自己紹介
始業式と、その後の面倒なホームルームを終えると、舞が女子に囲まれて質問攻めになる前に、と祐司はすぐ話しかけに行った。
「あの、三鷹さん?」
ぼんやりとプリント類の片付けをしていた彼女は、こちらの顔を見ると大きく椅子を動かす。
「あ、あ、あなたは今朝の」
「いや、そんなに慌てなくても」
「い、いえ」と言って彼女は俯き加減で祐司を見た。「……あの、お名前は」
「高崎祐司」
「高崎君、今朝はすいませんでした」
彼女は座ったまま大きく頭を下げる。その様子を見ていたクラスメイト達が、祐司何やってんだー、とニヤニヤ笑って茶化してくる。振り向いて「うっさい、関係ねえだろ」と叫ぶと、再び彼女に向き合って、困ったように言った。
「ええと、別にそこまで失礼されたとは思ってないし、顔上げて?」
「本当、ですか?」
彼女は顔を上げ、祐司が頷くのを確認すると、ほっと安堵の息を漏らす。
「ずっと後悔していたんです。親切にしてもらったのに、あんな逃げ方してしまって」
「そっか。でも、あれだね。まさか同じ高校で同じクラスだなんて」
「はい、とてもビックリしました。こんなことあるんですね」
男子の大方の見立ては「地味」だったが、可愛いのは可愛いし、クラスの雰囲気もいいからこれくらい喋れたらまあ浮くこともなさそうだ、そんなことを思っていると、
「こんな奴に敬語なんか使わなくていいよー」
いきなり彼女の背後から元気な声が割り込んできた。祐司は顔をしかめる。
「おい、
「何って。今日部活ないから一緒に帰ろ、って呼びに来ただけ」
中性的で悪くない顔なのに中身はガサツ、勉強していないように見えて成績優秀、背は高いのに実はからっきし運動できず、今は弱小男子バスケ部のマネージャーをやっている。
去年はクラスも違っていたため話すのは久々だが、相変わらずお互い遠慮の欠片もない。
「あ、転校生の子だよね。私、仲村美咲。よろしくね!」
「ええと、三鷹舞です。よろしくお願いします」
と言ってから、ためらいがちに舞は言う。
「えっと、敬語、ダメですかね」
祐司はうーんと唸る。
「ダメとは言わないけどさ、まあ確かにな、同級生なんだし」
「そうそう。こんな男に敬意なんて払ってたら体持たないよ」
「だからなんで俺の評価をそんなに下げるんだ!」
「あれ、この子の前で全部暴露しちゃっていいの? 昔からの悪行の数々を」
祐司は言葉に詰まり、観念したように首を横に振る。美咲は勝ったと言わんばかりに余裕の表情をたっぷり浮かべ、舞に向き直るとさっと柔らかい微笑みに切り替える。
「ごめんね。まあ、敬語云々は好きにしたらいいよ。それよりさ、三鷹さんも一緒に帰らない?」
「いえ、ちょっとこれから先生とお話しすることがあって……」
「そっか。えっと、じゃあ、また別の機会にね」
さっぱりとした笑みを舞に向けて、美咲は教室のドアの方へと歩き始めた。祐司もその後を追おうとして、微笑みながら、
「えっと、これからよろしくな」
とだけ言い残した。クラスメイトに横からあれこれ尋ねられ、「ただの知り合いだって」と一蹴する。
教室を出る際にもう一度舞の様子をチラッと窺うと、小さく会釈をされた。
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