第六十九話


 レムナントから南に向けて二週間程あるいた所にグリントという町がある。

 グリントから更に南下した場所には港町があり、レムナントや王都へ魚を運ぶための経由地点として重要な役割を持つ町である。


 この町はいまとある人物達が訪れている事で少し騒がしくなっていた。



 その理由は英雄であるリリア・クラッツェ・ヴィスコールが使い魔を連れて来ているからだ。

 くすんだ銀髪の少女とやや歳のいった黒髪の執事服を着用した男性が堂々とした歩きで町中を進む。

 

 彼女達が来たのは一週間程前で、町長に自己紹介を行い王都やレムナントを救った英雄として自己紹介を行うと町長は町に英雄が来た事を喜び、町を挙げて歓待を行った。


 町一番の宿に無料で宿泊し、素晴らしい料理に舌鼓を打って満足していた二人。

 中には二人に袖の下を渡す者もおり、ご機嫌取りに必死になっていた。


 そんな折、町の近くにルブルルと呼ばれる四足の魔物が現れた。

 ルブルルは頑強な肉体に鼻先に巨大で硬質な角を持っており、その角で敵となるものを突進して突き殺す厄介な魔物である。

 冒険者数人がかりで対処する必要のある魔物で、それが今回は群れで現れているという。


 行商にとっては非常に厄介な魔物であり、現在のグリントにいる冒険者や兵士では被害が大きくなる可能性を懸念し、依頼を英雄であるリリアに頼む事にした。


 英雄とその執事はその依頼を快く引き受けた。


 「はっ! そんな雑魚ども私にかかれば簡単さ! いくよゼクト!」


 「おう! 任せろ!」


 ともすれば野蛮とも思えるような二人の言葉が、町長には非常に頼もしく感じ簡単に事が解決しそうであった為安堵する。

 英雄と執事は町民に見送られながらグリントを出て魔物退治へと向かい…………そして行方をくらませた。



 










 「という事があってな。 リリア嬢やゼクト殿がルブルル如きに逃げる筈もないし、そもそもずっと学園にいたという事は分かっている。 つまり……」


 「私達の偽物ですか……。 何というか有名になっちゃいましたねゼクトさん」


 「……依頼をした時に気付かなかったんですかねぇ……。 もしかしてギルドカードを介していないとか?」


 時は正午を過ぎたあたり。

 ギルドマスターに呼び出されて来てみたら俺達の偽物が楽しんでいるという話を教えられてしまった。

 まぁ直接的な被害はないけど俺達の偽物を騙るとは思い切った奴等だな。

 ちょっと見てみたい気もするな。


 「町長殿も流石に英雄にギルドカードを見せろとは言えなかったようだ。 間違っていたら不敬だのと言われかねないからな。 ルブルルに関してはこちらで何とか駆除しておいたので問題ないとして、流石にリリア嬢達の悪評が流れるのは厄介だからな。 こうして相談している次第だ」


 「よし、面白そうなので探してみませんかリリア様?」


 「うーん……それはいいですけど……その人達はどこに行ったんでしょうね」


 「同じ場所や二人を良く知っている場所では活動はしないだろう。 王都とレムナント、それにヴィスコールでは活動しないだろうし今回のグリントでも顔が割れて動けはしないだろうから、それ以外だな」


 うむぅ。そう言えばこの国にいくつの町や村があるかは知らないんだよな。

 まぁでもレムナント方面に行くよりは、港町の方がそいつらには安心だろうけど……。

 俺達が絶対に追いつけないとでも思っているのだろうか。

 ただでさえこちらには魔族の転移という便利な足が出来てしまっているというのに。


 「そのままレムナントに戻る事はないでしょうし、行くとしたら先の港町でしょうね。 そこから私達の名前を使って他の国へ逃げるか……。 と、考えると港町で大々的に金儲けをやりそうですね。 そこで資金を手にして逃げるのが一番儲けになりそうですし」


 「そうだな。 ゼクト殿の言う通りだ。 ゼクト殿達が直々に動かれるのか?」


 「えぇ。 ついでに一チームほど動ける冒険者がいてくれるといいんですが」


 「構わんが……何をするつもりだ?」


 「あ、ゼクトさんのこの楽しそうな顔は絶対悪い事考えてる時ですよ! 間違いないです!」


 ゼクトさんの顔でそんな事も判断できるようになったかリリアさん。

 間違ってないけど、ちょっとゼクトさんは寂しいですよ。

 更にポーカーフェイスを極めねば。


 「そこまで悪い事ではないですよ。 折角なのでその偽リリア様と偽ゼクトさんで遊んでみたいだけです」


 「う、うむ。 ……まぁ程々にな。 権威あるリリア嬢達の名を語り、貶めているのだから間違いなく死刑ではあるが……私刑は程々にな」


 「はっはっはっは。 そんなまさか私達が私刑なんてするはずないじゃないですか。 ちょっと難しい依頼を頼んでみる事はあるかもしれませんが」


 「うわぁ……ゼクトさんがすごく活き活きしてる……」


 活き活きしてるのは良い事じゃないですかリリアさんや。

 しかしどんな依頼をしてみようか。

 っていうかどんな奴なんだろうか。

 楽しみすぎる。

 さっそくレイブンを使って港町の方に飛んでもらうか。

 

 「あ、所でゼクト殿はそろそろ冒険者ギルドへの入会は……」


 「よし用件は済んだようなので行きましょうリリア様」


 「え!? あ、えと、え? いいんですか?」


 ちゃっかりギルドに入れようとするとは。

 アカネがちょくちょく顔を出しているんだから俺はいらんだろうに。

 来るたびにギルドに入るように言ってくるのは流石に鬱陶しい。


 困惑しているリリアを連れてさっさとギルドを後にする。

 部屋を出るときにギルマスさんはしょんぼりしていたが、仕方ない。

 だって面倒なんだもの。



 しかし最近は本当に暇しないなぁ。

 ミソラ邪神事件の次は俺達の偽物か。

 




 





 グリントから南下し、もう少しで港町に到着する道中。

 夜になり野営をする一組の男女が焚火の前で食事をし、楽しそうに談笑していた。


 「いやぁ。 本当に英雄様々だね。 適当に名前を出すだけでこんなに儲かるなんて」


 「へへへへ。 まったくだ。 名前だけは国中に広がってるが、顔は知られてないみたいだからな。 見ろよこの金。 商人共がこぞって賄賂を持ってくるもんだから笑っちまうのを我慢するのが大変だったぜ」


 そう言ってジャラジャラと金貨を掌に乗せて遊ぶ執事服の男性。

 それを嬉しそうに見る銀髪の女性も下卑た笑みを浮かべている。


 「とはいえあんまり長く使える手じゃないからね。 次の港町で適当に回収したらあとはどこの国に逃げようかねぇ。 ベルドラント辺りなんかがいいかねぇ」


 「あの国は俺達には過ごしやすいだろうな。 この金で奴隷でも買って好き放題するのも楽しそうだ」


 「それもいいねぇ! 顔の良い男娼でも買って楽しみたいもんだよ」


 「俺もいい女を手に入れたいもんだぜ!」


 欲望を隠しもせずに、これから訪れるであろう未来を楽しみにしながら二人は思い思いに夢を語る。

 もし、騙った相手がリリアやゼクトでなければあるいは二人の夢も叶ったのかもしれない。

 二人は危険な相手に手を出してしまった事に気付かぬまま、残り少ない幸せな夜を過ごすのだった。

 





 ※たまにはほのぼのしたいよね(*´ω`*)?





 ミソラ「さぁひさしぶりのじかんだよあか姉!」

 アカネ「本当に久しぶりですわね! ちょっと久しぶりすぎて妾のテンションもおかしいですわ!」

 ミソラ「わたしも! こんなてんしょんだとますたーもどんびきだね!」

 アカネ「いえ、むしろご主人様もテンション上がってるかもしれませんわ!」

 ミソラ「たしかに! このままますたーとあそびにいこう!」

 アカネ「素晴らしいアイディアですわ! 行きますわよ!」

 ミソラ「れっつごー!」



 数時間後……


 


 リリア「あれ、お二人寝ちゃってるなんて珍しいですね? ……というかゼクトさんの膝枕が普通に羨ましいです」

 ゼクト「今日は無駄にテンションが高くて遊びに付き合わされてな。 二人とも疲れて寝ちゃったみたいだ」

 リリア「ふふふふ。 娘に付き合うお父さんみたいですね」

 ゼクト「まぁ間違いではないかな。 ……なんだかんだでこいつらも頑張ってくれてるからな。 たまには労ってやらないとな」

 リリア「こうやって私が隣に座るとゼクトさんがお父さんで私がお母さんで二人が娘ですかね?」

 ゼクト「ははははは。 そうだな。 それも悪くないな」

 ミソラ「いぎあり! むすめではなくてセフ」

 ゼクト「はい黙ろうか」

 アカネ「妾も意義あり! 娘ではなく愛人の」

 ゼクト「はい静かに寝ような」

 リリア「……二人は本当にぶれないですね。 というかゼクトさん容赦ないですね。 気絶してますよ」

 ゼクト「お父さんとしてはもうちょっと娘二人には健全に育って欲しいんだけどなぁ」

 リリア「うふふふふ。 じゃあ一緒にしっかりと育てないといけませんね」

 ゼクト「本当にな」

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