第七十七話


 色々な思惑が飛び交う修練祭は、そんなドロドロとした思惑を余所に素晴らしいまでの快晴に恵まれた。

 リクシアには自国だけでなく、他国からも多くのヒトが祭りを楽しむために訪れ、普段から活気のある王都は城の兵士が治安維持や誘導に駆り出される程に高まっていた。

 

 「……わ、私変じゃないですかね?」


 「変ではないですね。 むしろ可愛すぎて私が変になりそうなくらい素晴らしいですよリリア様」


 「えぇ!? あ、ありがとうございます……」


 修練祭ではリリアが一応王女の護衛兼ゲストという事で参加するので、正装する事になったのだが折角ならという事で俺と店主の趣味……じゃなくて実用性があり、かつ見た目にも素晴らしい物を作ろうじゃないかと意気込んで作ってもらった。


 上半身は大きく背中が開いており、胸の部分に髪の色に合わせた蒼銀の花の細工をあしらい、スカート部分は青を基調としており上から次第に淡い色になるように生地を重ねてヒラヒラとしたロングになっている素晴らしいドレスである。


 正直、店主のセンスの良さに脱帽です。

 流石紳士。特に背中の部分の色気が最高です。

 後で追加で報酬支払いしよう。


 

 「しかし……正直この姿を他の男に見せるのは……変なのが湧いてきそうですね」


 「現状、お主が一番変なのではないか?」


 「何を言っているんですか陛下? ただでさえ可愛らしいリリア様がこんなにも美しいのですよ? 私がおかしくなるのは仕方無いです」


 「あぅぅぅ……そんなに褒められると恥ずかしいですぅ」


 「ねぇエイワス? 私にはなにもないのかしら?」


 「いや、えっと……その、綺麗、だと、思う」


 フィオナ王女殿下は真っ赤なドレスで、胸元が開いたパッと見るとナイトドレスに見えなくもないゆったりとしたドレスだが、所々にあしらわれている装飾のためか下品になりすぎず嫌味のない趣味のいいドレスだ。

 そんなドレスを褒め忘れるとは甘いなエイワス。


 「もう……そう言えば今日は貴方も出るのよね?」


 「あ、はい。 ……自信は無いですが出来るだけ頑張るつもりです」


 「ふぅむ。 婿殿には……是非頑張って欲しいのだがなぁ?」


 自信の無さそうなエイワスを一睨みするゴード。

 実に嫌らしい台詞である。

 やはり愛娘が選んだ男には頑張って欲しいのだろう。

 多分他意はないはずだ……多分。


 「ん……続々と来賓も来てますね。 私はそろそろおふざけを減らしますので。 リリア様も当たり障りのない程度に来賓をあしらっておいてください」


 「が、がが頑張ります。 っていうかおふざけって認めた!?」


 「気のせいです。 ベルトラントの王子も来るみたいですが……まぁどうしても我慢できない時は私を呼ぶか、いっそぶち撒けてもいいですよ?」


 「ダメに決まっているでしょう!?」


 「仕方無いんです王女殿下。 あのヒトはゼクトさん達をバカにしている雰囲気があるので」


 「せ、せめて爆発する前におっしゃって!?」


 リリアの決意の表情に慌てるフィオナ。

 外交問題……というか戦争の引き金になるからな。

 流石に慌てるよな。

 まぁ流石に本気ではやらないだろうし冗談だよ、冗談。

 ……冗談だよな?

 煽っておいて言うのもなんだけど、リリアさんは本気で頭をホームランしそうで怖いんだよな。

 

 お、ヒトの波が掻き分けられて誰か近づ……ああ。


 「うむ! 久しぶりであるなゼクト殿! 壮健そうでなによぶぁぁ!?」


 「邪魔だよどきな愚弟。 久しぶりだね坊や。 今は陛下って呼んだ方がいいか。 それに王女殿下もおっきくなったねぇ。 ちょっと前までおねしょしてたのに」


 「カーラ殿、流石に坊やはいかんな。 まさか貴女が出るとは思っておらなんだ」


 「お、おおおおねしょはとっくの昔に治ってます!」


 フィオナさんや……いやまぁいいけど、そんな真っ赤になって否定しなくても。

 

 しかしガーチさんを愚弟と呼ぶこのカーラさんとやら。

 実にエロい。

 いや、何がエロいって乳が……。

 あ、最初に出てきた二人が濃すぎで気づかなかったけどキリネアさんと後一人モブっぽいダークエルフさんがいる。

 これで一チームなのかな?


 「そして……ふーん。 そこの小娘が英雄とやらで、そっちの執事さんが使い魔か」


 値踏みするような……いや、文字通り値踏みしてるんだろうな。

 不愉快という程でもないが、気持ちのいいものでもないな。


 「うん、決めた。 坊、じゃなくて陛下。 あたし達が優勝したら賞金はいらないからそこの英雄さんと使い魔を貰うよ」


 「はっ!? いや、カーラ殿!? 何を言っている!?」


 「別にいいだろ?」


 「駄目に決まっておるだろう! 彼は有用な紳士……じゃなくて、リリア嬢は我が国の最終戦力だ。 おいそれと渡すはずなかろう」


 さらっと本音が混ざっているゴード。

 俺も陛下は大事な紳士仲間だと思っているぜ!

 いや、それは置いといて、またずいぶんな要求をしてきたなこの女性。

 陛下とはフランクな感じだが、こんな無茶な要求を出してくるとは。


 「まぁこっちにも事情があるんだ」


 「ふふん。 ゼクト殿がダークエルフの秘技を使えば間違いなく我と同様の筋肉が得られるであろう。 我としてもゼクト殿と共に肉体の限界に挑むのも良いと思っておる。 是非とも来て欲しいものだ」


 全力でお断りですバカ野郎。

 俺のムキムキ姿とか一体どこの誰に需要があるんだよ。

 今のところそんな事を言ってるのはガチムチさんだけだよ。


 「……ゼクトさんのムキムキ……意外と……」


 「リリア様? やめて? 本当にやめて?」


 「じょじょ冗談ですよ!? ゼクトさんの厚い胸板に抱かれてみたいとか思ってないですよ!?」


 語るに落ちるとはこの事か……。

 しかし、問題はない。

 要は勝てばよかろうなのだ。

 きっと我がチームの連中か、アカネやミソラのチームが勝つだろうからな。


 「あ、あの! す、すいませんリリア様、ゼクト様! こ、こんな事になってしまって……」


 「い、いえ大丈夫ですよキリネアさん!」


 「そうですよキリネアさん。 ……もしかしてあれが族長と呼ばれる方ですか? ガチムチさんを愚弟と呼んでいましたが」


 「あ、はい。 あの方が族長でガーチ様の姉であるカーラ様です」


 カーラ……カラムー……あ、いやなんでもない。

 しかし姉かぁ。

 性格的には似て……ないだろうけど、かなり姉御肌だな。


 「……姉弟揃って難儀な性格してるなぁ。

キリネアさんも大変ですね。 勝負もありますがそれとは別にゆっくりされていってくださいね」


 「あ……はい! あ、そ、その……一緒に……あ、いえ。 ゼクト様もお仕事頑張ってくださいね!」


 うん?

 何かいいかけたみたいだけど……。

 まぁいいか。

 

 何やらカーラさんとやらがこっちを見て舌打ちしてるけど、きっとなにもないだろう。

 うん、何もないはずだ。


 「で、ではまた! ……ちょっと何をしているんですか!? もう! 行きますよ!」


 キリネアさんに引っ張られてこの場を後にする二人。ガチムチさん引っ張られながらもいい笑顔で手を振っているな。

 一応振り返しておこう。



 「うぬぅ……あのババァめ。 本当に厄介な」


 「ずいぶん親しい間柄のようですね」


 「余の祖父が子供の頃からあのままらしいからな。 正直忌々しい程に老獪なババ……ぬぉ!?」


 あっぶねぇ……。

 ナイフ飛んできたぞ……。

 あのカーラさんの仕業だろうけど、止めなかったら国王殺人じゃねぇか。


 「……失礼な事は言わないでおきましょう……」


 「……うむ」


 ある意味ガチムチさんよりも遥かに厄介だな。

 あんな姉弟を引率するとかキリネアさん達大変過ぎるだろ。

 

 正直絶対関わりたくないな。


 


 こうして波乱を感じさせる修練祭が幕を開けるのだった。













 ※久しぶり( ・`ω・´)!




 ミソラ「みそらとー」

 アカネ「アカネのー」

 アカミソ「お料理教室ー!」

 アカネ「という訳でいきなり始まりましたわね」

 ミソラ「きょうのめにゅーはていばんのにくじゃが!」

 アカネ「定番ですわね。 あ、でもご主人様の気を引くには中々いいかもしれませんわね」

 ミソラ「というわけで、まずは……じゃがいもをきる」

 アカネ「どんな切り方がいいのかしら?」

 ミソラ「ふつうだとつまらないし……せんぎり?」

 アカネ「千等分すればよろしいのね。 妾の技で美しく千枚にしてやりますわ!」

 ミソラ「つぎはにんじーん」

 アカネ「これはどう切るのかしら?」

 ミソラ「……めんどうだしぜんぶせんぎりでいこう」

 アカネ「そうですわね。 めんどうですわ」

 ミソラ「あとはたまねぎをきって、てきとうにちょうみりょうとみずをいれる」

 アカネ「本当に適当ですわね」

 ミソラ「ぬふふふ。 そして……あか姉がしとめたぶたっぽいいきもののにくをぶちこむ!」

 アカネ「そして後は煮込むだけですわね。 うふふふふふふ。 切り方一つでかなり個性的な肉じゃがになりますわね。 きっとご主人様も喜びますわ。 ……あら? ちょっと濁ったふよふよしたものは何かしら?」

 ミソラ「んー……ちょうみりょうてきとうだし、きにしなくていいんじゃないかな?」

 アカネ「そうね。 あとは待ちまし……何をしているのかしら?」

 ミソラ「おはしなめてる」

 アカネ「行儀悪いですわよ」

 ミソラ「ふっふっふっふ。 このはしにはあか姉がしらないひみつがあるのだよ」

 アカネ「ひ、秘密ですって!? いっ、一体何が!?」

 ミソラ「これはますたーのしようずみのおはし。 しかもわたしがわざとあらってない! つまり!」

 アカネ「か、かかかかかかか間、接、きっす!」

 ミソラ「しかも! だえきこうかんれべるの!」

 アカネ「なん……ですって……!? も、盲点でしたわ! さっそく妾にも!」

 ミソラ「ごめん……いきおいあまって……さきのほうたべちゃった……」

 アカネ「む、無念……」

 

 二人の肉じゃがはこの後食べ物として完成することは無かったという……。

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