第四十七話


 時は少し遡り、レムナントが魔物の軍勢との交戦を終えて約一週間程度たったころ。

 王都は魔物の襲来による余波も少なく、比較的平穏に過ごしていた。

 

 ただやはり魔物に対しては過剰に反応している部分もあり、冒険者ギルドに周辺の魔物の調査や間引きなどを依頼していた。

 早期発見によりリスクを減らすという事はやはり基本である。

 現在国内は幸か不幸か、グレゴリーが起こした謀反とフォームランドが水面下で暗躍し始めているという事を皆が知っているため団結しやすい状況にあり安定しているといっていい。


 その為周辺の安全の強化と地力、ひいては国力を高めるための政策を急ピッチで進めている状況だった。


 

 そんな中、王城では王であるゴードと王女であるフィオナ、そして近衛であるエレインが頭を抱えてとある問題に悩まされていた。



 「……やはりおかしいな」


 「はい。 今まで比較的安定していた禁忌の森周辺の魔物が妙に活発になっています。 まだ近隣の町や村から苦情は上がってはいませんが、既に冒険者ギルドにいくつかの討伐の依頼も届いています。 早めに対応しておいたほうが良いと思いますわおと……陛下」


 「ふふふ。 お主にもだんだんと自覚が出来てきているようで嬉しいぞ。 ……しかし、禁忌の森はレベル四十を超える魔物も生息しておる。 冒険者を使っても返り討ちにあう可能性が高い。 ここはどちらかというと国が調査をすべき案件であろうな。 ……かといってそこに行ける程の者はそう多くない、か。 チサトはレムナント周辺の広域調査であったな。 ……エレイン一人に任せるには少しキツイか?」


 「王命とあらばどんな場所でも、と言いたい所ですが……さすがに禁忌の森ですと手練れがもう一人欲しい所です陛下」


 「うむぅ……。 禁忌の森に向かわせられる程の手練れか。 ……エイワス君にはフィオナを護ってもらわねばならぬしのぅ」


 彼等が頭を悩ませているのは王都の北方に位置する禁忌の森と呼ばれる広大な森についてだ。

 元々はとある魔物が強大な力で森を支配し、森の安寧を築いていたのだがどういう訳かその支配が無くなりまとめ上げられていた魔物達が縄張り争いを始め森全体が殺気立っていた。

 森自体は危険ではあるが、その恵みもまた大きいため森が危険な場所になってしまうと王都への打撃も無視できない程度にはあるのだ。

 しかも縄張り争いに負けて森から追い出された魔物が近隣の町や村に出没しはじめているとなれば、問題はやはり大きい。

 

 そこでこの問題の解決のために頭を悩ませていた。

 ちなみにいくらかの有能な貴族達は私兵を使い領内の安全を確保し、いくらかのボンクラな貴族達はあの手この手で領民の言葉を巧みに王都へ向け、王族へ解決を依頼するように仕向けていた。

 悪知恵の働く者が多いとも言える。



 「……一人心当たりがあるのですが、もしその男の協力を得る事が出来れば私とその男で強攻偵察も可能でしょう」


 「うむ? ゼクト殿であれば忙しいと言っておったぞ?」


 「いえ、あの男ではありません。 無理矢理にでも説得いたしますので、この件は一旦お預かりしても宜しいでしょうか?」


 「構わんが……。 無茶はしないように」


 「心得ております。 では早速行ってまいります」


 丁寧に頭を下げ、上品な動作で部屋を出ていくエレイン。

 そんな彼女を見送るゴードとフィオナは彼女の背中に一抹の不安を覚える。


 「大丈夫……でしょうか、陛下」


 「……大丈夫と信じよう。 二人の時は御父様でよいぞ」


 「……はい、御父様」


 少し恥ずかしそうに笑う娘の顔に癒されるゴード。

 いくら歳を取ろうと愛する娘の笑顔に父親は弱いものである。











 

 城下町の大通りの一角。

 時間は正午を過ぎ通り行く人々も活気にあふれている。

 そんな中で行列を作る程に大繁盛している店がある。


 その名を『銀のサルヴァトーレ』


 新鮮な肉を豪快に使用しつつ、その味付けは複雑怪奇な程に繊細とも言われている肉料理の店だ。

 開店してわずかな期間で急速に客足を伸ばし、今では肉料理と言えば銀と言われるほどまでに成長している。

 

 これだけの急成長を快く思わない者はやはり多く、数多くの妨害が銀のスタッフを襲うが彼らはそれらの妨害を全て退けてきた。


 肉の入手経路が自前だと分かるとその経路を潰すために人員を減らそうと手を出すも返り討ちに合い、調味料の入手を妨害しようとするも入手経路が分からず、評判を貶めようとするも既に火のついた人気は消火など間に合わない程に拡大していた。

 権力を以て潰そうにも、さらに大きな権力が背後にいる事が分かり手が出せない。

 

 つまり彼らの快進撃を止める手段が無いのだ。


 最終手段として店ごと潰そうとした者達もいたが、全て屈強なスタッフによって丁寧に折りたたまれてしまった(物理的に)。


 パッと見はいかつく近寄りがたい雰囲気の店員だが気さくで、中には美形もおり、どれもこれも強いとくれば女性層からの人気も急上昇である。

 


 そんな訳でもはや入店して食事をとる事すら困難になりつつある銀に、一人異彩を放つ女性が来店していた。

 

 美しい金髪にグラマラスなボディを持つ女性。質素ながらも下品になりすぎない程度に小物で調節している。

 その佇まいは上品で一目で誰もが貴族だと分かる。

 そしてその美貌の持ち主は王都内でも非常に有名である。

 その名はエレイン・クーラシュ・エルドラント。

 王都最強の双翼の一翼であるその人である。




 「……お嬢様がこんな店に何の用だ?」


 「あら、お客様である私に随分な物言いね。 実は今日は貴様に用があって来たの。 シルバーファミリー……いえ、銀のサルヴァトーレのヤクト殿」


 エレインがシルバーファミリーと言った瞬間にピクリと眉を動かすが特に表情を変えないヤクト。

 だがその一言は確かに彼を不快にしたようで、一瞬にして周囲を緊迫した雰囲気が包む。


 「ここは肉料理を提供する店だ。 自分が肉に成りたいなら裏に来い。 無駄な贅肉もしっかりと精肉してやる」


 「な!? む、無駄って何よ!? 貴方大概に失礼ね!?」

 

 「唐突に来てふざけた事を言う騎士様の方が大概に失礼だと思うがな。 シルバーの名前まで持ち出しやがって。 第一喋り方変わってるじゃねぇか。 そっちが素なのか? はっ、行儀の悪いお嬢さんだな」


 「むぅぅぅぅぅ! 表に出なさい! 再教育してやるわ!」


 「上等だクソアマ。 王都最強とか言われて調子に乗ってるみたいだがその鼻っ柱を圧し折ってやるよ」



 剣呑な雰囲気を纏った二人が得物を持って店の外へ歩いていく。

 そんな二人を止める者はいなかった。

 止めようと努力した数人はいたが、その雰囲気に中てられすごすごと帰っていったのだが彼等を攻めるものはいなかった。

 誰もが口を揃えてこういう。


 「アレを止めるのは無理だ」と。


 ヤクトとエレインは王都の郊外で発生し、周辺の地形を変形させる程の戦いを見せた。

 数時間にも及ぶ苛烈な戦いは引き分けで幕を閉じる。

 二人とも武器を支えに座り込み、息も荒く倒れこむ。


 「ぜぇ……ぜぇ……くそっ……。 やるじゃねぇか、攻めきれないとは思わなかった」


 「あ……はぁ……はぁ……あなたこそ……! ここまでやるなんて! ……はぁ……でも、これで決まりね」


 「あぁ? 何が決まりなんだ?」


 「王の命よ。 ……貴方は私と禁忌の森に入ってもらうわ。 森が荒れている原因の調査よ」


 王の命という言葉に頬を引き攣らせ、全身の力を抜いてヤクトは溜息をつく。

 その溜息にはどこか残念そうな感情が乗せられていた。


 「……不満そうね」


 「……いや、別に紳士どうめ……じゃなくて王の命令は別に構わない。 ……ただ……何というか簡単に踊らされて実力を測られた事がどうも腑に落ちないだけだ」


 「まぁ試したのは悪かったと思ってるわよ」


 少し頬を膨らませつつも、申し訳なさそうな表情をするエレイン。

 そんなエレインの表情が可笑しくてヤクトはついつい笑ってしまった。


 「ぷっ……あははははは! なんだその顔! はははははは!」


 「な、何笑ってるのよ、失礼な奴ね!」


 「いやいや。 普段はいかにも騎士ですーって顔してるがくくっ。 いいな。 俺はそんな表情のあんたなら好きになれる」


 「んなっ!? きゅ、急に何を言ってるのよ!?」


 ヤクトの言葉に耳まで真っ赤になるエレイン。

 騎士として勤め、修練ばかりしていた彼女にとって異性の直球な言葉はまさに爆弾のようなものだった。

 いまだに笑っているヤクトは再び寝ころんでおり、それに気付かない。


 「いやいや、良いもの見せてもらった。 ……王の命令は了解だ。 最近は禁忌の森に調達に行ってみたいとも思っていたし、使えるスタッフも連れていこう」


 「むむむむむむ! ええ、了解しました! 精々首を洗って待っていなさい!」


 「楽しみにしているよ、エレイン殿」


 疲れた体を叱咤して立ち上がったエレインはそう捨て台詞を吐いて離れていき、最後に聞こえたその言葉でさらにエレインはドキリと胸が脈を打つ。


 (あいつ! 名前で呼んだ! っっっぅ~~!?)


 妙な悔しさと恥ずかしさと、思っていた以上に嬉しいと感じてしまった自分を叱りながらエレインはその場を後にしたのだった。





 ※小話が来るぞーーーーーーー( ゚Д゚)!



 アカネ「ねぇミソラ」

 ミソラ「どしたのあか姉」

 アカネ「ご主人様にはスタンは有効でしょ? ステータス異常系の大半は無効だけど」

 ミソラ「うん。 いちばんききそうなのはスタン」

 アカネ「訓練と称してもダメ。 不意打ちも無理。 色仕掛けはまだ無理。 後残る手段としては料理だと思うの」

 ミソラ「ふんふん。 でもあか姉。 りょうりでスタンはむりじゃない?」

 アカネ「ふふふん。 さっきこっそりとご主人様の倉庫を覗いたら面白い物を見つけましたの! その名も『ペドロゾンX!』 敵に投げつければ一撃でスタンできるらしいわ。 これを料理に混ぜ込めば多分ご主人様も一撃ですわ!」 

 ミソラ「……たしかにききそうだけど……どんなりょうりにするの?」

 アカネ「ふふふふふ。 そこはみんな大好きカレーのような何かで誤魔化しますわ!」

 ミソラ「はっ!? たしかにかれーはう〇こみたいなものだし、たしょうごまかしてもばれない!」

 アカネ「とはいえご主人様も鋭いですわ。 ばれないように中身をよそう時に高速でやる必要がありますわ」

 ミソラ「ふふふふふ。 そこでわたしのでばんだねあか姉」

 アカネ「ミソラの魔法で支援をかけて、私が全速力でよそえばたとえご主人様といえど逃げれないはずですわ」

 ミソラ「ぬふふふふふふふふふふふ」

 アカネ「うふふふふふふふふふふふ」

 アカネ・ミソラ『勝った!』



 数時間後……。


 


 ミソラ「……まさかリリア様に先に食べさせて実験台にするなんて……」

 アカネ「さすがご主人様……鬼畜ですわね」

 ミソラ「そのあとのおしおきもきちくだった……」

 アカネ「鼻からペドロゾンXを直接注入するなんて鬼畜の所業ですわね……」

 ミソラ「わたしにとってはごほうびだったからけっかおーらい」

 アカネ「……あなた最近Mとして極まってきてないかしら?」



 久しぶりの戦いは惨敗なれど、彼女達の挑戦は終わらない……。


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