第23話 冒険者について(解説回)

これまで冒険者や准冒険者、一種免許と二種免許、普通と中型など冒険者の資格について色々と出てきたので、一度整理する方がいいだろう。


まず、冒険者の成立とその変遷について解説する。


衰退した人類はモンスターが自然発生しないエリアを生存圏としているが、その範囲内で全ての必要な物資が調達できるわけでは無い。

たとえば危険エリアにしか生息しない動植物などは、モンスターとの遭遇リスクを冒してでも誰かが取りにいかなければならない。

かと言って、誰もが危険エリアに出入りするのは問題があるという事で、冒険者免許制度が導入されたのだ。

冒険者免許さえあれば危険エリアに入る事は出来るのだが、その代償として危険エリアで行方不明になったとしても公の捜索隊が出動する事は無い。

一定以上の知識と技能を持つ者に冒険の許可は出すが、何が起ころうと自己責任という事だ。


当初は薬屋が薬草を採取する為といった目的がほとんどだったのだが、近場の資源が減少するにつれ、より危険な奥地まで行かなければならなくなってきた。

そうなると、普通の薬屋では薬草採取をする事は難しくなり、腕っぷしに自信がある薬屋が有償で他の薬屋の分まで薬草を取りに行くようになってきたのだ。

やがて、より危険なエリアに行かなければならなくなると薬草代が高騰し、薬草採取に専念する方が儲かるという状況になり職業冒険者が誕生したのだ。


また、人が危険エリアの奥に行けば行くほど、モンスターの発見数は増加する。

かつては王国がモンスターの討伐に責任を負っていたのだが、次第に対応しきれない状態となり冒険者への討伐依頼が一般的になっていったのだ。


ただ、いつの時代でも悪い奴は存在する。

結託して報酬を吊り上げたり、前金だけ受け取って仕事をしない者などだ。

その事に危機感を抱いた王国は、当時の有力冒険者に冒険者ギルドの創設を要請したのだ。

これに伴い、信頼できる職業冒険者の証として二種冒険者免許を新設し、二種免許を持つ者だけが冒険者ギルドに所属できると定めたのである。

その結果、職業冒険者は安かろう悪かろうの一種冒険者と、やや割高だが信頼できる冒険者ギルドに所属する二種冒険者に大別されるようになっていった。

なお、冒険者ギルドの報酬は基本給とギルドが斡旋するクエスト達成による歩合給であり、日雇い冒険者と比較して安定した生活を送る事ができる。

ちなみに、冒険者ギルドメンバーは個人の資格で依頼を受ける事も可能だが、ギルドから斡旋されたクエストを断ったり未達成になる事が多いと基本給が下げられ、最終的には解雇される事になる。


なお、冒険者ギルドはその設立経緯から認可制の民間団体なので新設する事が可能だ。

もちろん届出制ではなく認可制なので、冒険者ギルドでの活躍により名声を得た者でなければ認可される事は難しい。

そして個人の名声を基にしたギルドである事から一代限りの個人ギルドとなる事が大半だ。

つまり、設立者が死亡や廃業すれば消滅してしまうギルドだ。

旧文明で例えるなら、冒険者ギルドが法人で、個人ギルドが個人事業主といったところだろう。

しかし、ほとんどの個人ギルドは少数精鋭で高額報酬クエスト専門であり、名を上げ、金を稼ぎたい冒険者にとっては憧れの存在という事もあり、希望者は絶えない。


また、冒険者が増えると、実力に見合わない巨大な武器や強力な魔法による事故が多発する事となり、中型、大型、大型特殊武器と、同様の区分の魔法免許を新たな免許区分として設ける事となったのだ。

なお、生活魔法に代表される中型未満の普通魔法は生活の一部であり、誰でも使用する事ができる。

ちなみに、冒険者は街中でも資格に応じた武器を携行する事が許されているが、当然ながらその武器を使って喧嘩をしたりすれば重罪だ。

また、中型以上の魔法を街中で使う事は原則的に厳しく制限されている。

ただし、仕事で必要な場合、例えば鍛冶屋が大火力を使う場合、などは許可証を発行してもらい、その条件下でなら使う事は可能だ。


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次に、グレイスの持つ准冒険者免許だが、これは三つの免許が統合されたものだ。


一つ目は、子弟冒険者免許だ。

これは、子弟が家業の手伝いを出来るように設けられた免許だ。

薬屋の例で言うなら、冒険者免許が取得できる18歳になってから薬草の自生地などを初めて見るのでは一人前になるのに時間が掛かり過ぎるといった実務上の問題が発生した。

その結果、冒険者の子弟であれば16歳から子弟冒険者免許を取得し、親と同行する場合に限り危険エリアで作業できるようになったのだ。


二つ目は、街道冒険者免許だ。

街と街を結ぶ街道はモンスターの自然発生こそ起きないが、広大な地域に警備を行き渡らせる事が難しく、モンスターが入り込む危険性や野盗が出没する危険性があり、危険エリア扱いであった。

その為、冒険者免許証を持たない者は基本的に立ち入り禁止であり、一定以上の規模の護衛を付けなければ通行できなかったのだが、金にうるさい商売人には護衛を雇う費用が酷く不評で昔から緩和の要望が強かった。

やがて冒険者によるモンスター討伐や野盗狩りが広まり、従来よりも危険性が低下した事から、街道を準危険エリアという新たな区分とする事になった。

それに伴い、街道の通行だけに限定し商売人でも取得しやすい街道冒険者免許が新設されたのだ。

ちなみに、立ち入り可能エリアは街道とその端から五分程度のエリアまでとされている。

これは、排泄や野営を街道上でされては困るという運用上の理由からだ。


三つ目は、准冒険者免許だ。

これは、職業冒険者から野営の準備や炊事、獲物の解体処理など冒険の雑務を担う人材の要求が増えてきた事が背景にある。

と言うのも、雑務と言えども冒険者業務の一環である以上、冒険者免許を持たない者を連れて行って作業させれば違反となってしまう。

しかし、冒険者免許を持つ者を雑務要員として雇う場合は報酬で揉めやすい。

雇う側は雑務なので安く済ませたいのだが、雇われる側は安価で雇われるくらいなら自分で他の仕事をする方が儲かる。

その結果、戦闘経験の少ない若手が雑務要員として雇われ、そのままスキルアップする機会が無いまま歳を取っていくケースが増えてきたのだ。

王国にとって熟練冒険者は既に欠かせない存在になっており、このまま放置すれば現在の熟練冒険者が引退した後に危機的状況に陥るとの判断が下された。

これを避けるための政策として、主に雑務用に安く雇うことができるが育成もしなければならないという新たな資格が新設され、准冒険者という名称が与えられる事となった。

雇われる側の准冒険者は報酬は安いが多くの経験を積むことができ、雇う側の冒険者は育成の手間は多少掛かるが雑務要員を安価に雇用できる事となり、両者から歓迎された。

問題はスキルアップの機会が無いまま歳を取った冒険者の存在だが、特例として希望者には准冒険者へのダウングレードが許可された事から、熟練准冒険者としてやり直した者も多かったらしい。

もちろん、歳を取り過ぎてやり直せなかった者や、プライドからダウングレードしなかった者も居たのだが、その末路は自己責任で片づけられた。


そして、冒険者に準ずる資格が三つもあるのは管理コストの増大や、取得の費用や手間の負担が増える事から准冒険者に統合される事となったのだ。

その結果、現在の准冒険者は以下のようなものとなっている

・資格取得可能日は16歳の誕生日

・試験は筆記のみで実技は無し

・街道は単独で通行可能

・冒険者が同伴すれば危険エリア内で冒険者活動が可能


なお、准冒険者には資格制定の経緯から、二種免許や中型以上の資格は存在しない。

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