プリントの空きスペース
委員長が前に立ち、春の遠足の班決めが行われる。
三年間で最後の校外行事に、みなどこか浮き足立っていて、教室は賑やかだ。
男女混合六人班ということで、祐司は春貴と谷原悟に声をかけ、美咲ともう一人、前田沙織という女子が入って残り一人。
誰にするか意見を聞こうとすると、沙織が口を開いた。
「三鷹ちゃん誘ってもいいかな? このメンバー、大体があの子と仲良くしてるみたいだし、ちょうどいいでしょ?」
そう言えば先日席替えするまで、彼女は舞と前後の列で仲良く喋っていたな、と祐司は思い出す。唯一舞と交流がなさそうだった悟に視線を送ると、ウインクしてOKサインを送ってくる。
「よし、じゃあ三鷹さんに言ってみる」
席替えによって窓際奥の席に行ってしまった彼女。まだ友達は少ないようで、班決めにも参加しづらいのか、一人でぼんやり教室を眺めたり、俯いて鉛筆で何かを書いたりしている。
「あのさ、三鷹さん」
夢中で鉛筆を動かす彼女に声をかけようとしたとき、その机の上の物に祐司の目は惹きつけられた。
担任から配られた、事務的に書かれた遠足の予定表、その空きスペース。
そこには黒板があり、机と椅子があり、和気あいあいとしたクラスメイトがいた。
紛れもなく三年一組の教室が描かれている。
見慣れた、活き活きとした笑顔の坊主男が描かれた方を振り向くと、野球部の
さっきまで自分のいた所には、美咲や春貴、そして自分が笑っていた。
見れば見るほど、絵全体からこの部屋の人と物が成す温度感や臨場感が伝わってきて、息を呑む。
そのとき、ガサッと音を立てて、彼女はプリントを隠しつつこちらを見上げてきた。
「高崎君、見ちゃいました……か?」
しかしその目が送っているのはなじるような視線ではなく、怯えのそれであった。
つい、祐司の目は泳ぐ。
「うん……見ちゃった、かな」
様子をチラチラと見ていると、彼女は何か言おうか迷いながら、どんどん怯えた仔犬のように縮こまっていく。
気まずさを紛らわせようと、祐司は強引に本題へと移す。
「あの、三鷹さん。遠足なんだけど、俺達と一緒に回らない?」
彼女は祐司の声に反射的に身をすくめたが、内容を理解すると、
「は、はい。ぜひ一緒に、一緒の班でお願いします」
と言って頭を下げた。
どうだったー、と教室の向こう側で美咲が叫ぶ。祐司が作り笑いを浮かべて両手で大きく丸を作ると、悟が黒板に班員名を書き始める。
再び舞の方へ視線を落とすと、彼女は俯いて、何かに耐えるように脚の上でぎゅっと握り拳を作っている。
原因もわからぬまま、ごめんね、と声をかけてみると、彼女はそのままの姿勢でゆっくりと首を横に振った。
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