第3話 入団試験
ライラックと血の滲むような特訓を乗り越え、いよいよサウスレア王国の騎士団の入団試験が行われる日がやって来た。
王都にある騎士団本部の前には、騎士になることを夢見る多くの者が集まってきている。
「凄い人……ここにいる全員が騎士団になりたいんだ……」
「ええ、ストラムさ……いや、ストラムも緊張するんだな」
騎士になるにあたってライラックにいつまでも敬語を使われていては怪しまれる。
入団試験に挑むこの日からはルドベキアの姫と騎士という関係性ではなく、同じサウスレアの騎士として振る舞うことに決めたのだ。
「本当に大丈夫かな、ライラック」
騎士団への入団には性別は問わず実力のみで判断されることになるとはいえ、ここに集まっているのは屈強な男たちばかりだ。
金髪であることも一因だろうが、場違いな私に視線が集まってきている。
「大丈夫に決まっているだろ? ストラムは誰に訓練を付けて貰ったと思っているんだい」
自信満々に答えるライラックに、私は思わず笑みを溢してしまう。
「なら、もしも試験に落ちたら責任を取ってもらうからね」
「ええ、合格するまではいつまでも付き合いますよ」
「…………そうね」
他愛もない会話で私の緊張はほぐれ、しっかりと前を向くことが出来る。
「──どうやら試験が始まるようだよ」
ライラックが体を向けた方向から現れた騎士団の試験官は、大きな声で誘導を始める。
「これより入団試験を開始する。入団を希望するものは私に付いてこい!」
集まった者たちはその指示に従い、騎士団本部にある演習場へと誘導される。
事前に調べた話だと入団試験は毎年同じものであり、これから行われるのは入団希望者同士での模擬戦だ。
「これより模擬戦を行って貰う。順に番号を呼ぶから、呼ばれた者は前に出てくるように」
入団希望者は事前に騎士団に訪れて名前と経歴を記入し、そして試験番号を与えられている。
一人、また一人と、受験生が呼ばれては模擬戦が始まっていく。
その模擬戦のレベルは思っていたよりも…………低かった。
「ライラック……これって……」
「はぁ……だから言ったでしょう。誰が訓練を付けたと思っているんですか」
「なら、あそこまでの厳しい訓練は必要なかったんじゃ…………」
「何を言ってるんですか。ストラムの目的は騎士団に入ることではなく、国王に謁見出来るほどの功績を上げることだろ?」
……おっと、そうだった。
余りのレベルの違いに勘違いしてしまったが、ここにいるのはあくまでも入団試験を受けに来た素人。
私たちが相手にしなければいけないのはルーキーではなく、騎士団の中にいる猛者達なのだ。
「次! 百八番!!」
試験官に私の番号を呼ばれる。
「どうやら呼ばれたみたい。ちょっと、行ってくるわ」
「ええ、お気をつけを」
こうして私の入団試験が、いよいよ始まるのであった。
亡国の王女は身分を偽る。 シグマ @320-sigma
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