第2話 決意
ルドベキア王国がノウス帝国によって陥落させられてから五年という月日が経った。
ルドベキア王国に戻ることは出来ないので、その後にどうなっているかは定かではない。
しかし美しい街並みを誇り笑顔に包まれたルドベキア王国が、ノウス帝国の支配下に落ちて国民は自由を失っていると、ここサウスレア王国でも噂されている。
無血開国の決断をした国王である御父様、そして御母様が無事であるかが定かではないことが気掛かりではあるが、私を逃がしてくれた思いに報いる為にも強く生きなくてはいけない。
「ストラム様、そんなことでは帝国に勝つことなど夢のまた夢ですよ!」
「うう、ライラックの意地悪……」
身を焦がすような灼熱の太陽に晒されながら、私は護衛のライラックに剣の稽古を付けてもらっている。
身を守るためにもルドベキアの王女であった過去は隠さなくてはいけないし、何があっても己の身を守れるだけの力を身に付けておきたいのだ。
……しかしライラックは私に忠誠を誓ってくれているのに、些か私に厳しすぎやしないだろうか。
「右、左、右、上、下──ほらほら、そんなことではサウスレア王国の騎士団に入団するなんて、夢のまた夢ですよ」
「このままでは駄目なことは、私だって分かってる……でも今日の暑さは堪えるわよ」
「騎士団に入団したならば、この暑さの中でも鎧を着なければならないのです。さっ、稽古を続けますよ」
「……うう、分かったわよ」
ライラックはの出自はここサウスレア王国にある。
とある事件に巻き込まれサウスレア王国を追われた父親に連れられて、ライラックは私と同じ十歳で国を捨ててルドベキアにやってきたのだ。
ルドベキアでは珍しいライラックの黒髪も、ここサウスレア王国では珍しくない。短髪に切り揃えたとは言っても、私の金髪の方が目立っているぐらいだ。
「うん、いい感じですよ、ストラム様。一度、休憩を挟んでから続きを行いましょう」
「ええ、そうね…………いえ、やっぱりこの感覚を忘れたくないから、もう一度だけお願い出来るかしら?」
「ストラム様…………ええ、分かりました。なら手加減せずにいきますよ!」
サウスレア王国の騎士団は春先に新たな騎士を募集する。
入団資格は十五歳からであり、今年になってようやくその資格を得ることが出来たのだ。
私が騎士団に入団しようと思う理由はただ一つ。
実力次第で昇進することが出来、普通では会うことさえ叶わないサウスレアの国王に、謁見することが許されるようになるからだ。
それは本当に僅かな望みではあるのだが、ルドベキアの地をノウス帝国から取り返すべく、私は力を貸してもらえるように頼み込むつもりである。
その為には私は努力を惜しむことはない。
「ライラック……私はかならずルドベキアを取り戻してみせるから」
こうして入団試験までに残された日々を、ライラックと共に訓練を続けるのであった。
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