第2話「JK、カエルを食す②」

「美味しいのかな?んー。もう、私も女だ。度胸を見せてやるんだからね」

 山口里奈はガブリとかぶりついた。最初は抵抗はあったが、次第に歯を立て噛んでいく。


「どうなのよ?美味しい?ぐっさん」

 田口実里はニヤニヤとしながら、山口里奈に問うた。山口里奈は「んー」と言いながら目を閉じてカエルを噛む。


「これ本体見ないで食べたら、鳥のササミっぽいね。初めて食べたよ。カエルなんて」


「そうでしょ。味は鳥のササミっぽい味なのよね。あ、マヨネーズつけると美味しいのよ」

 田口実里は学生鞄からボトルのマヨネーズを取り出すと、目の前にあった小皿を取り出し、親指程のマヨネーズをつけて渡す。

「今日はすこぶる気分が良いわ。今回は特別なのよ。食べると良いわ」

 田口のご機嫌さに山口里奈は一歩引きながらも、食べかけのカエルにマヨネーズをつけて、パクリと口に入れる。


「うーーーーまあああああいいいい。マヨネーズってこんなに美味しいんだ!」


「ははは、ここまで表情が良いと面白いのよ。カエル自体には茹でてあるだけだからね。それに味は鳥のササミだから相性はいいはずなのよ」


「うん。何個でもイケそう。あ、マヨネーズもうちょっともらうね」


 二人はパクパクとカエルを口に運ぶ。次第に無言になり、出されたお皿を完食する。手を合わして同時に口を開いた。


「「ごちそうさまでした」」


 店内に響き渡る大きな声で、わんぱく小僧ならぬ、わんぱく少女のようだった。

 その声に反応したのか、店主は新聞を読みながら、ピクリと肩を揺らした。


「さて行くのよ。食べたらここには用はないのよ。それにもうこんな時間早く帰らないとパパに怒られるのよ」


 田口実里は即座にマヨネーズを鞄にしまい、立ち上がる。代わりに黒の長財布から千円札を取り出した。


「店主!お会計なのよ。早くするのよ」


 店主は新聞を机に置くと、田口実里から千円札を受け取ると、「まいど」とだけ言い、再び新聞に手を伸ばした。


「ぐっさん。帰るのよ。まだ食べたりなかったらここに居ればいいのよ。私は帰るから」


「待ってよ。みのりん。あたしも帰るよ。こんな裏路地、怖いし、一人では帰りたくないわ」


 山口里奈も即座に帰る準備をする。学生鞄から財布を取り出し、店主のもとへ。

「店主さん、料理はいくらですか?」


「…………」

 新聞を広げながら、無言を貫く店主に山口里奈は首を傾げる。その光景を見た田口実里は山口里奈に聞こえるように言う。


「もうあなたの分は払ってあげたのよ。感謝しなさい。それじゃ帰るのよ」


「え?そうなの?ありがとう。みのりん。気前がいいね。よ、かっこいいわよ!」


「かっこいいってなんなのよ。せっかく奢ってあげたのに。それに今回は気まぐれなのよ。って言うかもう行くのよ。あー、早く帰らないと門限に間に合わなくなっちゃう」


二人は早々にお店を出て、薄暗い裏通りを歩き、次第に人通りの多い商店街に戻ってくる。

「ねえ、みのりん。次は勝手にいかないでね。一人で行くようだったらあたしも付いていくんだからね」


「…………、もう勝手にするのよ。さて次の料理も探してみようかしら」


 田口実里はスタスタと速足で歩く。それに付いていくように合わせて山口里奈は小走りになる。

「次はなんの料理考えてるの?またゲテモノ?激辛のラーメンのお店だったら知ってるよ」


「ふん。多分そのお店知ってるのよ。それより次はイナゴかしら。くふふふふ」


 田口実里から不敵な笑みが漏れる。山口里奈はその会話と笑みに苦笑いしかない。


「イナゴって食べられるの?虫だよ。そんなの美味しくないって決まってるじゃん」


「食わず嫌いは良くないのよ。これだからおこちゃま舌はダメなのよ」


「なんですって。イナゴだろうが虫だろうが何でも食べてやるわよ」


「ふふふ、言質いただいたのよ。それじゃ次のイナゴは大量に食べてもらおうかしら。楽しみね」


 山口里奈を見つめる田口実里の目線が不気味過ぎて怖い。

「ねえ、大量にってどのくらいよ。ねえ。みのりん、おーい、みのりんってば」

 そんなたわいもない会話をしながら、次の料理が決定してしまった。

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