第三十九話

 

 レムナントの王立学園の学生寮。

 その一室で頭を抱えている生徒と勉強を教えるためについている生徒が一人。

 二人は明日に控えたテストの事で頭を悩ませていた。

 「ま、まさかリリアがこんなに出来ない子だったなんて……」


 「嫌ぁーー! 私をそんな目で見ないでくださいー! それもこれもゼクトさんたちと色々やってて授業に出てなかったからなんですぅ!」


 「ま、まぁ仕方ない……か?」


 発端は数時間前まで遡る。





 


 レムナントに戻った当日。

 荷物の整理を終えて一息していたリリアの元に友人であるエルレイアがやってきた。


 「あぁ、帰ってきたと聞いていたが元気そうだなリリア」


 「エルちゃん! ただいま帰りました! エルちゃんも元気そうですね」


 「元気のない私など私ではないな。 ……なんだか見違えたな」


 「え!? 私なにか変わりました?」


 「何というか、少し大人びた感じがするな」


 「えへへー。 そうですか? やっぱりそう思います?」


 「すまない。 気のせいだった」


 エルレイアの言葉に顔を見合わせて吹き出し笑う二人。

 久しぶりの友人との再会に上機嫌な二人はヴィスコールや王都での出来事、その間に学園であった出来事を語り合い女友達との時間を楽しんでいた。


 「随分と大変な時間を過ごしたみたいだな。 でも……ふふふ。 リリアはあの使い魔が来てから毎日楽しそうだ」


 「そうですね。 色々とありましたけど、毎日が楽しくて仕方ないです」


 「ふふふふ。 ……そういえばその使い魔はどこに?」


 「ちょっとやりたい事があるって言ってホームに戻ってます。 呼びます?」


 「あぁ、いやいい。 明日に備えて今日は少し勉強しておきたいからな」


 「…………明日?」


 「明日は筆記と実技の試験だからな。 そういえばリリアはどうなるんだろうな。 休んでいたのは理由のある事だし、今回は免除になりそうだが」


 「……い、いちおう一緒に勉強しない?」


 「……追いつくといいな」


 そしてリリアは知る。自分が座学においていかに取り残されていたかを。

 





 「ますたー。 なにしてるの?」


 「ん? 久しぶりに甘いものでも食べたいと思ってな。 新鮮な卵も手に入ったしケーキでも作ってようかと」


 「グッジョブですわご主人様! それをあーんして食べさせてくれたら完璧ですわ!」


 卵と小麦粉と牛乳など材料を混ぜている所に覗き込んできたミソラにそう答えると、アカネが首が千切れんばかりの勢いで振り向いた。

 今の首をグキッとやりそうな勢いだったけど大丈夫なのか?


 「別にそのくらいはしてもいいけど。 そういえばお前達はこういうのは作れないのか?」


 「いためたり、にたりくらいなら」


 「……全く出来ません」


 自分で設定……はしてないな。そういう細かい部分は勝手に補填されているのかなんなのか。

 ミソラはともかくアカネは出来そうな気もしたけど、そうでもないのか。

 ……ん?よく考えたらアカネの特技って戦闘以外にない気が……。

 あれ、実はアカネって結構ぽんこ……。


 「ご主人様? 今なにか考えまして?」


 「気のせいだ。 アカネが美人だなと思ってただけだ」


 「まぁ……超絶美人だなんてご主人様ったら。 子づくり致します?」


 どんな理論でそんな展開に跳躍するのかは分からんが、取りあえず気を逸らせたな。

 女は時折読心術でも使っているのかと思うほどに鋭い時があるから困る。


 「むー。 ますたーわたしはー」


 「ミソラも実に可愛いぞ。 でも料理中に抱きつくのはやめような」


 アカネだけを褒めたのが気に入らなかったのか腰に抱きついてきた。

 こういう所は可愛らしいな。


 「……じゃあわたしともこづくり。 さんにんはほしい」


 「そういう事はニヤニヤしながら言わないようにな。 特に人前でやると大変な事になる。 主に俺がな」


 世が世なら間違いなく通報されるからな。

 他愛ない事を話しながらも作業を順調に終わらせていく。久しぶりにケーキなんてつくるが意外と上手だな俺。特にこの身体能力でクリームの泡立てをやると実に速い。

 昔は自動泡だて器を使わないと作れなかったのに余裕で出来る。

 いい具合にツノの立ったクリームを少し舐めてみる。


 「……お、いい感じだな。 向こうのと比べると少し濃いかな?」


 少しコクが強くモッタリするような感じはあるが、薄く伸ばして塗れば問題ないだろう。

 生地をオーブンに入れ、その間にフルーツを適当にカットしていく。

 正直この辺りを適当にやるのは男なら仕方ない。


 「……前々から思っていたのですがご主人様。 やはりご主人様はその……リリア様をお好きなのでしょうか?」


 「あか姉……ききにくいことをちょっきゅうに。 でもわたしもしりたい」


 「本当に唐突だな。 ……そうだな。 好きかどうかと聞かれれば好きだな」


 自分でいうのも本当にアレだな。

 愛かどうか聞かれると……どうだろう。

 愛だとは思うがなにぶん自分でもよく分からん。


 「ご主人様がお好きになるのは仕方ありません。 ですので妾は二番目でも三番目でもよろしいので愛していただきたいですわ」


 「わたしはせふr」


 「はいそれ以上は止めような。 もちろん二人とも愛しているに決まってるだろ」


 「「じゃあ子づくりしましょう!」」


 お前らの頭の中にはそれしかないのか……。

 ちょっと意味ありげな事を聞いてきたと思ったらこれだよ。

 結構クズな返答をした俺も悪いが、こいつらも大概だな。

 まぁでもこの先の事も考えないといけないのは確かだよな。

 リリアが好いていくれているのは分かっているが、その気持ちを弄ぶような事はしたくない。

 だからといって目の前の二人もまた特別なのは確かだ。

 その辺はリリアとどうするか話さな……。


 あれ?

 そういえばきちんとリリアに自分の気持ちを話していないような気がしなくもないな。

 

 あれ?

 一方的に気持ちを聞いたり、キスされてるばっかりじゃないか?

 

 あれ?

 俺結構なクズじゃないか?


 「どうしたのますたー? おちこんでる?」


 「あぁいや。 ちょっと自己嫌悪中だ。 ……アカネが話題を振ってくれたおかげだな。 大事なことに気付いたよ」


 「まぁ! では致しますか!?」


 「そっちじゃねぇよ。 まったく」


 アカネとミソラを作ったのは俺の筈だけど、こんなにも予想できない子達だとは。

 本当に俺が設定したのだろうかとちょっと怪しくなってきたぞ。

 少しだけ気持ちの整理をしつつ二人との楽しい時間は過ぎていった。






 









 「というわけなんですゼクトさん……」


 翌日の昼過ぎ。

 机に突っ伏して嘆いているリリアがいた。

 実に面白いので写真に撮りたいのだが、無いのが悔やまれる。

 

 試験を終えたリリアはエルレイアとセインと放課後の教室に集まっていた。

 セインに関しては言うまでもなく優秀らしく、エルレイアも勉学においては一通りこなせるらしい。

 実は優秀な友人に恵まれているんだなリリアは。


 「今回に関しては仕方ない気もしますけどね。 それにほら。 すでに就職先も決まっていますし、今更成績なんてどうでもいいのでは? というか受けなくてもよかったのでは?」


 「……そうなんですけど、こう気持ち的な問題で。 それにやっぱりいい点数は取りたいじゃないですか」


 「実技の試験は満点だったじゃないか。 後衛のリリアが牽制の魔力弾で先生を気絶させたのには驚いたぞ」


 「あぅぅぅ。 アレはそんなつもりは無かったんですけど」


 なにやら俺がホームでのんびりしている間に色々と楽しそうに過ごしていたみたいだな。

 しばらくは大した用事もないだろうし、のんびり学業に専念できるだろう。

 というか魔力弾で気絶って先生としてどうよ。

 

 「うふふふ。 相変わらず楽しそうね。 ところで先ほどから気になっているのですけど、ゼクトさんがお持ちになっているソレ……。 何ですか?」


 セインの興味が俺の手元にあるケーキに注がれている。

 真っ白なクリームを割と丁寧に塗り仕上げた簡単なフルーツケーキだ。

 既にアカネとミソラが食べたので人数分に切り分けている。


 ……もちろん二人ともあーんさせられた。

 


 「これは皆さんのために作ったケーキです。 飲み物も用意していますのでどうぞお召し上がりください」


 「ゼクトさんって意外と女子力高いですよね」


 「リリア様は見た目の通り女子力ちょっと低めですよね」


 「ふぁっ!? そんな風に思ってたんですかゼクトさん!?」


 傷ついたように泣き真似をするリリア。 

 そんな真似をしても無駄だ。既に実家でアリアと共にボロを出しているのになぜ女子力が高いと思えるのだろうか。

 

 「あら。 すごく美味しい。 滑らかな舌触りとふんわりとした生地、それにフルーツの酸味がよく合いますわね。 ……ゼクトさんやっぱり私のモノになりません? 今なら私の体を好きにして良い権利もお付けしますのに」


 「むぅぅぅ! ばめべふぅぅ! べぷぽぱん……ゼクトさんは私のだからいくらセインさんでも渡しませんよ!」


 「リリア、食べながらしゃべるのはさすがにマナーが悪いぞ。 ……うん。 うまいな。 この紅茶もよくあう」


 頬を膨らませながらしゃべるリリアがリスみたいで面白い。面白いけど少しでも押したら口から弾けそうだな。

 やったら淑女にあるまじき絵面になりそうだ。

 

 ケーキもなかなか好評なようで良かった。

 自分で言うのもなんだがいい出来だったからいまいちとか言われたらちょっとへこむからな。

 

 久しぶりの友人との楽しい時間にリリアは終始笑顔で過ごしていた。





 三人と放課後のささやかなティータイムを終えて別れた後、何だか懐かしさを覚える冒険者ギルドへとやってきた。

 昨日のメイズからの金をせしめ……じゃなくてコボルトについての情報を貰う為だ。


 中に入ると相変わらず机に張り付いて書類仕事をしているのかと思ったが、何やらバタバタと忙しなく走り回っている。

 何かあったのだろうか。


 「なんだかみんな慌ててますね。 何かあったんですかね」


 「そうですね。 魔王が攻めてきたとかですかね、ははははは」


 「ははははは。 ゼクトさんがそんな事いうと本当にありそうですね。 ……冗談でもやめてください本当に。 そんな事になったら絶対ゼクトさん目当てで私に面倒事がくるじゃないですか」


 「そんな本気のトーンで返されるとちょっと悲しいですね。 魔王がどのくらい強いかは知りませんがいざとなったら課金アイテムを湯水のごとく使って撃滅してやりますので安心してください」


 死んでもその場で復活する課金アイテムでリトライしまくってくれるわ。

 そういえばそっち系のアイテムってちゃんと効果あるんだろうか。

 勿体ないけど適当な奴に持たせて実験してみるのも良いかもしれないな。

 

 受付に向かうと懐かしのターシャさんと目があった。あちらも非常に忙しそうにしているが、こちらを認識すると目にもとまらぬスピードで近づいてきた。


 「リリアちゃん! いいところに来たわ! 暇!? 暇よね!? 暇って言ってお願いなんでもするから!」


 「え、ちょ、え!? どうしたんですかターシャさん!?」


 「ここに大量のコボルトが向かってきてるらしいの! 有り得ないくらいの数で、町にいる冒険者には片っ端から声をかけてるけど数が足りなくて! 貴方達が力になってくれたら百人力なの! お願い!」


 鬼気迫るとはまさにこの事かという程の形相でターシャがリリアに詰め寄っている。

 涙目でリリアがこちらをチラチラと見ている。

 別に好きにして良いんだけども。


 「ほらぁぁ、言ったじゃないですかゼクトさん。 あんな何か起こりそうな事言うからぁ……」


 え、それ? 待ってそれ俺のせい?

 どう考えても俺関係ないと思いますよリリアさん。

 涙目で訴えてくるリリアの言葉についつい心の中で突っ込んでしまった。

 コボルトかぁ……。

 一日くらいで片付く量だといいなぁ。

 

 そんな事を考えながら盛大な溜息をついてしまった。







 ※ここから先に理屈や無用な考えは不要でござるよー(´ω`)

 頭を空っぽにして楽しんでくだせぇ(*´∀`*)w




 ゼクト「忙しい中集まってくれて感謝する」

 ゴード「うむ。 政務で忙しいが本件は重要だからな」

 服屋の店主「今日はこの為だけに店を休みにしてきたぜ」

 ヤクト「……このメンバーの意味が分からん」

 ゼクト「では第一回紳士会議を始める。 議題はメイド服についてだ」

 ゴード「やはりヴィクトリアン一択であろう。 若者がアレを着ているだけで余のやる気は超上がる」

 ヤクト「早速キャラ崩壊するような事をぶち込んできたな」

 店主「さすが陛下。 だが陛下の言っているメイド服にはミニスカはあるのか?」

 ゴード「スカートは裾まで隠れるマキシスカートがベストであろう」

 ヤクト「意義あり! ミニスカにハイソックスこそ至高だろう!」

 ゼクト「お前もぶち込んできてるじゃないか」

 店主「マキシスカートもミニスカも大事だ! だがメイドというならエプロンドレスにホワイトプリムは必須だろう! なら俺はマキシスカートを支持する!」

 ヤクト「バカな……!? あのミニスカの色気が分からんのか!?」

 ゼクト「俺はヤクトを支持する。 ミニスカとニーハイの絶対領域の色気は素晴らしい。 あ、もちろんエプロンとプリムは当然だな」

 ゴード「まったく、これだから若者は安易な色気に走りおって。 隠されているからこそ妄想を掻き立てるのであろう!」

 店主「さすが陛下だ! よく分かってるじゃねぇか!」

 ゼクト「良いだろう。 この会議、納得いくまで続けようじゃないか」

 ゴード「望む所だ。 他の予定は全てキャンセルだ。 お主達に隠されているからこその色気についてしっかりと教えてやろう」

 ヤクト「良いだろう。 店は部下だけでなんとでもなる」 

 店主「赤字になろうともこの議題は譲れねぇ。 良いだろういくらでも付き合ってやるぜ」


 翌日☆


 リリア「……まだ続けてる……私もメイドさん姿になったほうがいいのかな」

 アーベン「さすがにドン引きですね。 御頭何やってんだ」

 フィオナ「……御父様……仕事を放ってまで」

 店主妻「お仕置きですね」

 

 

 


 その後四人がお説教を受けたのは言うまでもない。

 しかし、紳士達の会議はこれからも続く……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る