第20話 魔導剣士の育て方

「は、はぁ・・・えっと、午後の修行は何をすればいいでしょうか?」


グレイスは余りのバカバカしさに話題を変える事にしたようだ。


「午後からは魔法の練習だ。火・風・水をバランスよく鍛えろ」

「はい。練習方法はどうすればいいですか?」

「まず火属性はこの前やっていたヒートを使え。最初の目標は線の色が赤から青に変わる事だ」

「色が変わるのですか?」

「そうだ。魔力密度が上がると赤から青になって、その次は目に見えなくなる。見えなくなってからも密度は上げられるらしいが他人からは違いが分からん」

「分かりました。頑張ります!」


アーノルドの言った色の変化とは熱輻射によるものだ。

魔力密度が低い内は温度が低いので目に見えない赤外線しか出ないのだが、温度が上がるにつれ可視光の赤色から青色へと変化する。

更に魔力密度が高くなると紫外線となり再び目に見えなくなるのだが、その後も魔力密度が高くなるとX線やガンマ線へと変わっていくのだ。



「次に風属性だが、動きのサポートに使え。こっちは魔力密度はあまり関係ない。必要な場所に必要な魔力を必要な時間だけ使う練習だ」

「走りながら使ったりする感じでしょうか?」

「それでもいいんだが、実戦的な方がいいだろう。踏み込みながらの突きとか色々と工夫してみろ」

「はい!分かりました!」


この練習は、旧文明の頃の軍用パワードスーツを魔法で代用するようなものだ。

使いこなせれば相当な強化が見込めるが、失敗すると一気にバランスを崩してしまう事になる。

高度な電子回路と精緻なソフトウェアで制御されていた軍用パワードスーツのように誰でも簡単に使えるようになるものでは無い事は確かだ。



「水属性はとりあえず防御用に特化して練習しろ。水は結構万能だから丁度いい」

「そうなのですか?」

「まぁ、槍みたいな突属性にはちょいと弱いがな」


火属性にとって水は言うまでもなく天敵のような存在だ。

風属性は基本的に空気を操る魔法なので、水で空気を遮断すれば防ぐ事が可能だ。

雷属性に関しては、純粋な水は絶縁性が高いので有効だ。

もちろん、これらは同レベルの魔法に対しての話であって相手が圧倒的に強ければ覆される事になる。

また、水属性に対しての水は同系統なので有利不利は無く、純粋に相手との差で決まる。

一方、土属性の攻撃魔法は岩石や金属を飛ばすものであり基本的には物理攻撃と同じだ。

水面を板や棒で叩けば分かる通り、水は物理攻撃に対してかなり有効だ。

ただし、銛漁が成立する事から分かるように、突きにたいする防御力はそれ程期待できない。


「困りましたね・・・」

「魔導士の居るパーティーなら大抵は土属性持ちがガードしてくれるんだがな。ま、そこは使い方次第だ」

「何か良い方法があるのですか?」

「突属性以外もそうなんだが、真正面から受け止めるんじゃなく、上手く逸らせば魔力も少なく済む。もっとも、俺は真正面から叩き潰すのが好きだけどな!」

「は、はぁ・・・」


アーノルドが言っている事は正しい。

だが、実戦の最中に相手の攻撃をどれくらいの力でどの方向に逸らせばいいかを瞬時に判断して、即座に適切な魔法を発動させる事はかなり難しい。



「三属性の練習が終わったら、俺との模擬戦闘だ。実戦で使えなけりゃ意味ないからな」

「ア、アーノルドさんとですか?まだ死にたくないです・・・」

「俺を何だと思ってるんだ?ちゃんと手加減するに決まってるだろうが!」

「本当ですか?思ったより弱かったとかで粉々にされそうな気がするのですが・・・」


グレイスにとって野盗の最後の一人を仕留めた件はかなりのトラウマになっているようだ。


「安心しろ、今のお前なら止まってるのと同じだ。ドジ踏むことは無ぇよ」

「うぅ・・・約束ですよ?」


「あと、寝る前までには魔力を使い果たすのを忘れるなよ?」

「えっと、魔導剣士はなるべく魔力を節約するんですよね?」

「そうだ。だが、魔力量はデカイ魔法を使うほど鍛えられて増えていくからな、魔導剣士の練習だけだとベースの魔力量が増えにくいんだ」

「あ、なるほど!」

「普通は万が一に備えて魔力量の三割くらいは残しておくもんなんだが、ここなら使い果たしても問題無いだろうし、遅くとも昼前には回復してるはずだ」

「はい!それではよろしくお願いします!」


こうして、グレイスの魔導剣士の修行は無事に始まったのだった。

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