第16話 前歴無しなら6点から短期免停です

「戻ったぞ。ん?どうしたんだ?」


アーノルドが戻ると、グレイスはプンスカ怒っていた。


「放り投げるなら、そう言って下さい!巻き込まれそうになったじゃないですか!」

「いちいち背負うのは面倒なんだから、言わんでも分かるだろ?」

「あんな大きな獲物を何kmも投げられる人なんて居ません!」

「それに、じっとしてろと言っておいたはずだが?」

「うっ・・・」

「お前も冒険者になるんなら指示には従え。軽く考えていると死ぬぞ?」

「はい・・・申し訳ありませんでした」


アーノルドのコントロールは確かに正確で、言われた通りにじっとしていれば何も問題は無かったのだ。

パーティーリーダーの指示は絶対というのは冒険者の鉄則だ。

冒険者免許の試験でも、この回答を間違えるだけで他が全問正解だったとしても不合格にされてしまうくらいだ。

その事を思い出したグレイスは反省したようだ。


「冒険者免許を出してみろ」

「はい」


グレイスが准冒険者免許証を取り出すと、これまでに無かった印が五つ刻まれていた。


「やっぱり付いちまったか・・・」

「あ・・・違反点数・・・」


免許証に付与されている魔法によって違反点数が書き込まれてしまったらしい。


「リーダーからの指示違反だからな、5点で済んだのはマシな方だな」

「そうですね・・・ぎりぎり免許停止にはなっていないです」

「とは言え、あと一点で短期免停だ。点数が消えるまでの一年間は絶対に違反するなよ?」

「は、はい!あの、もし免許停止になったら・・・」

「そりゃ、お前の准冒険者資格は停止されるから自動的にパーティーは解散になる。んでもって、免停中は一般人と同じだからこのエリアは立ち入り禁止だ。解除されるまでは街で過ごすしかないな」

「こ、困ります!ここで解除されるのを待っていては駄目ですか?」

「あのなぁ、俺はブラック解除中だぜ?目の前で違反を見過ごしたら免取くらうかもしれんのだぞ?」

「そ、そうですね・・・絶対に違反しないようにしなくちゃ・・・街・・・怖い・・・」


昨晩、狩りの獲物扱いされたグレイスにとって街に戻る事は相当怖いらしい。


「まぁ、この辺りには人が居ねぇ。俺からの指示さえ守っておきゃ、練習以外の目的で中型以上の魔法をぶっ放さない限り違反にはならねぇだろ」

「そうですね、気を付けます!」


准冒険者や普通冒険者の場合は、仮に中型魔法を使う技量を持っていたとしても、モンスターの討伐などといった”冒険”に中型魔法を使えば違反となってしまう。

もしも冒険で中型魔法を使いたければ、魔法中型免許を取得する必要があるのだ。

もちろん、免許を取得するにはある程度使いこなせる必要があるので、一定の安全基準を満たしていれば練習をする事は可能だ。

ちなみに、免許取得費用を節約する為に、いきなり魔法大型や魔法大型特殊を受験する者もいるが、かなりのレアケースだ。


「じゃあ、俺は足場を作る。獲物の解体はできるか?」

「えっと、知識はありますけど、やった事はありません」

「そうか・・・一番小さいヤツを出来るとこまでやってみろ。血抜きは済んでるからやらなくていいぞ。それから、俺が許可するまではこっちに近付くなよ?」

「はい、今度はちゃんとします」


なお、アーノルド流の血抜きとは、旧文明の頃に存在したハンマー投げという競技のように獲物の足を掴んで回転しながら投げる事だ。

投げられる前にかかる強烈な遠心力によって血抜きが完了するらしい。

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