カメレオン女
私は他人に嫌われることにすごい恐怖を感じてしまう。嫌われるということは、その人の中では私はいらない存在、むしろ、いてはいけない存在だということになるからだ。そんなこと私は許さない。他人に私という存在を否定させないために、私はカメレオンになった。
私の名前は佳奈。この春、新高校生となった私は、これからの学生生活に心を躍らせていた。中学生の頃はクラスでもおとなしいグループに所属しており、クラスカースト上位の子達に対する理不尽な陰口を言い合って盛り上がっていた。でも実は彼女らに強い憧れがあった。私もあんな風に皆に注目されたいと。この高校には同じ中学校の子は一人もいない。これはカースト上位グループに所属するチャンスではないか!入学式の最中も、担任の教師の自己紹介の最中もずっと、誰がこのクラスの中心になりそうか、そればかりを考えていた。だって、こういうのって初めが肝心なんだから。担任の少し長い自己紹介が終わると、生徒が教壇の前で一人一人自己紹介をする時間がやってきた。私はその自己紹介の中で4人の女の子に目をつけた。
一人目は大野桜、ショートカットで活発そうな印象。自己紹介でもはきはきと喋っており、部活はソフトボール部に所属していたみたいだ。こういう運動出来る女の子は、同性からも異性からも好かれやすい。
二人目は椎名真子、高身長で、切れ長な目なので正直怖い。自己紹介では淡々と喋っていて、クールな印象。こういう子が実は上位グループの中心人物だったりする。
三人目は長野美緒、多分このクラスの中で一番可愛い。それを自分でも分かっているような、いや確実に分かっている振る舞いをしている。「てへっ」とか「むぅ」とかアニメキャラが言いそうな相づちをかましてくる。ただ、可愛いのは事実なので上位グループになるだろう。
四人目は武藤蘭子、自己紹介で笑いを取りにきたのは、男女あわせてもこの子だけだった。体型はぽっちゃりで愛嬌のある顔、さらにお笑い要員となるとクラスのマスコットキャラクターとなり得るだろう。
私は早速この四人に話しかけた。1週間、2週間と徐々に打ち解け、1ヶ月経つ頃にはすっかり仲良し5人組となっていた。もちろん、私の予想通りクラスの中心5人組として。
「桜は今日も部活?頑張って!」「真子昨日のドラマみた?」「美緒ってすっぴんでも可愛いよね!」「蘭子一発芸して!」「佳奈一緒にかえろ!」こんな風にクラスの中心人物達と話せるなんて、そして私もその中心人物と同じグループなんて。周りの子達の憧れの眼差しを感じ、とても気分が良い毎日だった。しかし、楽しい時間はそう長くは続かなかった。桜とトイレで会った時「蘭子って笑わしてるんじゃなく、笑われてるよね」と陰口を聞かされた。私はせっかく上位グループに所属できたのに、嫌われたくないという気持ちがあり、桜の意見に同調した。それからも誰かの陰口を聞かされる度に同調することにした。真子と一緒に帰った時「美緒の言動ムカつかない?気持ち悪いんだけど」「私もそう思う」蘭子とご飯を食べに行った時「真子っていつもクールぶってるけど、あれが格好いいと思ってるのかな?逆にダサくない?」「私もそう思う」美緒と買い物に出かけた時「桜って運動は出来るけど頭悪いよね?」「私もそう思う」陰口を聞かされる度に、ころころと私の色は変わっていく。そしてとうとう、四人の仲に軋轢が生じた。あーあ、せっかく上位グループに所属出来たと思ったのに、皆バラバラになっちゃったな。もう二度と5人で集まることが無いと思うと、少し寂しい気持ちになった。入学したての頃は5人で一緒にご飯を食べたり、休日には映画を観に行ったりと楽しい時間を過ごしていたのに。最後にもう一度やり直せるチャンスを作ろうと思い、4人を呼び出した。「もう、4人が仲良く話す事は無いのかな?」「いや、あるよ」真子が言ったその言葉に他の3人も頷いているのがとても嬉しかった。
「「「「佳奈の悪口を言う時」」」」
その時私の色は真っ黒になった。
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