第一話 クラスメイトは変人である

 ご近所の皆様から『変な生徒を一人見かけたら近くに夜月学園の生徒変人が三十人いると思え』と噂されている夜月学園に入学してから三週間経ったある日、僕──上村うえむら寛人ひろとは今までの高校生活で一番有頂天な気分で読書をしながら朝のホームルームを待っていた。


「よう上村、珍しく機嫌笑顔だな。何かいいことでもあったのか?」


 すると僕に対して、僕よりも背が高くがっしりとした体をしたツンツン頭の男──山本やまもと堅治けんじが話しかけてきた。

 よく分からんが僕が笑顔なのがとても珍しいらしい。


「失礼な。僕だって笑う時くらいあるさ」

「そりゃ悪かったな。で、いいことがあったのか?」

「そりゃそうだよ。だって今日は転校生がやってくるんだよ?テンションが上がってしまうのは当然でしょ」


 そう、今日はうちのクラスに転校生がやって来るそうで、しかも聞いた話では美少女らしい。健全な男の子としてはやはりテンションが上がってしまうのは仕方ないはずだ。

 そして何より、


(まともな人間が増えるのは嬉しいし)


 というのが本音だった。


 だって僕のような常識人にはこの変人だらけ環境はしんどいんだもん!

 まぁ、口が裂けても言わないが。

 言ったら多分山本は笑顔で『誰が変人だ、誰が』とか言って僕をフルボッコにするだろう。

 山本は俗に言う不良で『死神』と呼ばれており、そんな化け物を相手にする気は僕にないのだ。

 だって怖いもん!


「そう言う山本は興味ないの、美少女転校生?」

「あると言えばあるが……そこまで、といったところだな」

「……ふーん、それって彼女がいるから?」


 僕は少し探りを入れてみる。

 この男は『死神』の異名や、あと頭がいいことでも有名だがそれに負けないくらいくらいの噂がある。


 曰く、とてつもない美少女と彼氏彼女の仲を通り越して婚約までしているらしい。


 もしそうだと言うのなら僕はこの男を秘密組織『Other他者の Happy幸せ Break破壊する』、略して『OHB』の一員として血祭りにあげなければならない。

 我らは己以外の幸せを決して認めない!


「あぁー、あの噂はデマだからな。コンパスをこっち向けるな」

「え、そうなの?なーんだ良かった」


 僕はコンパスを筆箱に片付けながら安心する。

 本当に良かった。どうやら手を汚さずに済んだらしい。


「オレも楽しみ」

「僕も気になるなー」


 僕たちがそんな話をしているとクラスメイトのムッツリスケベ(趣味は盗撮)の平野ひらの創多そうたと令嬢の服装をした美少年・光井みつい京佳きょうかが話しかけてきた。


「へー、ムッツリな平野はともかく女装癖のある光井が女に意外だな〜」

「「失礼な!」」

「ん、何が?」


 何か間違ったことを言っただろうか?ダメだ、全く心当たりがない。一体何に対して怒っているんだろ?


「オレはムッツリなんかじゃない」

「今更そんなことを言われても……」


 平野は先ほども言ったがムッツリであり更なる高みエロへ到達するため自らが撮影した写真で売買を行い資金と同志を集めており、その関係で僕も秘蔵書エロ本や現金で平井から写真etc.を買ったことがあるから今更なんだよな……。

 入学してから三週間しか経ってないのに一部では希望を取り引きする者ディーラーとまで呼ばれ、信者化した者までいるそうだ。


 とは言え決めつけるのはどうかと思うから念の為に聞いておこう。


「平野の趣味は?」

「盗さt…ローアングルから風景や人物の撮影」

「……それって俗に言う盗撮というやつじゃない?」


 さっきも盗撮って言いかけていた気がするしもはや言い訳できない気がするするんだけど……。


「やっぱり隠しカメラとか隠してあるの?」

「いやいや、流石にそんなモノあるわけ無いと思うよ。ね、平野?」


 光井の『流石にそれは無い』という、常識的な意見を聞くと僕もその通りだと思えてきた。

 うん、流石にそれはないよね!


「………(タラタラタラ)」


 だが平野。それだと君は何故にそんなにも大量の冷や汗を無言で垂れ流しているんだい?それだと心当たりがあるみたいじゃないか。


「……被告人、何か言うことは?」

「僕はそれでもやってない」

「………実はここに僕のコレクションエロ本があるんだが」

「「なんで学校ここにあるんだろう」」

「男子トイレと男子更衣室以外の場所にローアングル多めで仕掛けました」

「「お前はお前で認めるのかよ!?てか手のひら返すの早いな!?さっきまでの抵抗はどうした!?」」

「このことを黙っていてくれるなら、

今ならオレの努力の成果盗撮写真や動画のうち好きなのをそのエロ本と引き換えに売る」

「買った!」

「「売っちゃったし買っちゃったよコイツら」」


 何かツッコミのようなものが聞こえるが気のせいだろう。

 平野はともかく僕のような常識人にツッコミどころなんて無いはずだからね!


「とりあえず君がどれだけ性に情熱を賭けているかはよくわかったよ。あと、君が物凄いレベルのスケベだということもね」

「エロ本を学校に持ってきて交渉の材料にした挙句、手に入れた(盗撮)写真を何事も無かったかのように懐にしまっている奴に言われたくないと思うぞー」


 山本が何か言っているが断固スルーだ。変人の戯言に付き合っている暇はない。


「そんなんだから彼女いない歴=年齢なんだお前は」

「死ねー山本ォーーー!」


 前言撤回。

 僕のトラウマを躊躇なく攻撃したこの男をスルーなんてもうしない。人の心を平気で傷つけるような奴は生きてちゃダメな人種なんだ。

 だから僕は、この男を──殺す!


 繰り出すは蹴り上げによる金的。如何に『死神』と呼ばれるほどの男といえどタダでは済むまい。


「悶絶しやグハッ!」


 突如、僕の喉に凄まじい衝撃が走った。

 気がつくと山本が僕の喉に手刀を放ったからだ。

 僕は苦しみのあまりうずくまる。

 喉やられるとのまじで辛い……。


「山本、いくらなんでも喉やめて……。一応は急所だから。百歩譲ってもう少し躊躇するとかゴホッゴホッ!」

「殺られる前に殺るがモットーだからな。あと、金的しようとした奴に言われたくない」


 なんて男だ、急所攻撃を全くの躊躇なく繰り出すとは。確かに『死神』と呼ばれるだけのことはある。底の知れない男だぜ。次からは不意打ちでいこう。


「オ、オレはスケベなんかじゃ、ない」(フルフル)

「その話まだ続いてたの?」


 盗撮がバレた上に、クラスメイトが喉をやられ苦しんでいる間もずっと自分がスケベであることを否定し続けていたとは。コイツも大概のようだ。

 これだと女装した光井の方がまだ常識人に見えるから不思議……まぁ、見た目が美少女で服がとても似合ってるからなんだろうけど。


「いや、僕は演劇部の方針で色んな衣装を着こなす為に着てるだけだからね!?この服を選んだのだって部長だし、僕は女装の趣味なんてないぞ!」

「そうなの?」


 でも、いくら演劇部の方針とはいえ登校中は別に着なくてもいい気はするだよなぁ。

 あと、その服マジ似合ってる。似合いすぎて同性の僕までドキドキしちゃう。


 とりあえず演劇部の部長グッジョブ!


「おーい馬鹿ども、もうホームルームのチャイムが鳴ってから5分経っているから早く席につけー」


 みんながバカなことをしている間にどうやら始業の鐘が鳴っていたらしい。担任の武林たけばやし文乃ふみの先生が席に着くよう促す。

 とういうか、チャイムが鳴ってから5分経つまで待つ暇があるなら僕の喉が殺られる前に言って欲しかった。この担任も十分に変人と言えるだろう。


「ま、いっか」


 確かに僕の周りは変人だらけではあるが、今は良しとしよう。


「……それよりも美少女転校生が楽しみだし」


 そう呟きながら僕は自分の席に着いた。

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