放火魔の日常
私の炎への興味はアルコールランプから始まった。皆さんも小学生の理科の実験で一度は使った事があるであろう。私は炎が揺らめいている様子を見ていると、気持ちが落ち着き、リラックス出来た。大人になってもその感覚は変わらず、台所で火を点け半日ぼーっと眺めている日もあるくらいだった。「もっと大きな炎がみたいな」ふと、そんなことを思ってしまった。小さな炎じゃ物足りなくなってきたのだ。こうなってしまうと行動に移すまでは早いもので、気がつくと他人の家を燃やしていた。ただ、勘違いして欲しくないのだが、私は人殺しをしたいわけではない。むしろ人殺しなんてする奴はクソヤローだとさえ思っている。私は炎を眺めたいだけだ。なので計画としてはこんな感じ。まず、燃やし甲斐のある家を見つける。インターホンを鳴らし、人が居ないのを確認してから火を放つ。一度その場を離れ、1時間後、野次馬に紛れて炎を眺める。これが私のファイアーショーの流れだ。私のショーはだいたい夕方頃に行われる。それも毎日ではなく不定期に開催される。それでは、ショーがない日はどんな風に過ごしているか、昨日を例にしてお話ししよう。
昨日は朝早く目覚め、天気も良かったため散歩に出かけた。途中公園のベンチで座っていると、隣にチワワを散歩させていたおじさんが座り、20分程度話していた。私は犬が大好きなので、とても良い時間が過ごせた。おじさんが帰った後、2時間くらいベンチで居眠りした。そろそろ家に帰ろうと腰を上げたところで、目の前で重そうな荷物を持っているおばあちゃんが目に入った。話を聞くと、商店街のくじ引きで洗剤詰め合わせセットが当たったみたいだ。「良かったですね」「ありがたいね~」袋いっぱいの洗剤を持って、おばあちゃん家まで送っていこうとしたが、途中のバス停までで大丈夫とのこと。「ありがとね~」バス停に着くとお礼を言われ、これで飲み物でも買ってねと150円貰った。それも10円玉15枚で。なんでも昔旦那様と行った京都旅行が忘れられず、平等院鳳凰堂がデザインされている10円硬貨を集めてて、家に何千枚も持っているらしい。なんだか凄くほっこりした。おばあちゃんと別れた後、自宅近くのいつものラーメン屋で昼食を食べることにした。外観はぼろぼろだが、この店の大将が作るラーメンは最高に美味しいのだ。もっと繁盛してもおかしくないのに。その後、家に帰り、洗濯物をしてまた少し寝た。夕方頃、目が覚めた私は夜ご飯を食べ、お風呂に入り就寝した。意外にも普通の人と変わらないこんな日常を過ごしている。
さて、今日はショーの日だ。私は今ターゲットとなり得る無人の家を見つけた。早速火を放ち、一時間後に放火現場に戻ってきた。なんて綺麗な炎なんだ。恍惚と眺め入っていると、赤く燃え上がる炎に加え、家の一角から緑色の炎が燃えさかっているのが見えた。「おい!中に人がいるぞ!」その時、野次馬の一人がそう叫んだ。まずい、このままだと人殺しになってしまう。不安と焦りが募ったが、大きな火柱をあげている家を眺めるしかなかった。
次の日、新聞の記事にはこう書いてあった。
民家が全焼、1人が死亡。死体には足首と手首にロープで縛られた痕跡有り。殺人事件として捜査中。
それから半年経っても、逮捕されることはなかった。しかし、誰が何のために拘束していたのだろうか。私を人殺しのクソヤローにした犯人に怒りを覚えながら、今日も綺麗にリフォームされたラーメン屋で昼食をとっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます