第3話 ブラック免許を解除しろ
「シクシク・・・」
「泣くなよ。お前だって納得してクエスト発注したんだろ?」
「それはそうで・・・あっ!」
「なんだ?」
「ちょっと冒険者免許証を見せて下さい!」
「まぁ、構わんが・・・」
基本的にはクエスト終了時には依頼者に冒険者免許証を見せる事になっている。
ただし、依頼者本人の護衛クエストや薬草採取クエストのように依頼者にとって達成が明らかなクエストでは省略される事が多い。
「なんだこりゃ!」
「やっぱり・・・」
冒険者免許証は真っ黒に染まっていた。
これは、クエスト未達成にもかかわらず報酬を騙し取った場合に起こる現象だ。
ちなみに、達成時には赤く光るので、両者がそれを確認してから報酬を渡すのが正式なやり方だ。
「どういう事だ?」
「依頼の内容は野盗全員の処分でしたよね?」
「確かに全員ぶっ殺し・・・あっ!あの野郎か・・・」
「そうです。もう冒険者免許を返納するしかありませんね」
「いや、まだ間に合う!」
アーノルドは辺りを見回すと、にぃっと笑った。
「見つけたぞ」
「そんな!見えるわけ無いじゃないですか・・・」
「いや、あのでかい崖の下の窪みで寝転んでいる」
グレイスはアーノルドが指さした方向に目を凝らしたが何も見えなかった。
当たり前だ。
猛禽類でさえ出来ない事を普通の人間が出来るわけがない。
「今からあんな所まで行くのですか?わたしは痛くて歩けないのですが・・・」
「大丈夫だ。これを使う」
アーノルドは腰のポケットからピンポン玉ほどの大きさの鉄球を取り出した。
「ひょっとして魔道具ですか?ただの鉄にしか見えませんが・・・」
「そうだ、ただの鉄球だ。」
「そんなものでどうするんですか?」
「投げるんだ、よっと!」
どうせ最後と割り切って対人モードよりも大幅に力を込めて投げられた鉄球は、衝撃波で地面を抉りながら崖の下に着弾し、遠目にも分かる赤い大輪の華を咲かせた。
・・・だけでは無かった。
一拍の後、崖全体が爆散し、眩い光を発しながら大量の瓦礫を上空高くへと吹き飛ばすと同時に白い壁が周囲へと広がっていった。
「危ないから伏せとけよ」
「は、はい!」
呆然としていたグレイスはアーノルドの声で我に返ると、慌てて地面の窪みに伏せた。
一方、アーノルドは楽しそうな笑みを浮かべながら仁王立ちしている。
やはり馬鹿である。
「ふんっ!」
爆風衝撃波が通り過ぎる直前、アーノルドは全身の筋肉に力を込めた。
馬鹿だが頑丈さが取り柄だけあって無傷だ。
「おい、もう大丈夫だぞ」
「な、なんだったのでしょうか?」
「さあな。あんまり手加減せずに硬いもんに当てるとこうなるみたいだ」
「みたいだって・・・こんなになるなら、ちゃんと手加減して下さいっ!」
「いやぁ、思ったより硬い崖だったみたいでな。そうだ、あれ見てみろよ!」
「うわぁ・・・」
キノコのような形の雲ができていた。
「あぁ、そうだ。これから瓦礫が降ってくるから気をつけろよ」
「え?」
ドゴォーーーン!
アーノルドがそう言った直後、攻城用投石器が着弾したよりも大きな音が鳴り響いた。
そして数秒後には無数の瓦礫が熱帯のスコールよりも激しく降り注ぎ、辺りの地面に無数のクレーターを作り始めた。
魔法大型免許を持つ者が全力で防御魔法を展開しても助かるかどうか怪しい状況だ。
しかし、馬鹿も馬鹿を極めれば役に立つ事もあるらしい。
「来た来たーーーっ!ふんっ、ふんっ、ふんっ、ふんっ!」
アーノルドは嬉々として超音速で降り注ぐ瓦礫に拳を振るっていた。
そしてグレイスにとって無限にも感じられる時間が過ぎた後、瓦礫の豪雨はとうとう降りやんだ。
「もう終わりか・・・」
残念そうに呟くアーノルドに対し、グレイスが呆れたような視線を向けている。
「まぁいい、これで奴も間違いなく死んだだろ・・・って何でだよ!」
アーノルドが取り出した冒険者免許証は黒いままだった。
「当たり前ですよ。盗みがばれた後に盗んだものを返しても窃盗罪は消えませんから」
「くそっ!どうすりゃいいんだよ・・・」
「覚えてないのですか?」
「何をだよ!」
「ブラック免許の対処は冒険者試験対策の問題集にも載っているのですが・・・」
「この俺がそんな昔の事なんか覚えているわけないだろう?」
「そんな昔って・・・グリーン免許なんですよね?」
グリーン免許とは、初めて冒険者免許を取ってから3年後の最初の更新までの免許証の事だ。
有効期限の欄が緑色に塗られている事からそう呼ばれている。
つまり、冒険者に成りたてのひよっこを意味するのだ。
ちなみに、更新した後は青色に変わるのでブルー免許と呼ばれ、一定の基準を満たした優良冒険者にはゴールド免許が与えられる。
「いろいろ事情があるんだよ」
「そうですか・・・」
「で、どうすりゃいいんだ?」
「冒険者規制法の第三条第五項の四に規定されているのですが、まず依頼内容を完全に達成する必要があります」
「それはさっきので大丈夫だよな?」
「はい。そして、受け取った報酬は全て返却する必要があります」
「返却ってもなぁ・・・掻き出せばいいか?」
「いいわけ無いでしょう!!!」
「じゃあどうしようも無いのか?」
「いえ、返却が不可能な場合は、依頼者が納得できる同等以上のものを提供する事で代用できるとされています」
「そうか・・・しょうがない、これでいいか?」
「なにお尻を捲り上げてるんですかっ!そんな汚いものしまって下さいっ!!!」
「じゃあどうしろと?」
「今考えていますから後で伝えます。そして報酬返却の他に、依頼者から元のクエストと同レベル以上のクエストを無償で受注する必要があります」
「ぐっ・・・厳しいんだな」
「当たり前です。未達成にもかかわらず報酬だけ受け取るのは重罪ですから、救済措置があるだけでも有り難いと思わないといけません」
「でもよう、お前が納得しなきゃ成立しないんだよな?」
「あなたが野盗にでもなったら厄介ですから、無理難題は出しませんよ」
「ありがてぇ!」
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