第21話 食事は大事です
修行を始めて一年が経過した。
今は模擬戦闘中だ。
「はっ!」
「遅い」
「くっ・・・これで!」
グレイスの渾身の突きがアーノルドを捕らえたかに見えたが、軽々と避けられてしまった。
躱され流れた体勢を立て直すために、グレイスはウォータとヒートの同時発動によって水蒸気爆発を誘発させウィンドでアーノルドの方向に指向性を持たせた。
アーノルド相手に高温水蒸気程度では威嚇にしかならないが、煙幕として使用したのだ。
「目くらましも悪くは無いが、お前も敵が見えなくなる。気を付けろ」
グレイスの背後に回ったアーノルドが声を掛けた。
これは終了の合図でもある。
「はぁはぁ・・・参りました」
「ま、だいぶ上達したじゃねぇか」
「でも、全然かないません・・・」
「本気の一割くらいは出してるからな!」
「うぅ・・・あと一年で敵うようになるのかな・・・」
「出来るんじゃないか?最近はほんの少しだが焦る場面もあるからな」
「本当ですか!頑張ります!」
アーノルドのブラック解除条件の一つである”グレイスを一人前の冒険者にする”の基準が曖昧であった為、戦闘力に関しては”本気の一割を出したアーノルドと互角に戦えるようになる”を達成条件としている。
アーノルドもグレイスも一般的な冒険者についてよく知らなかったせいでこの様な無謀な目標設定となったのだが、グレイスは急成長を果たし達成の目途が付きつつあった。
もっとも、これはグレイスに天賦の才があったわけでも、アーノルドの指導力がずば抜けていたわけでもない。
むしろ控えめに言っても、どちらも大したことは無い。
にもかかわらず、グレイスがこれ程の成長を遂げた理由は”食”だ。
古来より霊獣の肉には不思議な力が宿っているとされており、その肉を食べた者は類稀なる力を得るという伝承が各地に残されているが、それは事実だ。
旧文明の頃に存在したビデオゲームという娯楽で例えるなら、霊獣の肉はステータス成長率大幅アップの効果が付いたチート級SSRアイテムといったところだろう。
なお、霊獣とモンスターはどちらも属性の力で強化された獣であり本質的に同じものだ。
人間から攻撃しなければ襲ってこないものを霊獣、人間を積極的に襲ってくるものをモンスターと呼んでいるに過ぎない。
そして、グレイスが毎日食べているのは、四種類の第六形態モンスター、つまり超々高位霊獣と同格かそれ以上の存在の肉だ。
つまり、それぞれ効果の異なるチート級食材を惜しげもなく毎日食べているおかげで、グレイスの能力は飛躍的に向上していたのだ。
もっとも、この時代の常識では霊獣とモンスターは別の存在なので、そのような効果があるとは二人とも全く気付いていない。
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