第五十七話



 エイワスと素敵な訓練を行って一週間。

 リリアが今日は講義で使い魔も一緒にという事だったので、三人でホームで待機している最中なのだが。


 「おかしい……」


 「むふふふふ。 ますたーのかんがえはてにとるよーにわかるよ」


 「これでご主人様の八連敗ですわね」


 まさかのトランプでアカネとミソラを相手に八連敗を喫している。

 ミソラはポーカーフェイスな上に腹黒いからまぁ、策略で負けるのはまだ分かる。

 しかしだ!なぜ俺がアカネに一勝も出来ないのだ!


 「くそう……! 一体なぜだ!? 手札のシャッフルも完璧だったし表情にも出していなかったはずだというのに!?」


 悔しい。地味に悔しい。

 いや地味じゃない、がっつりと悔しいぞ……。

 

 「むふふふふ。 くやしがるますたーかわいい」


 「本当ですわね。 なんでも万能にこなすご主人様がこんなに分かりやすいなんて。 うふふふふふふ」


 「いや待て。 絶対表情には出てなかったと思うんだが、分かりやすかったのか?」


 そんな馬鹿な……ポーカーフェイスにはかなりの自信を持っていたのにこんな事で打ち砕かれるなんて……!


 「ますたーはてもとにじょーかーがきたとき、まばたきのかいすうがふだんよりすうかいふえる。 じょーかーをひいてくれそうになったときはひょうじょうきんのうごきをおさえようとまぶたがすこしさがる」


 「妾はなんというか勘ですわね。 でもご主人様の顔を見ていればなんとなく分かりますわ」


 …………まじかよ。ババ抜きってそのレベルまで観察しないといけないのか。

 っていうか普段の瞬きの回数まで把握してるんですかミソラ先生。ちょっとますたーは怖くて仕方ないですよ?

 アカネはミソラと同じことを本能レベルでやってるってことなのかな?どっちにしろご主人様は怖くて仕方ないですよ?


 「……だめだ……勝てる気がしない」


 「やりましたわ! じゃあご主人様、妾達が勝ったら一つだけ言う事を聞いてくださるんですよね!?」

 

 「ふふふふふ。 いちびょうがじゅうびょうになるくらいほんきでしゅうちゅうしてよかった」


 「性的なもの以外でっていうのは忘れるなよ」


 なんでもありにしたら夜伽だの性行為だの繁殖行為だのと言い出すからな。

 そこら辺はきちっと線引きをしないとな。


 「妾はもう決めてますわ! でーとをしましょうご主人様! でーとですわ!」


 「デートか。 まぁいいけど、日付はまた今度決めような」


 「はぁい。 うふふふ、ご主人様とでーと、でーと! うふふふふふ」


 部屋の中をはしゃぎまわるアカネ。

 普段よりもずっと幼い感じが非常に可愛らしい。

 可愛らしいがテンションが上がりすぎてベッドで飛び跳ねるのは止めて欲しい。


 「ミソラはどうするんだ?」


 「むふふふふふふ。 もうかんがえてるけど、いまはまだいえない。 でもちかいうちにやる」


 「…………その邪悪な笑みはやめて欲しいなぁ……」


 アカネは純粋で分かりやすい部分もあるが、ミソラは裏で色々とやるタイプだから気付いたら大変な事になってそうで困るんだよな。

 ……負けないと思ってノリでなんでもいう事を聞くとか言わなければ良かった……。


 『えっと……ゼクトさーん? 出てきてもらっていいですか?』


 ナイスタイミングだリリア!

 この場から逃げるチャンスだ! 

 このまま暫く中に戻らなければ、少なくとも多少の現実逃避が出来る!


 「というわけでちょっと行ってくる」


 「はい、行ってらっしゃいませご主人様」

 

 「いってらっしゃいますたー」


 二人に見送られてホームから出る。

 ……もうあいつらとトランプは絶対にやらない。

 絶対にだ。




 



 リリアが受ける講義という事で呼び出されたのだが……。


 「え? ここどこです? 学園じゃない?」


 宝石から出てきたその場所は一面が小麦畑だ。

 ……収穫の方法でも勉強するのだろうか?

 それとも使い魔を使って収穫させるとか?

 もしそうだったらゼクトさんは激おこですよ?


 「ここはレムナントの管轄する小麦畑です」


 「ほほぅ。 しかし何故ここに?」


 「実は最近収穫前の畑を荒らす魔物か何かがいるらしくて。 学園の課外授業ついでにその荒らしている魔物を駆除するらしいんです」


 「……他の方々は経験も積めて一石二鳥ですね。 となると私は想定外の魔物が出てきたときの保険みたいなものですかね」


 「あぅぅぅぅぅ。 やっぱり分かります?」


 もろ分かりですわい。

 授業という名目にかこつけて農業主達の頼みを解決するとは……。

 まぁここの小麦畑はレムナントにとって大事な場所でもあるし、農家の方々には敬意を払わないとな。

 ここで作ってくれているお陰で俺達は美味しい食事を食べれるんだし、そのくらいの頼みなら無償で解決してあげますとも。


 「まぁ仕方ないですね。 取りあえずここで待機しておきましょうかね」


 「そうですねー。 正直他の学生の経験のためにという事で私達は後方待機らしいんですけど」


 「分かりました。 お茶でも飲みながら見学しますか」


 「あ、いいですね。 今日はのんびりできそうですね」


 というわけでちゃちゃっとホームに戻り、クッキーと紅茶を用意して戻り、椅子とテーブルを用意してのんびりと他の生徒や使い魔達の探索や討伐の様子を見学する事にした。

 やはりレムナントの外壁の外という事もあり、ちょこちょことゴブリンやらオークやらが出没するみたいだ。

 こういった田畑はやはり町にとっても大切な補給線であるため、収穫の時などは町が彼らの護衛もするらしい。


 「見てくださいゼクトさん。 エルちゃんの使い魔のギャレットさんがオークを真っ二つにしてますよ」


 「おー。 リビングアーマーでしたよね。 中々剣線が鋭いなぁ。 エルレイア様もいい動きをしていますね。 流石はエレイン様の妹さんというべきですかね」


 「あっちはオーグ君とサラマンダーですね。 何かを探しているんですかね?」


 「サラマンダーの動きがキモイですね。 オーグ君もきも……あ、いえ何でもないです」


 「なんでそんな刺々しいんですか!?」


 「いえ、以前の事があったので多少厳しめの評価でいこうかと」


 家の事を持ち出してリリアを傷つけた事は忘れてませんよオーグ君。

 最近は媚びてきているが、他の人にはまだちょっと高圧的らしいからな。

 そこも直さない限りゼクトさんは優しくしません。


 「もう……でもちょっとゼクトさんが私の事で怒ってくれるのは……不謹慎ですけど嬉しいですね」


 「ガッツリ怒ってきましょうか?」


 「ダメに決まってるじゃないですか!?」


 「はっはっはっは」


 やっぱりリリアをからかうのは楽しいですな。

 ミソラやアカネは油断するとからかい返しに来たり、突拍子もない行動をしたりするからな。

 

 「ゼクトさんは本当に意地悪ですね! 私もたまには怒るんですからね!」


 「怒るんですか?」


 「怒りますよー! ぷんぷんです!」


 そんな事を言っているが、その動きが可愛らしすぎて正直怒っていると言われてもそんな気がしませんです。

 というかむしろからかって欲しいのだろうかと思ってしまいます。


 「ふふふふ。 じゃあどうしたら許してくれますか?」


 「え!? えっと…………じゃあ宿屋の時みたいに膝枕してください!」


 「別に構いませんが……覚えてたんですか?」


 「…………うっすらとだけ……」


 顔を赤らめている辺り覚えてるなこれは。

 酒のせいで自制心が緩んでいたのかな?

 ちょっと引っかけてみるか。


 「じゃあ良いですよ。 こっちに来てください。 ゼクトしゃんが膝枕してあげますので」


 「……っ!? ……本当意地悪ですゼクトさん」


 そう言いつつも来る辺り面白い。

 顔面真っ赤ですよリリアさん。

 いい具合に雑草がクッションになってくれそうなので、そこに座りリリアがころんと寝転がる。

 いつも思うけど、リリアの髪はサラサラだな。

 ゆっくりと髪を指で梳かしていると、気持ちよさそうな表情をしている。


 「ゼクトさんってなんだかこういうの手慣れてますよね。 今まで何人の女の子を泣かせてきたんですか?」


 「んー。 私は女性経験というのはあまりないですからね。 こういう事だってリリア様にしかしていませんし」


 「そうなんですか? ……ふふふふふ。 私だけってなんだか嬉しいです。 そうなんだ……私だけなんだ……ふふ」


 嬉しそうに言うリリアだが、語尾が小さくて聞こえなかった。

 なんかちょっと背筋に悪寒が走ったような走ってないような。

 しかし、自分でもリリアには自然とこういう事をしてあげたくなるあたりちょっと不思議だ。


 「……私もリリア様が好きなんでしょうね……」


 ぽつりと何気なく出た言葉。

 それこそ自分でも無意識に近かった言葉だがリリアの食いつきはすごかった。


 「今何て言いましたゼクトさん!?」


 急に起き上がるとびっくりするのでやめて頂きたいですリリアさんや。

 さっきよりも顔が更に赤く、耳まで赤くなっていますよ?

 実は赤面症でもあるのだろうか?


 「…………内緒です」


 「えー!? もう一回! もう一回言ってくださいよゼクトさん!」


 「リリア様には何と聞こえたんですか?」


 「え!? それはその……何というか……ゼクトさんが私に……好きって」


 恥ずかしいのかどんどん声が小さくなるリリア。

 そんな様子も実に愛らしいと思う。

 さて何と答えようか。

 いっそこのまま素直に伝えてもいいとは思うんだけれども……。

 そんな事を考えていると教員の一人が走って来た。


 「リリア様! ゼクト様! どうやらキラーホーネットの巣を攻撃した生徒がいるようで、結構な数が出てきました! 支援をお願……い……しま……え?」


 ある意味でナイスタイミングな教員の連絡にリリアは激おこである。

 さっき可愛らしくおこりますよーとか言っていた可愛らしさが、どこかに行ってしまったかのように激おこである。

 

 「もう! なんで今来るんですか! あと十分待ってくださいよ!?」


 「えぇぇ!? いえ、しかし被害が出たあとでは色々と大変ですし……」


 「ふふふふふ。 じゃあ蜂退治に行きますかね」


 「ぅぅぅぅぅぅ……。 全部キンゾ・クバットの錆にしてやりますぅ!」


 激おこで金属バットを手に走っていくリリア。

 ……すぐに答えなかった俺が悪いんだろうけど……すまんリリア。

 その後ろ姿が最高に面白い……。

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