第三十一話

 ※先に言っておく(*´ω`*) 私は紳士という名の変態……違う、変態という名の紳士だ(*´ω`*)!

 …………どっちもあんまり変わらんな(*‘∀‘)!




 王城の会議室。

 いまここには王であるゴードとその娘のフィオナ。

 そして王都最高戦力であるエレインとチサト。

 そこにリリアと俺が加わり、さらには一応上級貴族らしき人達が数名がそろっている。

 一応兵士達の最高責任者であるグレゴリーとその副官のフィリップとかいう男達も来ていた。

 グレゴリーという男は渋い顔つきで鎧で覆われていない部分からは鍛え上げられ肥大化した筋肉が露出している。

 フィリップという男は優男という印象の線の細い男だ。だが、その足運びなどは確かに鍛えられた人間のそれでなかなかに油断ならなそうな相手である。


 「朝から変なモノ見せつけられて……本当に最低」


 「王最高の騎士ともあろう御方がまさかノックもなしに入ってくるとは思いませんでした」


 「あんな状況になってるとか思うわけないでしょ!?」


 「……いい加減になさい。 陛下の御前で喧嘩なんておよしなさいな。 チサトも落ち着いて」


 人が真面目に考察していると、チサトから俺とリリアにいかがわしいものでも見るような視線で射抜かれた。正直上に立つ人間がそういう礼儀がなっていないのはどうかと思う。

 

 「まぁそういった事は余のいないところで存分に話すがよい。 それよりもグレゴリー。 要件を話してくれ」


 「はっ。 ……今回招集させていただいたのは少々問題が発生したためであります。 いや、発生していた、というのが適当ですな」


 「問題? グレゴリー殿やフィリップ殿でも厄介な案件だという事ですかな?」


 案内を促されたグレゴリーの言葉に貴族の一人が反応する。どうでもいいけど顎が通常時で三段になっている……すごいな。


 「……ここ一か月の間でですが……いま王都で吸血鬼騒ぎが広がっているのは皆さんご存知ですか?」


 「吸血鬼? あの上級の魔物か!? そんなものが現れたのなら一大事ではないか!?」


 「そうだそうだ! 吸血鬼といえば一晩で町一つを死都に変えるという化物だろう!?」


 吸血鬼という単語が出た途端に慌てふためく貴族達。今の話が本当ならすでにこの王都は死都になっているのではと突っ込みたくなるが我慢だ。


 「我々も全力で探しておりますが、どうも吸血鬼にしては被害が少ない……というより不審な点がございまして。 吸血されたような痕はあるのですが、その者は屍鬼になるでもなく死んでいるわけでもないのです。 ただ本当に血を吸われただけのような状態で我々が知っている事と相違点がありすぎるため皆さんの意見を頂きたく思いこの会議を開催させていただきました。 恥を忍んでお頼みするのであれば特にエレイン様やチサト様、それにリリア様の手を借りれないだろうかと」


 「……その言葉をそのまま受け取ればグレゴリー殿達が無能とそしられる可能性もないではないが……一か月近くという事はその間にグレゴリー殿達も捜査してなお見つからない相手と考えると恐ろしいな。 それにエレイン様やチサト様達の手をも借りたいという事は……。 最初の段階でなぜ吸血鬼として報告が挙がらなかった? 実害は少なくとも吸血鬼の可能性があるのであれば早々に報告が挙がってもおかしくないが」


 「……王子殿下の事と重なり、色々とごたついていたため報告も遅れたようでして……。 これに関しては我々は陳謝する以外にはありません」


 ……うむ。そこは俺のせいだから俺も陳謝するしかないな。よし出来るだけの範囲で協力する方向でいこう。しかし内容を聞くとどう考えても吸魔族のほうっぽいけど……。

 以前セインも言っていたが、たしか吸魔族自体かなり数も減っているとかいっていたような。

 この一か月の間で以前聞いたときには王都には吸魔族はたしか自分の一家だけと言っていた気がするが。

 つまりセインの家族が犯人?これまで隠してきたとしてこんなにあっさりとバレるような方法をとるだろうか?

 

 (ゼクトさん……これってセインさん関係ですかね?)


 (どうでしょうね。 あの腹黒女……失礼。 セイン様のような方やそのご家族がこんな簡単にばれるような行動をとるとは思いにくいですが……)


 (腹黒って……ゼクトさんもあんまり変わりませんよ?)


 (あ、ひどい。 まさかリリア様がそんな事を言うなんて……。 私は悲しいです)


 (うぇあ!? あぁああの! ご、ごめんなさい……)


 「……貴方達。 一応会議の途中という事を理解していますの!?」


 リリアがこそこそと話しかけてきたのでこそこそと返していたらエレインさんに怒られてしまった。

 まったく困った主だ。巻き添えで怒られてしまったじゃないか。 


 「失礼しました。 主がお腹がすいたそうで」


 「え!? 私そんな事一言も言ってないですよ!?」


 「嫌だなぁ、さっさと終われよクソ野郎って言ってたじゃないですか」


 「いやいやそんな捏造しないでくださいよ!? 私言ってませんよ!?」

 

 「あ、すいません。 今のは私の本心でした」


 「せめて包み隠してくださいよ!?」


 リリアの慌てふためく姿で楽しんでいると、次の瞬間鉄塊のような大剣がいきなり振り下ろされた。

 こんな状況でそんな事をする人間は一人しか知らんが、せめて手加減をしてほしいと思う。

 危ないし、そのまま避けると机が割れるので一応受け止めるが、俺じゃなきゃ死んじゃうよ?

 

 「……真面目に参加する気がないなら帰ってもいいわよ? それとも死ぬ?」


 「はっはっはっはご冗談を。 こんな虫も殺せないような棒切れで何を殺すんですか?」


 「……ぶち殺す」


 おぉぉ。煽りすぎたかな。ものっそい力を込めてるみたいでチサトさんの闘気で周りにすごい圧力が。

 床とか天井とか机とかミシミシ言ってる。

 そして殺意の視線がすごい。

 ただ、力任せに押し込むだけだと芸がないぞチサトさん!


 「ほいっ」


 「あっ!? また貼ったわね!?」


 隙だらけだったのでまた傀儡符を貼って動きの自由を奪ってみた。

 まったく懲りない人だな。

 今回はどんな風にしてやろうか。ストリップショーはさすがに可哀想だしなぁ。

 口は動かせないし……。ラジオ体操第二でいいか。体にも良いし最適だ。


 「あ、くっ……また勝手に私の体を!? 絶対に……というかなんですかこの動きは!?」


 「素晴らしい体操です。 全身の筋肉がほぐれていい具合になりますよ」


 「くぅぅぅぅ……悔しすぎる……。 そして情けなさ過ぎる……」


 「お主達……。 ……図らずもといった所ではあるが、皆も見た通りリリア嬢の使い魔はチサト殿ですらこうしてあしらわれる程に強い。 折角だ、ここはリリア嬢と使い魔殿に解決してもらうのはどうだ?」


 チサトさんを操って遊んでいるとそんなセリフがゴードから飛び出た。

 正直俺としてもそっちが楽でいいかも。

 都の情報なんかはヤクト達に聞けば色々仕入れる事も出来そうだし。


 「それはいい! 王都で知らぬ者はいないという程のリリア様の実力を拝見したいとも思っておりました!」


 「うむ。 リリア様であれば大丈夫であろう! 頼むぞ!」


 貴族どもは自分達に面倒が来ないように責任逃れのように押し付けてきおった。

 別にいいんだけど。


 「どうだ? 引き受けてくれるかリリア嬢」


 「あ、えっと。 ……はい! この大任、必ずや成功させてみせましゅ! ……ます」


 最後の最後に噛むとかリリアさん可愛いけど恥ずかしいよね。

 誤魔化したけどあんまり誤魔化せてないです。

 年上連中……というかほぼ全員が生暖かい目で見てるじゃないか。

 そんな事にいちいち突っ込む程みんな意地悪ではないという事か、優しいな。 


 「う、む。 ではよろしく頼む。 仔細はまたグレゴリー達と話しておいてくれ。 今回はこれで終わりとしよう。 よい報告を期待しておる」


 「はい! 必ずや!」


 ゴードが部屋を出ていき、貴族たちがそれぞれにリリアに励ましの言葉をかけながら出ていく。

 グレゴリーとフィリップ、それにエレインとチサトだけになった事で肩の力を抜いたリリアはため息をつく。


 「……思いっきり噛みましたねリリア様」


 「……言わないでください……」


 「どうでもいいけどいい加減にこの謎の動きを止めてくれないかしら!?」


 おう、忘れていた。ずっとラジオ体操させてた。

 いい具合に体の筋肉も解れたんじゃなかろうか。きっと胸あたりの筋肉もついて大きく……。いややめよう。

 こういう時の女性陣はマジでエスパーだからな。

 傀儡符を解除すると、チサトさんはそのまま床に座り込む。よく考えたら結構全力で動いてたし、それをずっとやってたから疲れるよな。


 「……話を進めてもいいか?」


 「あ、どうぞお構いなく」


 「うむ。 今回の件で我々も大規模に動き始めているのだが、まったく手掛かりがなくてな。 襲われたもの達はどうやら魔法で眠らされているようで目撃証言もない。 被害状況からみるに犯行自体もかなり短時間で行われているためいつの間にか終わっているような始末でな。 正直困っていたのだ。 襲われている者達にも共通点が見当たらないからどうしたものか……」


 ふむふむ。確かにそれは厄介だな。

 この反応を見るに今まで起きた事のない事件のようだし、捜査の前例がないと一からになるから難しいよな。

 セインは先に学園に戻ったが、いちいち呼びに戻るのも面倒だな。

 あいつの実家に確認してみるのが早いかな?

 

 「……一応こちらでもまずは捜査をしてみます。 ただ王都自体広いので兵士の方々のように広範囲を調べる事が出来るわけでは無いので、なにか進展がありましたらこちらにも情報をお願いします。 こちらも何かしら掴みましたら近辺の兵士の方にお伝えしますので」


 「うむ。 よろしく頼む」


 グレゴリーもそのまま立ち上がり、フィリップもそれについて出ていく。

 結局最後まで彼は言葉を発さなかったが、その妙に絡みつくような視線が気になった。

 フィリップはこちらを一瞥したあと、礼をして出ていった。


 「なんだか……グレゴリーさんは良い人そうですけどフィリップさんはちょっと怖いですね」


 「おや、人を見た目で判断してはいけませんよ。 それをいったらそこのお二人なんて品行方正で清廉そうじゃないですか。 それなのに中身はおっと」


 「それ以上続けるなら突き刺しますよ?」


 すでに突き出してますよ?避けないと刺さりますよ?

 いや多分実際刺さりはしないと思うけど、心情的に避けてしまいます。


 「いやいや見た目は褒めてるじゃないですか。 ……見た目は」


 「一言余計だ!」


 おおっとまた大剣を振るうとは懲りないなチサトさん。

 また傀儡符を貼られたいのかな?


 「くそっ、忌々しい奴だ。 避けるわ、受け止めるわと厄介な……」


 「そもそも人に向かっていきなり剣をふるうとか阿呆ですか。 黙っていればそんなに美人だというのに」


 「んなっ!? ……っ! もう知らん!」


 「あ、お待ちになってチサト! ちょっと!?」


 攻撃が当たらないのがそんなに悔しかったのか顔を真っ赤にして出ていったチサトさん。

 それをおいかけてエレインさんも出て行ってしまった。エレインさんはかなり苦労性な気がするな。

 そんな事を考えているとリリアがむっとした表情で睨んできた。


 「……あぁいう人が好みなんですかゼクトさん」


 「……? いえ全く。 あ、でもああいう気の強そうな人を屈服させるのは女であろうと男であろうと楽しいから好きですよ?」


 「それを聞いて安心しましたって言おうと思ったのに後半の言葉で全然安心できません!」


 「まぁ気が強くなくてもついついリリア様には悪戯してしまいますよね」


 「本当ですよ!? ほどほどにしてくださいよ本当に!」


 「ほどほどに……ですね」


 「もう……。 それでこれからどうしましょうか? これだけ広い王都で犯人を捜すのって大変そうですけど……」


 「そうですね。 取りあえずはセイン様の実家に行ってみたほうがいいかなと思っています。 吸魔族の親ですし、何かしら情報を握っているかもしれませんし」


 同じ吸魔族ならそういう話にはアンテナを張っていそうな気もする。

 ただこの状況を静観しているのならそれなりの理由があるのだろうから何とも言えないところだな。

 

 ……でも正直あんまり会いたくないなぁ。


 「じゃあまずはそっちですね! 行きましょうゼクトさん!」


 まぁ……リリアと一緒ならどこでも楽しそうな気もするな。屈託なく笑うリリアを見て……心からそう思う。


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