第五十一話

 ※遊び心が多すぎるぺすさんですが、この辺りから色々とはっちゃけてますのでご容赦ください(人*´∀`)






 リーグ・ゲッテンシュタインという男が遊びに……じゃなくて襲撃に来てから三日が経った。

 早馬を貸してやっているのでもう二日もすればフォームランドの首都であるレーゲンスファルに到着したころだろう。

 持たせた手紙にきちんと反応してくれるといいな。

 

 まぁそれはそれとして……。



 「いらっしゃいませ。 銀のサルヴァトーレへようこそ。 お二人様ですか?」


 客が来たのできちんと対応しないとな。

 上の空で仕事をすると大変な事になるからな。

 しっかりと客を案内し、テーブルに誘導して注文を取り厨房に回す。


 その間に出来た料理をテーブルへと運び、空いた席を片付けていく。


 正直超忙しい。


 「旦那ぁ! 三番テーブルの分出来たぜ!」


 「分かりました。 六番テーブルの片づけは済みましたので案内良いですよ!」


 「分かりましたゼクトさん!」


 何をしているかと思っただろう。

 現在銀のサルヴァトーレでがっつりとウェイターさんをこなしている所である。

 ちなみに今返事をしてくれたのはリリアだ。

 本当ならメイドさんのコスプ……じゃなくて衣装をプレゼントしたかったのだが、この店のウェイトレスの制服も実に素晴らしいので涙を呑んでメイド服は諦めた。

 少しオレンジがかったシャツに淡い白を基調としたミニスカだ。


 そう……ミニスカだ!


 白いニーハイまではいてくれているので俺のテンションはマックスだ。

 これをデザインした服屋の紳士にはぜひともプレゼントを贈りたいものだ。



 



 さてなぜこんな事をしているのかというと発端はヤクトからの相談だった。

 

 リーグとかいう男をいい具合に料理した翌日。

 学園側は元生徒会長ことリーンスハイトの処分というか葬儀というか、その他諸々の処理に追われ一時休校となった。

 彼がただの一学生ならそう面倒も無かったのだろうが、一応貴族の長男でしかも生徒会長だ。

 学校内での行事の引継ぎや家督の問題などなど面倒事が一気に押し寄せているのだ。


 そんな訳で空いた時間でリーグに渡す手紙を王であるゴードと内緒で作成し、持たせてさっさと送り出したのでリリアと遊ぼうかと思っていた。


 

 そんな時に唐突にヤクトがこちらへ出向いてきたのだ。

 

 ヤクトは俺とリリアを連れ出し、何やら思い悩んだ顔で相談事という名のなかなかの爆弾を持って来た。


 それはエレインから求婚されたというぶっ飛んだ内容だった。

  

 いわく禁忌の森で共闘する事があり、それを機に少しずつ話すようになったらしくつい最近唐突に求婚されたと。

 ヤクトも彼女を嫌いではないが、どうすればいいのか分からず取りあえず保留にしてここに来たという事だった。


 そんなヤクトにリリアが提案したのは二人で過ごす時間を作って、自分の気持ちを確かめてみてはどうかというものだった。

 

 それに賛同したヤクトだが、彼も今は銀のサルヴァトーレで働く重要なスタッフだ。


 彼が抜ける穴が大きいという事なので、俺とリリアが臨時で働く事になり今に至る。

 忙しいは忙しいが、部下の一大事なら上司として頑張らないとな。


 まぁ正直リリアのウェイトレス姿が見たかっただけなんだけども。


 

 「旦那! 三番さんの料理OKだ!」


 「分かりました!」


 うむぅ……働いてみて思うが、ちょっとこの店繁盛しすぎじゃないかな。

 というかクソ忙しすぎるだろ。

 経営者ではないが、マンパワー不足がヤバイ。

 ちょっとここは検討したほうがいいな。このままだと皆なかなか休めないんじゃなかろうか。

 

 料理を運びながら店員を増やす事を決意した。




 忙しい銀を余所に、いま件の二人は公園に来ていた。

 日の高い時間だけあって子供たちがはしゃいでおり、他にはカップルなどがのんびりと過ごしている。

 

 そんなほのぼのした空間に来た二人は思っていた。


 ((……デートって何するんだろう))


 お嬢様ながら騎士としてひたすらに鍛え続けてきたエレイン。片や闇組織を率いてきた暗殺者の筆頭でもあるヤクト。

 当然普通というものなど経験などしたこともなく、何をすればいいのか分からないでいた。


 「そ、そうだ! ヤクト殿! 一緒に買い物に行こう!」


 「あ、あぁ! そうだな!」


 公園でのんびり過ごすという選択が難しかった二人は早々に公園を離脱した。

 

 「そ、そうだ。 最近小物を取り扱う店が出来たらしい。 行ってみるか?」


 「よ、よし! そこに行こう!」


 二人は大通りにでていろんな出店を見たり、仕事の話などをしながらのんびりと歩いていく。

 流石に王都なだけあり人も多く、時折団体が通ると道を譲る必要がある。

 そんな時に体が触れ合うのだが二人はその度に顔を赤くするというとても初々しい反応を見せていた。

 付き合い立てのカップルのような反応をしつつ二人は目的の店へと到着する。


 そこは最近出来た貴金属類を取り扱う店で、可愛らしい小物から煌びやかな宝石類も揃えており市井の者から貴族まで幅広い客のニーズに応えている店だった。


 「うぅーん。 色々と綺麗な物が多いな」


 「エレイン……殿はどんな物が好みなんだ?」


 「そうだな……正直分からないんだ。 恥ずかしい話だが……あまり女らしい事はしてこなかったせいか、こういうのには疎くて」


 「そうか。 ……正直俺もよくは分からん。 だがこれなんかはよく似合いそうだな」


 そう言ってヤクトが手に取ったのは翡翠を使って作られたペンダントだった。

 淡い色合いの翡翠を大きい物を一つ中心にし、左右に一つずつの計三つを使用した物でどこか優しさすら感じる造りになっている。

 

 「そそそ、そうか!?」


 「あぁ。 エレイン殿の金糸のような髪と白い肌によく合うと思う。 これは俺からの贈り物にさせてもらおう」


 「え!? あ、いや、しかし!」


 「ここは俺を立てると思って貰ってくれ」


 「……あ。 ……ありが……とう」


 気になっている異性からの始めてのプレゼントという事もあり顔を真っ赤にして受け取るエレイン。

 そんな様子に内心でゼクトからアドバイスを貰っておいて良かったとガッツポーズを決めるヤクトだった。

 ちなみにゼクトから給料前借りという形で資金を貰っていたためなんとかなったが、支払いの時にヤクトは顔には出さなかったが金額に若干引いていた。


 「さて……次はどこか行きたい所はあるか?」


 「……そ、その。 女らしくないとは分かっているのだけど……いいかしら?」


 「ん、あぁ。 どこでもいいぞ」


 「ぶ、武器屋に……行きたい……です」


 恥ずかしそうにそういうエレインがおかしくてヤクトはついつい声をあげて笑ってしまった。

 

 「くくく……はははははは! 確かに女らしくはないな! あぁ、でもそっちの方がずっといい。 俺も気が楽だしな」


 「むぅぅぅぅぅ……」


 ひとしきり笑ったヤクトと恥ずかしそうなエレインはその場を後にしてこの界隈で有名な武器屋へと入る事にした。

 入った店には剣や槍、大剣に細々とした手入れの品などを用意した中々に品揃えのいい店だった。

 店に入ると先ほどとは違い、キラキラした表情で店内を見るエレイン。

 普通なら先ほどの店のような場所でこそ女性はこういう表情になるんじゃないかとヤクトは考えていたが、こういう女性の方がかえって気が楽だなと思い、改めてエレインに対して好意を感じていた。


 「うーむ。 あの戦いで槍も良いなと思ったけど。 そうそう無いわよね……」

 

 いくつかの槍を手に取り軽く振るっては感触を確かめ、そして溜息をつくエレイン。

 魔槍グレイシャルを握ったときの高揚感とその威力に感動したエレインだが、この世界にそういったレベルの武器はほとんどないのが現状である。


 「い、一応当店最高の槍がこちらでございます。 エレイン様のような最高の騎士に見合うとは思うのですが……」


 店主がそう言いながら持ってきた槍は確かに素晴らしい出来だった。

 適度な重さで穂先も鋭く、突きや払いにもしっかりと対応できる造りでグレイシャルを握っていなければこれに即決する程度には上物だった。


 「……いや。 止めておこう。 ヤクト殿は何か気になるものはある?」


 「ん? あぁ、俺は投げナイフが丁度交換時期だったから買っていくつもりだ。 握りの部分に癖があるが、使いやすい。 この店のは気に入った」


 「おぉ。 お目が高い! 当店でも人気の商品ですよ!」


 「投げナイフか。 敵に使われると厄介よね。 うわ抜けにくい形になってる」


 「プロに言う事じゃないけど、刃先に気をつけろよ」


 返しのついた刃を見て、なぜか痛そうな表情をするエレイン。

 先程までよりも自然な表情や喋り方になってきている。武器屋なのに。

 結局ここではヤクトがナイフを二十本購入していく事になった。


 

 なんだかんだで二人は徐々に打ち解け、最初の緊張はどこへやらお互いに楽しんでデートを進める事が出来ていた。

 そして日は傾き夕刻。

 二人は最初の公園に戻ってきていた。

 子供たちはすでに家に帰り、カップルたちもいないため静かな空間になっていた。

 二人はベンチに座り今日の事をひとしきり話しては笑顔になっていた。


 「……今日は楽しかったよヤクト殿。 ……ヤクト殿はどうだった?」


 「ああ。 俺も楽しかったよ。 ……今日一日過ごして自分の気持ちを確かめるつもりだったが……多分俺は最初から気持ちは決まっていたみたいだ」


 そう今回のデートはエレインの申し出を受ける前にお互いの気持ちを再確認するためのデートでもあった。

 そしてその答えをヤクトは今出そうとしていた。


 「ちょっ! ちょっと待って! ふー……すー……はー……。 よし、いいわ」


 否定されるかもしれない。

 そんなことはないと信じながらもその可能性がないわけではない以上、受け止める準備をするエレイン。

 一世一代の求婚をしていたのだ。振られてしまって傷つかないわけがない。

 そんな決意の表情をしたエレインを見て、またヤクトは少し可笑しくなってしまう。


 「初めて会ったときは面倒な女かとも思ったが、しばらく話をしてこうやってデートをしてみて俺はエレイン殿を見誤っていたようだ。 貴女はとても勇敢で、強くて、可愛らしい女性だ。 ……今はこうやってまともな仕事をしているが、俺のような人間の屑がこう思うのは烏滸がましいのかもしれないが……。 それでも……俺は貴女の事が好きみたいだ」


 そこで一呼吸おき、深呼吸をした後にまっすぐとヤクトはエレインを見つめる。


 「俺は貴女と共に生きていきたい。 どうか……結婚していただけないだろうか」


 「…………っ!? …………はい! お願いします!」


 ヤクトの言葉に息がつまりそうな程な幸せが胸の中で弾け、涙を浮かべるエレイン。

 しかしそこに浮かべる笑顔は今までヤクトが見たなかで一番の美しい笑顔で、ヤクトは思わずエレインをそっと抱きしめていた。

 この笑顔は自分だけのものにしたいという思いと、これから必ず守り抜くという思いを込めて。


 






 「……よし。 旦那に成功報告をしないとな。 尾行班はこれより撤退する」


 「了解」


 「しかしあっちのお嬢様側の妨害多かったな」


 「ああ。 御頭でも余裕で対処できる奴等だったが、水を差すなっての」


 「あとはあの二人に任せても大丈夫だろ」


 二人は知らない。

 とある上司が何事もないように全力で支援を行っていた事に。

 

 実はエレインの父親がなんとか婚姻を取りやめさせようと動いてた。

 刺客を送り込んだり、食事に下剤を盛ろうとしたりとあの手この手を使っていたが全て尾行班によって潰されていた。

 お互いの気持ちを確かめ合った以上はもう止めようがない。

 二人ともこの王都では最上位に位置する実力者なのだ。

 この段階で潰せなかった以上、エレインの父親は手の出しようがなくなったのである。 

 こうして王都である意味で最強ともいえる夫婦が誕生したのであった。


 余談だがエレインとエルレイアの父親は超がつくほどの親バカでもある。











 ※甘ったるい話などしおってからに( ゚Д゚)クワッ!



 ゼクト「さて、口直しに第二回紳士会議を始める」

 ヤクト「口直しっておいっ」

 ゴード「まぁ落ち着け。 最近忙しくて集まれんのだ仕方あるまい」

 店主「そうだそうだ。 一人だけ甘酸っぱいのを楽しみやがって」

 ゼクト「それに今回はヤクトにも大事な話だぞ?」

 ヤクト「なんだよ?」

 ゼクト「今回はずばりウェイトレスさんについてだ」

 店主「ミニスカだな。 ミニスカこそウェイトレスさんには至高だ!」

 ゴード「うむ。 食べている時にチラチラと見える太ももが素晴らしい」

 ヤクト「ふつうに飯食えよ」

 ゼクト「だが想像してみろヤクト。 エレインが可愛らしいウェイトレスの制服を着ている姿を」

 ヤクト「…………詳しく聞こう」

 店主「あんたのその素直さ……嫌いじゃないぜ」

 ゼクト「ぶっちゃけ店が忙しすぎるから人を増やしたいんだが、あれだ。 やっぱり可愛い子に来て欲しいだろ」

 ゴード「うまい飯より可愛い娘を見に行くほうが楽しいものだ」

 店主「そしてその可愛い娘に素晴らしい服を用意するんだな」

 ゼクト「その通り! そこで一つ意見を聞きたい」

 店主「ミニスカは正義だ!」

 ゴード「靴下を忘れるな!」

 ヤクト「まだ何も言ってないだろ」

 ゼクト「ずばり……髪型だ。 飲食店である以上清潔感の為にまとめる必要があるが……ポニーやサイドアップ、お団子など色々ある。 ……個人的にはポニーを推したい」

 ゴード「なん……という……」

 店主「これは……難しすぎる……議題だ……」

 ヤクト「俺は……サイドアップを推す。 というよりエレインにしてほしい」

 店主「のろけやがったぞこの野郎おめでとう! ……俺は三つ編みを推そう」

 ゴード「うぬぅぅぅぅ……ここは余もポニーを推したい所だが、お団子によってつくられる項の美しさが捨てがたい」

 ゼクト「やはり皆分かれるか……ならば論争だ!」


 


 数時間後……。



 ゴード「……ダメだ。 どれも魅力がありすぎる」

 ヤクト「ああ。 お前達の話を聞いてエレインに似合うヘアスタイルが分からなくなってきたぞ」

 ゼクト「やはり統一化は止めたほうがいいのか……」

 店主「……いや……。 ……そうだ、統一しなければいいんだ!」

 ゼクト「というと?」

 店主「似合う似合わないはやはりあるからな。 いっそこの中で好きなヘアスタイルを本人たちに選ばせればいいんだ!」

 ゼ・ヤ・ゴ『それだ!』

 ゼクト「確かに俺達の好みを押し付けるのはダメだよな」

 ゴード「うむ。 似合わなければ意味がないな、確かに」

 ヤクト「エレインにはなんでも似合うけどな」

 店主「はい、惚気入りましたーおめでとう!」

 ゼクト「いや、やはりここの紳士達は素晴らしいな。 いい解決策だった」

 ゴード「うむ。 紳士の集いはやはりこうあるべきだな」

 ゼ・ヤ・ゴ・店『紳士に栄光あれ!』


 素晴らしい結果を得たゼクトだが、彼は忘れいてた。

 まだスタッフを雇い入れてすらいないという事を。

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