避。

更に氷を月光で斬り裂いて前へ─────。


『────ッ、クウガ、前!』

「こん、のぉ!!」


────更なる目前に毒の霧。

それに対して七色の光線で薙ぎ払う。

そして前へ─────だが、その目前に。


「残念♪」


既に語り部が目前に迫り、額にデコピンを放つ。

それに強化があったのか、何かの魔法を作用させたのか。


『ぐぁ、っ・・・!』

「っ・・・!」


それによって地面に叩き落とされて転がる。


「諦めが悪いなー・・・それに、そこにいる誰かさん、忘れてないかい?」


呆れたように言う視線の先には起き上がろうとする流星。

そこにはもう1人─────。


「ッ・・・この人は・・・」

『一緒に木を壊そうとした・・・騎士の人・・・!?』


─────そこにいたのはアークノイツだった。


「此処は・・・何が・・・?」


アークノイツはただ混乱していた。

先程見た夢と、過去に存在した出来事と、そして現在の状況がいっぺんに頭に入っている。


クウガやミーティアと違い、夢に違和感を感じた瞬間に強制的に呼ばれたのだから無理もない。

だがこの状況においては致命傷となる。


「纏めて眠ってね!」


嗤う、嗤う、嗤う。

無駄で、無意味で、無価値に終わらせる。


細く、鋭利に、貫いて殺すための光線を放つ。


『ッ・・・ヤバい・・・!』

「やらせない・・・!」


それに対して、流星たちは立ち上がり七色の障壁を展開。

光線と障壁は接触し、視界がまばゆい光に包まれる。


────その光景を、混乱しているアークノイツは見ていた。


少年時代に憧れたヒーロー。

そんな光景に、よく似ていた。

だが、その光景をいま再現しているのは誰か。

・・・きっと見たままなら、彼らは成人していない少年たちだ。


その歳で、背負っているのか。

今の自分はなんだった?

消防士?騎士?

ああ、少しづつ思い出してくる。

だが本質は─────どちらにせよ、自分はその"誰かを守る立場"を目指したのだ。


それを、守られたままなど──────。


「悪いが────もう眠るわけにはいかん。」


─────そんな事、自分に許せるはずがない。


嗤う語り部はそれを見て愉しげに嗤う。

そうか、そうか。

知識としては理解している、彼らは守りたいという存在だ。

本質は理解していない、彼らは何故こうまで立ち上がれるのか。


だが、一つ分かったことがある。


「なんて強欲か─────きみたちは"願望(ユメ)"じゃ不足なのか。」


アークノイツの大きなランスと、流星の障壁がついに、光線を打ち払う様を見ながらつい、口に出して語り部は言った。


願望(そんなもの)では足りない。

現実だからこそ成就する出来事がある。

"だから夢は砕けた"


「─────なるほど、きみたちが予想外なだけじゃなく、これは私の失策なワケだ。」


まぁ、だからどうしたという感想しかないのだが。

語り部は流星と騎士を見下ろしながら、態度を一切崩さないまま言う。


「気に入った。」


ただ一言。

何もその先に続く言葉はなく、手のひらを向ける。


臨戦態勢に流星は入る。


『良かった、騎士さん・・・!』


ミーティアが安堵の言葉をかける。

アークノイツはランスを構えて、語り部を見上げながら言う。


「アークノイツだ。」

「え・・・?」

「俺の名前だ。君たちの名前を、教えてくれ。」


クウガたちは意味が最初こそ分からなかったが、ようやく理解出来た。

人との繋がりはいつだって唐突だ。

だから、後悔はなるべくしないように・・・お互いに手を取り合う人と繋がろう。


「クウガ。クウガ=スタールック!」

『僕は、ミーティアです!』

「いい名前だ・・・!」


名乗りを上げ、アークノイツは走り出した。

同時に、流星たちは空中へ浮き出した。


「近づいてこられると嫌だな!」


一つ一つを人1人を押しつぶすには充分な岩を呼び出していくつも流星と騎士に向けて降り注ぐ。


『アークノイツさん!』

「問題ない!」


恐れない───とは嘘になる。

だが、恐れて彼らに押し付ける訳には行かない。

もう繰り返してはならない、あの惨劇を。


走る、駆ける、潜り抜ける。

だが今のままでは届かない。


「ふん・・・!」


目の前に足元に落ちるであろう岩を見て、騎士は飛び上がる。

そのまま落ちた岩を踏み台にさらに飛び上がり────


「うおおッ!」


───そのまま飛び上がりながら語り部に向けてランスを突き出す。


「うっそぉ!?そうくる!?でも・・・」


語り部は転移回避し背後に回る。空中で自由落下するしかなくなったアークノイツに向けて何か行おうとした瞬間────


「『させるかァ!』」

「この・・・!」


語り部に向けて、一瞬で月光を振り下ろしてくる流星。

それを寸前で重力操作で鈍くさせながら、障壁で防ぐ。

それでも押されて地面に降りる。

なら次の手を。


そう対応しようとする間もなく────


「まだまだ!」


流星が飛び上がり、その背後からアークノイツがランスを横薙ぎする。


「っ・・・!」


とっさに障壁で弾くも、それに流星がまだ続く。

流星の月光、騎士のランス。

交互に、そして猛攻は続く。


「ああもう、しつこい・・・!」


攻撃は休まらない。

咄嗟に場を荒らそうと、地面を爆破させる。

そうすれば一度は下がる他ないだろう。


「甘い!」


その爆破をランスと鎧で受け止めつつ、壁に衝撃を逃がすように飛んで壁を蹴る。


「逃がさない!」


飛翔した流星が、上空から追尾する魔弾を複数放つ。


「くぅ・・・!」


追尾弾で逃げ場を無くし、そこへ───


「そこだ・・・!」


壁を蹴ってその勢いのまま低い体勢でランスによる突撃を行う。

勢いは先の突撃とは段違いであり、既にランスは目前まで迫っている。


「っ、痛くないけど痛いなー!」


障壁を出すも、貫かれる。

寸前で躱したが避けきれずに、腹部を裂く。

だが追撃は終わらない。


「ぉおお!」

「いっけえ!」


通り過ぎたアークノイツが再び飛び上がり、ランスによる振り下ろし。

月光の切っ先を向けて突撃。


「もう・・・!」


語り部は咄嗟に転移する。

鈍い音が響き、ランスと月光はぶつかり停止する。


さぁ、どこだ。

それは既に、補足した。


『あそこだ!!』

「えっ・・・!」


転移した先を、ミーティアは捉えていた。

逃げる先を、先程までのパターンから考えた結果を、今まさに当ててみせた。


それに応えるように、クウガとアークノイツはお互いに頷いて、離れた語り部に向けて武器を大きく振りかぶり──────


「「逃がすかッ!」」


────月光とランスを、全力で投擲する。


「はぁ!?──────あぐっ・・・!!」


右腕には月光の聖剣。

左腕にはランス。

それらが刺さり、水晶の大樹までつきささり、完全に停止させる。


『フィニッシュタイム!!』


ミーティアが叫ぶ。


はっ、として語り部は目前を見る。

駆けて駆けて、一直線に襲いかかる者たち。

語り部の咄嗟の爆炎も、氷の針山も、落石も、走り抜けてもう目前まで訪れる。


「『スターライトォ─────』」

「悔い改めるがいい・・・!」

「ちょ、これはむり・・・!」


流星と騎士は、思い切り拳を振り上げる。

2人には七色の煌めきが拳に宿る。

語り部の言葉には耳を貸さずに・・・。


「『──────スマッシャアアアアア!!』」

「これで、終わりだ・・・!」


流星と騎士による懇親の一撃は、同時に仮面を付けた顔面に容赦なく放たれた。

その力、煌めきは水晶まで伝わる。


豪快な音を、この空間に響かせた。

誰が見ても、決着と言えるだろう─────。


________________________________


光が消える。

そこにあったのは、哀れな誰かの体と、そしてほんの少しだけ残った仮面の欠片。

語り部が誰かの遺体を動かすには到底足りないその欠片は、この名前の知らない誰かの体から滑り落ち、地面に落ちた。


かくして、優しい夢を振り払った彼らは勝利した。


沈黙。

肩で息をする三人の、誰に知られることのない英雄譚。

それを讃えるように、どこからか拍手の音が聞こえたような気がした。

ぐらり、と地面が揺れる。


「うわっ、」


辛うじてしりもちをつくことこそなかったが、精根尽き果てていたクウガはよろめいた。

それはアークノイツも同じことで、彼らはこの揺れがなんなのかを探ろうとする。

上を向いた。


がらりと上から石が落ちてきた。


『────どんどん崩れてる!』


ミーティアの叫びを嗤うように、落石の勢いと地面の揺れが激しくなる。

剥がれ落ちた岩肌が湖に落ちて大きく水飛沫を立てる。

早くここから出なければいけないが、いつの間にかいくつも道ができていてどれが外に繋がっているのかわからない。


「くそっ、このままじゃ……、」


クウガは口をつぐむ。

しかし彼が言わずとも、その場にいる誰もが続く言葉を理解していた。

ふわりと羽が落ちる。


声が聞こえた。


どこかで見たような、懐かしいような、寂しいような。

そんな不思議な感覚をこちらに与える赤い瞳の天使が、一つの道の中にいた。

暗い影の下からこちらを見ている。

流星と騎士が天使を視認すると、彼女のその姿は光の球体に変わる。

光が道を滑るように飛んだ。


「行くしかないか……!」


誰かがそういうのが聞こえる。

疑っている暇はなく、他に手段はない。

その道に飛び込むように滑り込む。

彼らの背後であの拓けた空間が潰れる音が聞こえた。

走る、走る。

どのくらい走っただろうか、思い切り背中を押されそして────


彼らは湖の岸辺にいた。

その足元には彼らが語り部の身体を磔にした月光と槍、それにあの光を思い出させるような羽根が数枚落ちている。

いつもと変わらない、静かな湖畔で、遠くで遊ぶ子供が見えた。


「……終わった……のかな」


融合を解いたミーティアが呟く。

あまりに穏やかな昼過ぎに、アークノイツは体の力を抜いた。


「……白星さんのところへ、行こう」


クウガの言葉に、二人は静かに頷く。

湖を抜け、群の施設を通る。

白星の書斎へ入り、そこにいる少年を見て、彼らの内心に沸いた感情は語るまでもなくわかるだろう。


彼らは誰に知られることもなく、ただこの世界の未来を救ったのだった。

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