察しが良すぎる特殊部隊とデスゲーム

ヒゲプロ

完結


 白一色の狭い部屋。


 目が覚めると一台のモニターのみの部屋に隔離されていた。


 ドアは一つ。

 壁に細工があるようには思えない。


 壁を背負う形でドアから距離を取る。


「ようこそ。今回のモニターテストにご協力くださいまして誠に有り難うございます。ただいまより係の者が各部屋でテストの説明を行いますので暫くお待ちください」

 

 モニターには仮面をつけ機械音声で喋る人物が映し出された。



 カカッ……カッ……カッカッ……


 複数の足音が近づく。

 距離からして、恐らく部屋同士は隣接しているのだろう。

 先程の音声では各部屋と言っていた。

 同じ状況の人間が複数いることは間違いないだろう。

 カッ……カッ……


 足音が減った。こちらに向かう足音は一つ。

 ならばこの部屋が最後なのだろう。


 ガチャ……

 鍵が開く。


 「ご気分はいかがでしょうか? ただいまより説明に入りますがよろしいですか?」


 全身を装束に身を包んだ、人とは思えないモノが喋りだした。

 ここで、とやかく話すのも面倒だ。黙って頷く。


「ただいまより皆様には、この建物から脱出していただきます。中には様々な仕掛けがございますので、時にはお怪我される場合もあると思いますが、ご了承下さい。また、時間内に脱出された場合には賞金をお支払しますが、定めた金額を脱出された人数で分配するようになっていますので、お察し下さいますようお願いします」


 成る程。仕掛けをクリアするために協力する必要があるが、最終的には協力者が少ない方がいい訳か……


「最後に……一つだけ質問を受け付けます」


「お前は人間か?」


「……面白い方ですね。答えはNoです。以上で説明を終わります。それでは外へどうぞ」


 人間でないのなら簡単だ。

 立ち上がり、ドアへ向かう。すれ違い様に人ではないモノの腕を右手で掴む。

 まだ反撃は来ない。刹那に左の肘で掴んだ腕を折る。

 ようやく反撃の体制に入るが、もう遅い。折った腕を捻り上げ背後に回る。

 折れた腕でモノの首を締め上げる。人間なら痛みと血流停滞で直ぐに倒れるだろうが、そうは行かないようだ。

 折れた腕をそのまま自分の方へ引き上げる。モノは宙に浮いている状態になる。

 その状態のままドアとは反対の壁へ走る。

 顔から衝突したモノは、異質な音を立て始める。


 引いては壁へ、引いては壁へ。数回繰り返すうちにモノから力が抜けて行くのを感じる。


 脱力したモノを床に叩き付け首を捻る。

 人間では不可能なほど捻る。

 

 動力が何か分からない今は、全てを破壊するしかない。捻り切った頭部を踏みつける。


 床に転がっている胴体部分も解体する為、四肢を捻切ねじきる。

 これで動き出しても余裕ができるだろう。


 捻切っている最中、数本のワイヤーが見えた。装束を破りてのひらに巻き付ける。

 ワイヤーの先端を握り一気に引き抜く。胴体部分からは2m程のワイヤーを手に入れる事が出来た。ついでに装束を破り、布を数枚調達する。

 心配無いとは思うが用心のため、再度各部位を踏みつけ破壊しておく。


 しかし……この部屋にはカメラ等ないのだろうか。



 外に出ると見える範囲では4人、皆同じように怯えた表情をしている。


 自分の部屋はやはり角だったらしく、背中側には一枚窓があった。

 一瞬で分かるほど、高層階の景色が目に入る。


 隣の部屋の男に近づく……。


「おい、あんた。あんたの部屋にも説明係は来たか?」

 

 男は一瞬肩を震わせたが、振り返りただ黙って頷いた。


「そうか」


 男の部屋に入ると同じ顔をしたモノがいた。


「おい。この男にちゃんと説明したのか? 分かってないみたいだぞ」


 男を指差しながら中のモノを通路まで呼び出す。

 モノは歩き始め、自分と男の間に入る。


 後ろから顔面を掴み、そのまま背中側の窓まで走る。

 モノは暴れているが関係ない。これだけ速度が乗れば多少暴れられても逃げられることはない。


 そのまま、モノの後頭部を窓に打ち付ける。

 一度では無理だった。もう一度。もう一度。もう一度。

 ヒビが入った。

 

 更に打ち付ける。

 モノは力なく崩れる。

 窓の四隅を叩き人一人通れる穴が出来た。



 通路を見ると男が失禁しているようだ。 


 窓から首を出す。

 ……あった。


 排水用のパイプが地上まで伸びている。


 床に転がっているモノの装束を引きちぎり、腰に回す。顎部を外し、ワイヤーと腰布に連結してベルトループに結び着ける。


 照明が真っ赤に変わり、いくつもの足跡が駆けてくる。ゆっくりはしていられないようだ。


 先頭部隊に見つかる。手には黒光りするライフルを携えている。

 こちらに気付いたモノ達は躊躇することなく引き金を引く。


 通路に出ていた他の人間を次々と肉塊に変えていく。


 窓から身を乗り出し、モノの顎部をパイプに引っ掛ける。

 張力を利用しながら地上まで一気に下る。


 下る……下る……下る。


 地上まで数m。

 そこで気付く。


 ……建物から脱出した。

 しかし、なぜ奴等は地上で銃を構えているのか。

 しかもこの距離で外す事は無い筈だが……撃ってくる様子もない。


 そのままするすると地上へ降り立つ。


「おめでとう。君が最初の脱出者だ。しかも最速だ。素晴らしいよ。さぁ賞金を」


 モニターの機械音声と同じ声だ。この人物がトップだろうか。

 差し出された賞金を受け取るため一歩踏み出す。


 


 膝が折れ、力が入らない。

 手を地面に着く。やはり力が入らない。


 足元には電極のような物が張り巡らされている。



「二体もダメにしやがって……まぁいい。今回のテストはデータとして最高の出来だ。これを回収しておけ。データ抽出後にリセットして、もう一度やるぞ。今回と同じ行動なら出荷も可能だろ」


「どうだ? 今の気分は。 生身の体に機械を埋め込まれた気分は。お前は覚えてないだろうが、今回が99回目のテストだ。お前の兄弟を二体も犠牲にされたが、出荷されれば元は取れる。次はもっと良いデータを頼んだぞ」


 耳を捻られ視界が暗転する……。










 目が覚めると一台のモニターのみの部屋に隔離されていた。







           了





 

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