夢を探すの!
風で揺らめくカーテンに頭をくすぐられ、舞は目を覚ます。
教室にはいつかのように、自分と祐司、春貴しかいなかった。祐司は机に向かって何かの勉強をしており、春貴は椅子にもたれ、自分の机に脚を乗せながら携帯をいじっている。
頭に触れていた薄緑のカーテンをそっと払う。カーテンは西の方に差しかかっている太陽の光を包み、ランプの傘のように柔らかな光を漏らしている。
教室の時計を確認すると四時半を示していて、また寝すぎたのかと落胆していると、教室の前方のドアが開いた。
「あれ、この三人だけ?」
美咲が顔だけを覗かせる。祐司が教室を見回し、ほんとだ、と呟く。
「祐司、あんた何してんの」
「何って、小テストの数学の成績がヤバかったから課題出されたんだよ。クソ、終わんねえ」
祐司がイライラしたように頭を掻きむしっていると、教室に入ってきた美咲がそのプリントをひょいと取り上げる。
「何これ。あんたこんなのも解けないの?」
携帯を触りながら春貴が口を挟む。
「諦めろ、美咲。こいつは祐司だ」
「ちくしょう、お前ら、昔っから勉強はできるからな」
美咲からプリントをひったくり、祐司はひいひい言いながら課題を再開した。
「春貴は何してるの」
「ん、六時からバイトだから暇してる。それより美咲こそどうした、体操服のままで」
「今日は練習場所もないしもう部活終わり。全く、こんなんだから弱小なのよあの部は」
普通の公立高校であるこの河井西は、お世辞にも体育館が大きいとは言えず、週単位などのローテーションでいくつかの部が共用しているそうだ。それならそれで、せめてうちの部はもっと筋トレでもすればいいのにやる気ないんだから、と美咲はいつか文句を言っていた。
「あ、そうだ」
美咲が何やらニヤッと笑い、すかさず祐司が嫌そうに顔を上げる。
「おい、こんなときにもう悪いニュースはいらねえよ、というかやめてくれ」
「残念だけど。さっき岡野先生から聞いたの」
そこで一呼吸置いて、続ける。
「うちのクラスでこの前の進路調査書『未定』で出したのって、この四人だけなんだって。明日辺り呼び出されるよきっと」
舞はえっと声を漏らした。美咲を除く三人がお互いの顔を見合わせる。
「それはそれは、奇遇なことじゃねえか」
祐司がやや顔を引きつらせて言った。
「まあ、確かにこのメンバーならな、わからんでもないか」
春貴は何食わぬ顔で、自分を納得させるように言った。
舞は戸惑っていた。祐司や春貴はまだ理解できる。でも美咲までも?
彼女は成績も良く、てっきり東京の大学なんかを目指したりしているのかと思っていた。
「ほんとによくもまあ、こんなに上手いこと集まったわよね」
あっさりした口調でそう言い置いて、美咲は何かを考え始めた。その様子を見て、春貴は露骨に不安そうな表情を浮かべる。
「何するつもりだ、美咲」
美咲は突然、ぱっ、と効果音が聞こえるかのように顔を明るくする。
「ねえ、私達四人で協力しない? 放課後に集まってさ、一緒に進路考えようよ。将来の夢を探すの!」
今度は三人同時にえっと聞き返した。祐司が慌てたように言う。
「将来の夢って、おいお前」
「ああ、部活ならもうちょうど辞めてもいいかなって思ってたのよ。マネージャーの後輩も成長してるし、たぶん先生も『勉強に集中したいので』とでも言えばなんとかなるよ」
「そういう話じゃなくて!」
しかし美咲は意に介さず、集まるのはこの教室でいいかな、と確認を取る。全くこいつは、と春貴が呟いた。
もしかしてなんだかんだ言って、彼女も昔からなかなか無茶なことをしてきたのではないだろうか、と舞はふと思った。
「というわけで、活動名は『ドリーマーズクラブ』で!」
「なんか怪しい店みたいだな」
「バカ春貴! じゃあ、『チーム・ドリーマーズ』! 異論はないよね? 明日……は呼び出しだろうから、明後日の放課後、この教室で!」
そう言って彼女は突風のように教室から走り去っていった。
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