第2話 美女(♂)と野盗とゴリマッチョ

一人の美少女、それも”絶世の”などという言葉では到底足りないほどの美少女が、むさ苦しい野盗の集団に剣を向けていた。

もっとも、小刻みに震えながら粗末な短剣をへっぴり腰で構えているだけだが。


「へっへっへ、身包み剥がしてやるぜ!」

「お、おやめなさいっ!」

「安心しな、殺しはしねぇ」

「だ、誰がそんな言葉を信じますか!」

「お前みたいな上玉は高く売れるんでな」

「わ、わたしは男ですっ!」

「ぎゃーはっはっは!ま、売り払う前にたっぷり確かめてやるさ」

「ひいぃっ!」


ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!


「なんだぁ?地鳴りか?」

「あ、兄貴!モンスターが近づいてやす!」


手下の一人が慌てて指さした。

その先には巨大な土煙を巻き上げながら凄まじい速度で近づいてくる二足歩行のモンスターが居た。


「なんだありゃ?ま、ここいらにゃあ大したモンスターは居ねぇ。とっとと倒してお楽しみタイムだ!」

「へいっ!」


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「なんだ人間だったのか」

「失礼な奴だな。それ以外の何に見えるんだ?」

「ゴリラ型モンスターか、せいぜい原始人だろうが!」

「そんな訳あるか!」


誰が見てもそうなのだが、この男には自覚が無い。


「まぁいい。ところでお前、襲われてるのか?」

「は、はいっ!た、助けて下さい。」

「俺は冒険者だ。こいつら皆殺しにしてやる代わりに、有り金全部よこして一発やらせろ」

「は?」

「現地発行クエストだ。そのなりじゃあ大して金は無さそうだし、溜まってるからそれで手を打ってやる」

「それじゃあこの人達と同じじゃないですか!」

「馬鹿言うな。薬漬けにされて三日三晩おもちゃにされた挙句、どっかの金持ちに売り払われるぞ?飽きたら使用人のおもちゃにされて、最後は生きたまま豚の餌になるのとどっちがいい?」

「うっ・・・」

「条件が飲めないなら俺は行く」

「わ、分かりました・・・クエストを依頼します!」

「よし、その依頼、このアーノルド・スタローンが引き受けた!」


男は腰のポケットから冒険者免許証を取り出すと、それは付与されている魔法の効果で青く光っていた。

冒険者規制法により受注時には免許証を提示する事が義務付けられているのは、依頼者がこの光を見て正式に受注された事を確認できるようにする為だ。

もちろん、冒険者免許証を偽造する事は重罪である。


「ぶ、ぶふっ・・・ぎゃーはっはっは!」

「なに笑ってやがる!」

「ちょ、おま、それ普通一種免許じゃねぇか!」

「しかもグリーン免許ですぜ、兄貴」

「ふん、ほざいてろ雑魚が!」

「見た目に騙されるとこだったぜ。おいカンギ、おめぇ魔法中免持ってたよな?」

「へいっ!」

「派手なの一発かましてやれ!」

「がってんでぃ!」


カンギと呼ばれた男の前に直径1メートルはあろうかという炎球が突如として現れ、アーノルドに向けて突進した。


「危ないっ!避けてっ!」

「ふんっ!」


アーノルドは迫り来る巨大な炎球に向けて拳を振りぬいた。


馬鹿である。


攻撃魔法への対処方は、避けるか防御魔法を展開するしかないのだ。

だが、それは飽くまでも”常識では”だ。

アーノルドの拳は炎球を木端微塵に吹き飛ばした。


「そんな馬鹿な・・・拳で魔法を・・・グリーン免許が・・・ま、まさか・・・ひいぃっ!」


カンギは顔を引きつらせながら脱兎の如く逃げ出した。


「てめぇ、カンギ!」

「はっはっは!雑魚はやっぱり雑魚だな」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!こんだけの人数に勝てると思ってんのか!」

「当たり前だ、雑魚」

「お前らやっちまえ!」


数十人の野盗の群れが一斉に武器を抜いた。

どれ程の達人であろうと手足が二本ずつしか無い人間である以上、大勢に一斉に切り掛かられては対処しきれないものだ。


「ふんっ!」


だが、アーノルドは臆することなく片腕を横薙ぎに大きく振った。

途端にドーンという音が鳴り響く。

先端が音速を遥かに超えた事により発生した衝撃波だ。

野盗の群れはその凄まじい衝撃波を正面から受けてしまった。


結果は、全身粉砕骨折と全臓器破裂によるショック死だ。

もちろん色々なものが飛び出しており、まさに地獄絵図だった。

その余りにも凄惨な光景を見て美少女は腰を抜かす。


「ひいいいぃっ!あ、あ、あ、あなたは魔族ですね!」


怯えた顔もまた美人である。


「んな訳あるか!魔族が冒険者免許なんか取るか!」

「え、あ、あぁ、そういえばそうですね・・・」

「ところで名前は?」

「あ、失礼しました。わたしの名前はグレイス・ケラーと申します。危ないところを助けて頂きありがとうございました」

「分かった。じゃあグレイス、報酬を頂くぞ」


言うや否や、アーノルドはグレイスに覆い被さった。


「ちょ、ちょっと待って下さい!わたしは男ですよ?」

「何を白々しい事を・・・グレイスってのは女の名前だろ?」

「そ、それは両親が暴走して・・・ちょ、ちょっと止め・・・」

「やっぱり付いて無ぇじゃねぇか。あ、あれ?こっちも無いぞ?」

「だから男なんですっ!その・・・すごく・・・小さい・・・だけで・・・」

「おぉ、これか。埋もれてて見えなかったぞ」

「コンプレックスなんですから言わないで下さい!だから、その、もう止めてくれませんか?」

「まぁ、どっちでもいい。俺は細かいことは気にしないタイプだ」

「え?ちょ・・・もごっ・・・う、うぅ、うううううーーー!!!」

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