亡国の王女は身分を偽る。

シグマ

第1話 終わりと始まり


 その報せがルドベキアの国王の元に届いたのは、既に北の大国ノウス帝国に侵攻を許した後であった。


 それはすなわち、国が亡ぼされる危機に窮しているということだ。


 規模で劣るルドベキア王国は質ではなく数の面で、ノウス帝国の侵攻を単独で防ぐだけの軍事力を有してはいないのである。


 隣接し同盟を結んでいるセントレア公国へ助けを求めようにも、それだけの時間は残されていなかった。


 抵抗をしたとしても待っているのは、帝国に支配される未来だ。それであれば国民に血を流させるよりも、直ぐにでも降伏して国を明け渡す決断を下す方が賢明である。


 兵士たちは最後まで戦い抜く決意を持っていたものの、心優しき国王にはその命令を下すことが出来なかった。


 しかしせめてもの抗いとしてルドベキアの国王はとある決断を下す。


 若干十歳になろうかという王女のストラム・ルドベキアを、国外へ逃がさせることにしたのだ。


 本来であれば騎士団長を護衛に付けたい所であるが、顔が知れた団長と一緒では直ぐに見つかり捕縛されかねない。


 そこで若い騎士の有望株でありストラムも良く知る者であり、年端の近いライラック・ディセットを護衛に付け、未だに包囲されていない南側へと脱出をさせることにする。


 国王はライラックに、ルドベキア王国にではなく王女ストラム自身に忠誠を誓わせて盟約を結ばせた。


 しかし王女は国民を置いて自分だけ逃げることは出来ないので自らも城に残ると言いだすので、国王はライラックに指示を出し無理矢理にも王女を城の外へ送り出す。


 王女は担がれ涙ながらに城へ戻るように懇願するも、ライラックも王女の命を守るために聞く耳を持たずに急いで城を離れる。


 そして遥か遠くに離れてから煙を上げる城を見つめる王女の目には、既に涙は無く決意の光が宿っていた。


「必ず……必ず私が取り戻す」


 こうして王女はルドベキア王国から、いつ戻れるかも定かではない旅に出るのであった。


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