第七十五話
「オリヴィア様……我々は何故呼び出されたのでしょうか?」
「知らないわよ。 私も働いてたらいきなり呼び出されたんだから」
「こんな町から遠く離れた場所に呼び出すなんて、一体何を……まさか! 我々が不要になった!?」
「やめてよ! い、いくらなんでもそんな……え、私達処分されるのかしら……」
見渡す限り平原しかないレムナントから遠く離れた場所に、魔族であるレイブンとオリヴィアはミソラに呼び出されていた。
二人は現在銀のサルヴァトーレで従業員として働いている。
見た目はほぼヒトと変わらないため問題なく溶け込めており、本人達も意外と楽しんで働いている。
特にオリヴィアは実験体であったリアーナと気が合うようで、よく二人で遊んでいる姿も見られていた。
サキュバスということもあり、妖艶な彼女だがそんな彼女は服屋の店主に色々なメイド服を着せられて接客させられている。
美しい容姿も相まって男性客からは非常に人気である。
レイブンは食材調達の際の移動手段として非常に重用されており、今まで移動にかかっていた時間と人員というコストが減らせた為、異常な忙しさを改善してくれていた。
何気に銀で一番ありがたがられている存在である。
そんな二人が何故こんな辺鄙なところに呼び出されたのか。
全く見当がつかないため、不安に押し潰されそうになっていた。
そんな時、いきなり空から急降下してくる人影があった。
人影は超速で地面に落ちてくると、まるで何事も無かったかのようにその姿を見せる。
「やぁやぁ。 おまたせ」
「……非常識な登場ですね、ミソラ様……」
「あの勢いで落ちてきて何のダメージもないなんて……」
ミソラの登場の仕方に呆れとも畏怖とも取れる微妙な表情で迎える二人。
「きょうあつまってもらったのはほかでもない。 ふたりにしゅうれんさいにでてほしいから」
「修練祭というと、確か人間達の闘技大会ですね。 ……出るのは構いませんが、流石に私やオリヴィア様が出場すると反則になりませんか? こう言っては何ですが、リリア様達以外には絶対に負けないと思うのですが……」
「私も出るのはいいけど……私達が出てもいいの?」
「もんだいない。 むしろほんきでいかないとまける。 こんかいは……ますたーたちとちょっとしたしょうぶをしてる。 ぜったいにまけられない」
普段から無表情なミソラがとても真面目な顔をしていることに若干の不安を抱くレイブンとオリヴィア。
魔族である自分達がそうそう負ける事はないと思っているが、ミソラのマスター達と勝負という言葉に不安を隠せないでいる。
「あ、あの……邪神様より強い方達と戦うのはちょっと……」
「ちがうちがう。 ますたーたちとたたかうんじゃなくて、ますたーたちがまねじめんとするちーむとたたかうの。 わたしたちはでちゃだめっていわれたから、おたがいがそだてたちーむでしょうぶしてるの」
ミソラはそう言いながら、その時の事を思い出す。
陛下の話を聞いた後。
ゼクトはホームへと戻り、早速アカネとミソラを集めてとある提案をしていた。
「勝負……ですか?」
「ああ。 今回の修練祭には俺達は出ることは出来ない。 一応審判や解説、警備をする事になるんだけど……どうせなら祭りを盛り上げる一環として、俺達がそれぞれ一つのチームをマネジメントして勝負させてみないかと思ってな」
「ますたーとあそぶのはいいけど……ほかのひとにじかんをさくのはなぁ……」
「勿論豪華プレゼントも用意してる。 二人がきっと喜ぶものだ。 どうする?」
「豪華プレゼント……妾達が喜ぶもの……つまり御主人様との素敵な時間ですわね! それならやりますわ!」
「……いやまぁデートするくらいなら別にいいけど」
「よしやろう! いますぐやろう! さぁやろうますたー!」
ゼクトとのデート権という事でやる気をだすミソラ。
実に現金なものである。
先程の若干のやる気の無さが信じられないほどに目が輝いている。
「修練祭はまだ先だ。 それに優勝させられるチームを見つけて強くしないといけないからな。 二人ともちゃんと育て甲斐のある奴等を見つけるんだぞ?」
「ふふふふふ。 妾は普段からギルドに出入りしてるので目利きは完璧ですわ! この勝負貰いましたわ!」
「ふふん。 わたしもめぼしいのがいるからもんだいない」
「二人ともやる気は十分だな。 じゃあしっかり育ててくるんだぞ」
やる気に満ちた二人を見て満足気なゼクトは一層盛り上がるであろう修練祭を思い、ヒトの悪い笑みを浮かべるのだった。
その頃。
レムナントの冒険者ギルドにてギルドマスターの部屋で一人の女性が来客用の椅子に深々と座り寛いでいた。
その様子は実にリラックスしておりまるで自分の部屋でゆっくりしているようだ。
対して本来の部屋の主は目の前の女性が一体何用で来たのかと内心でビクビクとしていた。
「それで……一体どのような御用件かな?」
「うむ。 少しばかり妾に力を貸してほしい」
「ち、力か? アカネ殿のような方に我々のような微力が役にたつだろうか?」
「修練祭というものがあるでしょう? 妾達は出場出来ないのだけど、とある事情で一つのチームをサポートする事になってますの。 そのチームを優勝に導けば結果的に妾の為になるから是非優勝できるだけのポテンシャルのあるチームを貸し出して頂けないかしら?」
「なるほど…………でしたら今なら一チーム空いているな。 以前ゼクト殿達に同行した者達で、一体ゼクト殿達と何をしたのか異常にレベルが上昇していたので驚いた。 彼等ならきっと役にたつだろう」
ギルドマスターであるゴルドアはアカネの相談から、一つのチームを思い出す。
以前港町に同道させていたラクトル達である。
元々はそこそこ程度のパーティーであったが、ゼクト達とパーティーを組んだ際にアクティルフィウスを倒している。
正確には倒したのはゼクトだが、その経験値がラクトル達にも分配されているのだ。
しかも例によってゼクトは今回も経験値増加アイテムを使用している。
その恩恵を受けたパーティーは総じてレベルが急上昇していた。
現在はこのパーティーがレムナントの冒険者で筆頭にあたる。
「あらそう? じゃあその子達をお借りしますわ」
「修練祭の前にそちらに送ればいいだろうか?」
「いまからですわ」
「いまから?」
アカネの今からという言葉に違和感を覚えるゴルドア。
修練祭はまだまだ先である。
いまからラクトル達を雇い入れても無駄に金を使うだけではと思ったゴルドアだが……考えが甘かった。
「そう、いまから。 レベルが高めといってもまだまだ話になりませんわ。 しっかりと鍛え上げて使えるようにしませんと。 あと、ついでに高難易度にあたる依頼も受けていきますわ。 そのチームの実力も見ておきたいですから」
「…………程々に頼む」
ゴルドアは思う。
レベルが上昇した事で強くなり、少し舞い上がっていた彼等にとってこれは喜ばしいことなのか悲しいことなのか。
ひとつ言えるのは、彼等にとってきっとこれから地獄の日々が始まるであろうという事である。
アカネを伴い階下に向かいながらゴルドアは心配の種が増えたことに大きなため息を吐き出すのだった。
「ゼクトさん!」
「おぁう!? はい、なんでしょうか!?」
アカネとミソラが早速行動に移りだしたその夜。
そろそろ夜になるのでリリアの夕御飯を作るためにホームから出るとリリアがいきなり詰め寄ってきた。
とても顔が真っ赤である。
うむ、かわいい。
「み、ミソラさんやアカネさんと変な賭けしてるみたいじゃないですか!?」
「ん? ああ、それがどうかしました?」
「ど、どどどどどうしたかじゃありませんよ!? 何ですか勝ったらで、でででーデートって!?」
「いやぁ、そのぐらいの褒美があった方があいつらもやる気がでるでしょう」
「ズルいです! なんなら私も参加しますよ!」
「ん? 別にリリアとならいつでもいいぞ?」
詰め寄られたのでついつい敬語になってしまったが、落ち着いたようなので言葉も自然としたものになる。
しかしでででーって。
ちょっと笑ってしまうな。
「ほ、本当ですか!?」
「まぁ忙しくない時ならいつでもいいよ」
「んふ。 うふふふふふふ。 ま、まぁそれなら仕方無いですね! 許してあげましょう!」
「まぁ俺も負ける気はないし、今回は面白い組み合わせの連中で挑ませるつもりだ。 今回の修練祭はきっと盛り上がるだろうな」
「面白い組み合わせ?」
「ああ。 そうそう負ける事はないだろ」
相手が了承してくれるか分からないけどな。
でも相手が了承してくれたら俺が最高のチームにしてやるぜ!
「ゼクトさんまた悪い顔してますよ?」
「気のせいだ」
しかし……了承してくれるかな?
暇してそうといえば暇してそうな気がしなくもないんだけど……。
いや、それ以前に恨まれてそうと言えば恨まれてそうな気もするな。
あ、恨まれてそうと言えば。
「そう言えば今回の修練祭にはフォームランドの連中も参加するらしい」
「うっ!? ……私達って絶対恨まれてますよね……」
「間違いないだろうなぁ。 多少は生き返らせたとはいえ、それなりの数の兵士を殺しましたからね」
「……そう言えばベルトラントの方は出ますかね? 私としてはあっちの王子様の配下でも出てきてほしいですね。 そして思いっきり殺っちゃってほしいです」
あの時の事忘れてなかったか。
確か俺やアカネの事を匹とか数えてリリアがめっちゃ怒ってたな。
……意外と粘着質だなリリアさん。
「殺るなら修練祭が終わってからな。 国賓として見に来る可能性もありそうだな」
「あー……ありそうですね。 あの人の相手はしたくないですねー」
「意外と隣の席になったりしてな」
「あははーまっさかー。 流石に王子の隣の席に座るほど私は偉くないですし、恐れ多い……というか鳥肌たって吐きそうになるくらい嫌ですー。 機会があればキンゾ・クバットの錆にしてやります」
そこまで嫌かリリアさん。
拒絶反応レベルですよ。
ふんすと鼻息荒くお怒りだけど、これが俺達のためだと思うと嬉しいものがあるな。
「じゃあその時は一緒にやっちゃおう」
「はい! 殺っちゃいましょう!」
うーん……気合いの入り方が違うなぁ。
まぁでもこういうのも悪くない。
自分達のために怒ってくれる人がいるというのは幸せなことだと思う。
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