第04魔 -ギャンブルの話(パチンコ編)-

「さあリナちょ、今日も退屈な魔の時間を雑な談話で凌ごうじゃないか」

「雑談って雑な談話の略なの?」


 面倒なので後回しにしていたフライヤーの掃除を、なるべく時間を掛けて終わらせて。やることがなくなってしまったとレジ裏に戻った早々、詩穂に捕まった。客のいない時だけ座って良い事になっている、キャスター付きの椅子にどっかり腰掛けてる詩穂に捕まった。


「ほれ」

「さんきゅ」


 詩穂はキャスター付きの椅子をもう一つこっちに転がす。まあ座れよの意。

 受け取って、私は静かに座り。一つ息をついてから。


「なあ詩穂、聞いていいか」


 今日は、私の方からネタを振ることにした。


「駄目って言ったら?」

「絶交」

「知らなかった言葉の意味を知って使いたがる小学生みたいな手軽さで絶交とか言わないで、泣いちゃう。……で、何をアタシに聞きたいのさ」


 言葉と裏腹に、詩穂は泣く素振りなんて一ミリも見せず。けらけら笑いながら私に促してくる。


「お前、パチンコやった事ある?」

「こども時代に使える飛び道具のことだったら無いよ」

「なんちゃらの伝説じゃなくてギャンブルの方」

「あー。……うん。あるか無いかで言ったらある、と思う」

「何その変な物言い」


 行ったことあるかなのに、あると思う、は変だろうよ。


「いや、あるよ。あるんだけど、ほとんどないって言うか。お父さんの付き合いで一回行っただけだからさ。多分アドバイス出来ることは無いってだけ」

「成程──て、親父さんと行ったのか?」

「うん。暇で仕方なかった時お父さんに暇だー暇だーどっか連れてけーって絡んでたらパチンコ行くかって言われて。正直行きたくは無かったけど暇で死ぬよりはいいかなって」


 絡む方も絡む方だし、連れていく方も連れていく方だし、付いていく方も付いていく方だと思った。


「な、仲睦ましい事で。……楽しかったか?」

「全然? 何が楽しくてお金払って数字が回るの見なきゃいけないのやら」

「言い方」

「だって事実だしね。あ、でもお父さんはその日滅茶苦茶勝ったみたいで美味しいご飯連れてってくれたからそれは楽しかったんじゃないかな」


 それはなんとも詩穂らしい喜びの理由だ。


「なんでそんな事聞くの? ギャンブルに身を投じて闇の世界の住人にでもなりたくなったの?」

「パチンコするだけで闇の世界の住人になれんのかよ。……私の好きな作品、お前も知ってるだろ?」

「リナきちの好きな作品……? 顔がいい男達の──サッカー? バスケ? バレー? どれ?」

「サッカー。その作品がパチンコになるみたいでさあ」

「あーはいはいなるほどなるほど」

「やっといた方がいいのかなって。思っただけ」


 ギャンブルの類は死ぬほど興味が無い。

 だって負けたら絶対後悔するし。好きなコンテンツに課金した方が絶対有意義だと思うし。

 ……しかし、推してるコンテンツがパチンコになりましたと言うのなら話が変わってきてしまう。


「なんか調べてみたらパチンコ用に書き下ろしたシーンとかキャラソンとかあるらしくて。ギャンブルはしたくないけどそれは見たい。供給に飢えてるから」

「行けばいいんじゃん?」

「そうなんだけどなんかこわい……推しの供給と引き換えに全財産を失いそうで」

「そこまで使わなきゃいいんだよ!?」


 それはそうなんだろうけど。

 やったことがないことって滅茶苦茶怖いじゃん?


「だからまあ、行きたいけど怖いって話。どうしようかなって」

「うーん。一番良いのは有識者と並んで遊ぶのがいいんだろうけど。私もお父さんの隣であーだこーだ言われながらやってたし。リナっぺにパチンコする友達とかいないの?」

「私の友達の少なさ知ってるだろ」

「ハ、かわいそ」

「蹴るぞ」

「そういうとこだよ、分かってる?」


 分かってるわ。


「他には──アプリを待つとか? その内出るんじゃない?」

「パチンコにアプリとかあるんだ」

「その台のやつが出るかは知らないけど。出なかったら台そのものを買っちゃうとかもアリなんじゃない?」

「え」


 あんな事を言いつつも、普通に参考になるアドバイスを聞いていると予想してない言葉が出てきた。


「台って買えるのか?」

「中古店みたいなとこで買えるみたい。実際アタシの家にもあるしね、スロット台だけど。お父さんが昔お世話になった台とか意味わかんない事言ってた。今は倉庫でホコリ被ってる。だからまあ、パチンコ台も買えるんじゃないの? 値段とかは知らないけど」

「へえ……」


 つまり据え置きのゲーム機みたいなのを想像すればいいのだろうか。

 ……でも、しかし。


「家にあっても絶対邪魔だろうな……」

「音が出て光ってうるさい家電ゴミってお母さんが言ってた」

読み言い方」


 やっぱりそうなのか……。遊ばなくなった時のことを考えると台を買うのはやめといた方が良さそうだな。


「あとは──」

「っと、詩穂」

「んー?」


 また何か話してくれそうな雰囲気だったが、ここで客の来店を報せる音が鳴った。


「客だ、立て」

「おおっと。いぃらっしゃいませぇー」

「っしゃっせー」


 急いで立ち上がり、一瞬で外用のスマイルモードになる詩穂と併せてやる気の多くない挨拶をした。



◇続

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