第6話 初心者はギルドに売りましょう
アーノルドとグレイスは、宿屋に預ける荷物も無いので部屋の手配が済むとすぐに野盗の装備品を売るために出発した。
旧文明とは違い電気などは無いため、食堂や酒場、それに夜の店以外は光熱費削減のために日没前後には閉まってしまうからだ。
「グレイス、廃品回収屋の場所は分かるか?」
「はい、ガイドブックによると2つ先の角を右に曲がった突き当りみたいです。」
「そうか、じゃあ間に合うな。」
「そうですね。でも、間に合わなくても冒険者ギルドでも買い取りはしているみたいですよ」
「冒険者向けの酒場もやってるから遅くまで開いてるんだが、メンバー以外は買い取り価格が安いんだ」
「そうなんですか?では私たちには縁がありませんね」
「いや、素材自体がまともなら需要が無くても必ず買い取るんだ。だから店で売れなかった時にはギルドに売る事になる」
「それは便利ですね!」
「あと、お前みたいな新米はこういうブツはギルドに売った方がいいかもしれん」
「どうしてですか?」
「ギルドはな、絶対に適正価格をベースにするんだ」
「えっと・・・それって普通ですよね?」
「はっはっは!やっぱりお嬢様育ちは抜けてるな!」
「もう、わたしは男ですよ!」
頬を膨らませてプンスカ怒る姿に説得力は皆無だ。
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「らっしゃい!」
「買い取りを頼む」
アーノルドは担いでいた大量の装備品を地面に置いた。
「ずいぶんな量だな。免許証を出しな」
「ほらよ」
「なんだ、ブラック解除中か?」
「まぁな、不幸な勘違いがあったんだよ」
「ふん、まぁ解除中なら問題はない。さてと・・・」
店主は鑑定魔法の詠唱を始めた。
装備品が1つずつ順番に淡く光っていくのは、まともに鑑定をしている証拠だ。
そして、ある装備品の鑑定時に店主の表情がわずかに変化したことをアーノルドは見逃さなかった。
「革はボロボロでリサイクルは無理だ。、鉄も打ち直すより鋳潰す方がマシなありさまだな。お情けで大銀貨1枚で引き取ってやろう」
「なぁ、今の俺は確かにグリーン免許だ。だがな、冒険者歴は長ぇんだ。言いたい事は分かるな?」
「ちっ、免取か?」
「そうだ。あんたはこの商売は長いみたいだが、それでも表情に出ちまったくらいだ。大銀貨1枚と交換するくらいならギルドに持っていく方がいい事くらい分かるぜ?」
「まったく・・・グリーン免許に油断しちまったなぁ。まぁいい。バレたからには正直に教えてやる」
店主はそう言うと装備品の山の中から胸当てを拾い上げた。
「この中には宝石が隠されている。万が一の時には着の身着のまま逃げ延びても金に困らないように準備していたんだろうよ」
「どんな宝石だ?」
「大きめのルビーだな。鑑定によると大金貨10枚の価値がある」
「嘘じゃねぇだろうな?」
「俺はそこまで往生際は悪くねぇぞ。まぁ、ここまでひしゃげてると簡単には取り出せんがな」
「いや、見てみよう。ふんっ!」
アーノルドはいとも簡単に鋼鉄製の胸当てを引きちぎった。
「これか・・・大金貨10枚ってのも納得できるな」
「ただなぁ・・・」
「そうだな・・・もっと安けりゃなぁ・・・」
「ルートは無くは無いが・・・」
「一割ってとこだな」
「そうだな。どうする?」
「ジョン・ドゥの5でどうだ?」
「いいだろう」
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アーノルドとグレイスは宿屋へと向かっている。
思わぬ臨時収入を得たアーノルドはホクホク顔だ。
「あの、さっきの会話がよく分からなかったのですが・・・」
「あぁ、あのルビーが大金貨10枚分の価値ってのは分かるよな?」
「はい。それがどうして金貨5枚になったのでしょうか?」
「野盗が大金貨10枚のルビーを持ってるってのはどういう事だと思う?」
「そうですね、おそらく盗んだものでしょう」
「まぁな。ただし、ほぼ間違いなく皆殺しだろうな」
「そう・・・ですね」
「じゃあ、大金貨10枚のルビーの元の持ち主はどんな奴だと思う?」
「貴族・・・ですか?」
「十中八九そうだな。普通に売り払えば間違いなく嗅ぎ付けられる。そうなったら権力に物を言わせて金を没収されるのは目に見えているし、下手すりゃ野盗の一味にでっち上げられて処刑だ」
「そんな・・・」
「で、新米はギルドに売った方がいいっていう話になるんだ」
「え?」
「ギルドなら、さっきの店みたいに騙そうとする事は無いし、トラブルになりそうなブツはフォローしてくれるんだ」
「そうなんですか?」
「盗まれたのが貴族だったら話を付けて、善意の冒険者が取り返してくれたって事にするんだ。貴族からの感謝状と金一封程度しかもらえないが、冤罪で殺されるような事にはならない」
「ずいぶん損なんですね・・・」
「ま、貴族に逆らうと碌なことにならねぇからな」
アーノルドは遠い目をした。
かつて酷い目にあった事を思い出しているのだろう。
「あ、でも今回はお店に売ってしまいましたよね。大丈夫なんですか?」
「あの店なら大丈夫だろ。長く商売やってるみたいだし裏ルートも持ってるしな」
「裏ルート・・・ですか?」
「裏社会を通して身元が辿れないようになってる転売ルートだ。転売ごとに手数料を取られるから、あの店が卸すときは大金貨1枚くらいだろうな」
「えっ!そんなに安く売るのですか?」
「おいおい、まともに売っても利益は良くて金貨2、3枚だぜ。買取資金も借りる事になるから利息も払わなきゃならん。それに盗まれたら大損だから、どこか警備の厳重な金庫に預ける金も掛かる。もしも売れ残ったら大赤字だぞ?おまけに貴族に没収されるリスクまである」
「あ、なるほど・・・」
「その点、裏ルートで売り払えば大金貨1枚だ。俺と山分けしても金貨5枚、しかも帳簿に載せなくて済む金だ」
「でも、裏ルートの人に奪われたりしないんですか?」
「そこは裏社会の掟ってやつだな。そんな事した奴は元締めが地の果てまで追い掛けて始末するから、まず大丈夫だ」
「怖い世界なんですね・・・ところで、ジョン・ドゥって何の事ですか?」
「死んでるが生きてることになってる冒険者だ」
「え、ゾ、ゾンビですか?」
「いや、どこかで野たれ死んだ冒険者だ。そいつの冒険者免許証を利用してまだ生きてるように見せかけてるんだ。たまにクエストを受注したりとかだな」
「そ、それって重罪ですよ?」
「なんで重罪だか分かるか?」
「えっと・・・」
グレイスは途方に暮れた表情をしている。
真っ当な世界で生きてきたので、すぐには想像できないのだろう。
「悪用されたらとんでもなく厄介だからだ。一回でも名義を使われたジョン・ドゥの免許証は完全に廃棄されるから、誰にも見つける事はできないんだよ」
「うーっ、そんな危ない事に巻き込まないで下さいよぉ・・・」
グレイスは恨めしそうな目でアーノルドを睨んでいるが、それもまた美しい。
「はっはっは!これで分かっただろ?お前が売る時は冒険者ギルドの方がいいぞ」
「もちろんそうしますよ・・・」
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