新入社員 核ミサイル烈子

獲れたてリヴァイアサン

第1話

「本日入社いたしました核ミサイル 烈子と申します。前は岡山の会社で事務をしておりました。どうぞよろしくお願いいたします。」


信子は天を見上げた。


拝啓お母様、今度の新入社員は核ミサイルの姿をしている女の子でした。先立つ娘の不幸をお許しください。


※※※


1時間前、池田信子は愚痴をこぼしながら出社の準備をしていた。


「あ〜会社やだな〜。痛つ!え…頭に傷ができてる」


仕事終わりの一人居酒屋が大好きな信子は、昨日もたらふく日本酒を飲み、ベロンベロンの状態で家に帰ってきていたため、記憶もおぼろげだった。


「もしかしたら帰りに頭をぶつけたのかな…萎える」


「しかも今日新入社員来るし…やだよ後輩持つなんて。人に教えるとか苦手なのに…あのお局ババアめんどくさいことは全部私に押し付けやがって」


テレビをつけると、北朝鮮の核ミサイル問題についての特集をしていた。コメンテーカーが小難しい顔をしながら、なにやら熱心に討論している。


「占い…占いっと」


信子はすっとチャンネルを変え、今日の自分の運勢を確認する。


「ヤバイ!もう出なきゃ!」


無造作に置かれたカバンをひっ掴み、化粧もそこそこで信子は急ぎ足で家をでた。


32歳、恋人なし。趣味はお酒。平凡な毎日を過ごしていた。この日までは。


※※※


そして現在。信子の目の前には、鋼鉄の身体にあどけない顔がついた女性?がいた。しかも自分のことを新入社員だとか言っている。


「昨日飲みすぎたせいで幻覚が見えてるのかも」


信子は目をこするが、やはり目の前にいる新入社員は人間じゃない。どうみても鋼鉄の身体を持ったバケモノだ。あれどっから手が生えてんだ。


「ちなみに烈子さんはなんと23歳のピチピチです!配属は総務部で池田さんの後輩になります」


「(いやピチピチっていうか金属だからカンカンでしょ)」


しかしおかしい。どうみてもヤバイやつなのに、みんな彼女の見た目にノーリアクションなのだ。不思議に思った信子は隣に立っていた社員に話しかけてみた。


「ねえ…あの新入社員、どういうつもりなの?コスプレ?なんかやたら頭尖ってるし、翼みたいなのも生えてる」


「え?普通のスーツじゃないですか。翼ってなんのことですか?」


「あ〜いやいやなんでもない。忘れて忘れて」


他の人間には普通の人間に見えてるらしい。どうやらイカれてるのは私の頭かもしれない。


「では、本日もよろしくお願いします!」


部長の締めの掛け声で朝礼が終わった。核ミサイル烈子が私の方に歩いてくる。


「池田さん…でよろしかったでしょうか?核ミサイル烈子です。これからよろしくお願いします!」


いいあいさつだ。殺すのは最後にしてやる。

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