第6話 ジョブ:孤独軍二等兵

「コードネーム:ボッチ、応答せよ」


「こちらボッチ、眠い。どうぞ」


「起きて準備して、どうぞ」


 無線形式で始まったお昼休み。

 隊長たかさごの気ままな作戦が決行された。


「てか本当にやるのか?」


「時間が経てば経つほど言いづらくなるよ?」


「このままってのはだめか?」


「リア充に未来無し。撲滅するべし」


「どんだけ嫌ってるんだよリア充……」


 取り敢えず命令に従い、標的しらかわさんを視界に入れる。

 昨日の国語の授業では見かけなかったが、赤い髪に鋭い目つきの女子生徒と話している。

 彼女がお休みをしていた白川さんのペアであり友達だろう。

 背丈は白川さんより少し大きいくらい、胸囲も彼女と良い勝負だ。

 雰囲気は真逆だが。


「友達とお話し中だし、放課後で良くね?」


「終わったら突撃します」


「はぁ……はいはい」


 もう一度標的に目を向けると、赤い髪の方と目が合った。

 凄い睨まれている。

 目を細めてるのは視力が悪いからだと思いたい。


千聖ちとせちゃんにめっちゃ睨まれているね」


千聖ちとせちゃん? あの赤い髪の奴の事か?」


「だからクラスメイトくらい覚えてよ……鞍馬くらま千聖ちとせ、ゆずちゃんといつも一緒にいる子だよ」


「あいつ、昨日は休んでたのか?」


「そうだよ。てか、朝先生言ったじゃん」


「一々誰かが休みだの遅れるだの、憶えれる訳無いだろ。不要な情報は耳が勝手にブロックする」


「随分ご立派なフィルターをお持ちですねぇ、だからボッチなんだよ?」


「ボッチはステータスだ」


「貧乳と同じ?」


「人によってはそうじゃ……おい、拳を握るな。今のはお前が振ってきたんだろ」


「全国貧乳ギルドを代表してボッチギルド代表に異議を唱えておこうかなと」


「いつの間にギルドなんて出来たんだよ。てかボッチにギルドなんて作れる訳無いだろ」


「あぁー、確かに相反する二つの要素が組み合わさっちゃったね。かっこいいね」


「語彙力たったの五、ゴミめ」


「……ふっふっふ、初めてですよ、私をここまでコケにしたお馬鹿さんは」


 ドラゴン〇ールネタに同作品ネタで返せる者はそう多くない。

 それも数秒と掛からずにだ。

 高砂のオタク力、五十三万と見た。


「一条、少し良いか?」


 舌の根も乾かぬ内に次の話題へ。

 赤毛の女子生徒、鞍馬千聖に声を掛けられる。


「なんだ?」


「少し話がしたい。出来れば誰もいないところで、だ」


「まあ、俺は構わないが……」


 俺にはこの昼休み中に成し遂げなければならない任務が有る。

 そして休み時間は有限である。

 俺に行動の選択肢は用意されていない。


「ん? 別に行ってきてもいいよ?」


「……そうか。鞍馬、どこに行けばいい?」


「付いて来てくれ。高砂、悪いな」


「別に良いよー、けど一応私の奴隷だから後で返してねー」


「分かった」


 奴隷というパワーワードに反応しろよ。

 クラスメイトの男子が一人、女子生徒の奴隷に成り下がってるんだぞ?

 可哀想とか言って庇ってくれても良いじゃねぇか。


「時間も無い。行くぞ」


 止まらない欠伸を手で押さえ、席から立ち上がる。

 入学してから鞍馬と話した記憶は無い。

 つまり今日この瞬間、初めて言の葉を交わした。


「悪いな、睡眠時間を邪魔してしまって」


「睡眠時間?」


「いつも昼は寝ているだろ。机に突っ伏して」


 俺が認識していなかっただけで、彼女は俺を認識していた。

 ここに驚きを隠せない。

 髪を赤く染める程のパリピが、なぜ俺のような奴の行動パターンを知っているのか。

 ただの気まぐれ? それとも寝る奴は少ないから目立つのか?


「……ここまで来れば良いか」


 立ち止った場所は生徒の遊ぶ声が良く響く体育館裏。

 バスケットボールやバレーボールが不規則なリズムで床に打ち付けられている。


「まず、お礼だ。昨日はゆずが世話になった」


「……俺は何もしていないが」


「ペアの相手をしてくれたんだろ? ゆずから聞いている」


 白川ゆずはわざわざそんな事まで報告しているのか。

 という事は放課後の事件こくはくも知っているだろうな。


「趣味の話にも付き合わせたらしいな」


「……話はそれだけか?」


「いや、本題は別にある。ただ筋は通しておくべきだと思ってな」


 伊達に男らしい髪色はしていない。

 親友が世話になったから礼を言うって、漢気全開だな。


「では本題だが……簡単に言おう」


 体育館からボールの跳ねる音が消え、代わりに走り去る音が響き始めた。

 昼休み終了まで残り十分弱。

 バスケットゴールリングをそろそろ上げ終わらないと授業に間に合わない。

 ジャンケンで不幸にも負けた男子生徒一人、額に大粒の汗を浮かべて鎖を引っ張っている。


「昨日、ゆずがお前に告白をしたな?」


 白川ゆずが彼女に報告していたのは何となく予想出来た。

 では、漢気溢れる鞍馬千聖は何を言うのか。


「あぁ、確かに言われた」


 親友がこれから世話になる。

 ゆずの奴をこれからも宜しく頼む。

 あいつを泣かせたら許さないからな。

 何かあったら私に相談し――


「別れてくれ」


「……へ?」


 奴隷は奇しくも主の意向に沿う事となり、一条春樹ボッチは言葉の意味を理解するのにコンマ数秒を要した。

 やはり、必要最低限の人付き合いは大切なのだろう。

 同年代の女子が何を考えているか全く分からない。

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