見えてくるもの
あれから祐司は鎌田の言葉を何度も反芻していた。
一皮むけきれない原因。
見えてくるもの。
期待している。
部に無理矢理戻す気はないと言っておいて、あのセリフは一体なんなんだろうか。
「おーい、祐司、聞いてる?」
美咲が正面の席から定規で頭を叩いてきた。祐司は三回目でその腕を捕まえる。
「聞いてなかったのは謝るから、角でやるのはやめてくれ。地味に痛いぞそれ」
はあい、とどうでも良さそうな返事をされ、反発しそうになるのを彼はなんとか抑えた。
「集まれる日にできるだけ集まる」という決まりの下、「チーム・ドリーマーズ」が次に集まったのは、休み明けの放課後だった。
「さて、この間の結果を基に意見を言い合いたいんだけど、いいかな」
「この前は抜けて悪かったな。みんなの結果も教えてもらおうか」
春貴が小さく頭を下げた。美咲が、じゃあ私から、と楽しそうに自分の結果の紙を掲げる。
「私ね、先生だって。良くない? 小学校とか幼稚園とか、子供といっぱい触れ合えるんだよ」
舞がわあっ、と声を上げ、目を輝かせる。
「先生ですか、似合ってると思います」
でしょ、と得意げに言う美咲に、祐司は水を差す。
「でもさ、最近の小学生ってませてるぜ。低学年相手ですら、美咲、泣かされるんじゃね」
「保護者もかなりヤバいみたいだぞ。お前大丈夫なのか」
春貴にまで言われて、美咲はむすっとした顔になる。
「何よ何よ、もう。せっかくいいと思ったのに。それなら、祐司はどうだったのか教えてよ」
祐司が自分の結果を伝えると、春貴と美咲は難しい顔になった。
「うーん、確かにこいつはスポーツ関連だろうな」
「祐司ならなんでもそこそこできそうな気はするけどね、まあ適正ではそうなのかな」
祐司以外の三人が頭を捻り始める。すでに自分なりに考えて結論が出なかった祐司は、その様子を見守っていた。ふと外を見ると黒い雲が近づいてきていて、雨が降らないといいけど、と思った。
「スポーツ関連ってことは、スポーツ選手じゃなくてもいいんですかね」
「関連って、コーチとかインストラクターって意味での関連じゃない? 大体それは……プレイヤーじゃないと祐司のプライド的に許せない、とかじゃない?」
美咲に問われ、まあな、と祐司は答える。ただ他人の成長を見守ることしかできないのが苦痛だったのも、野球部を去った原因だったのだから。
「うーん、じゃあ現場からちょっと離れた位置とか……範囲を広げれば、例えばスポーツ新聞の記者とか面白そうじゃないですか」
舞の言葉に春貴と美咲が目を合わし、ニヤリと笑う。
「美咲、覚えてるよな。小学五年生のときの祐司の読書感想文」
「覚えてる覚えてる。あらすじの箇条書きの方がマシだって言ってた文章」
「あ、あれはだな、小学生には理解できない斬新で芸術的な文章であってだ」
尚も笑い続ける二人にカチンときた瞬間、舞のきょとんとした表情が視界に入って、咳払いをして居住まいを正した。
「とにかく、だ。俺には新聞記者はどっちみち無理だ」
美咲も咳払いをして、自分の笑いをなんとか鎮める。
「よし、こいつは後回しにして、次は舞ちゃんの結果にしよっか」
舞の結果について四人で話しながら、祐司はまた考えていた。
――グラウンドを出てみれば色んなことが見えてくるはずだ。
確かに、この数か月で色々なことは見えた。今の野球部があるのは望のおかげだということも、部員がどれだけ成長しているかということも。
だけどそれが何の役に? あるいはそういう意味ではないのだろうか?
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