第二十八話

 ※最近こちらで投稿させて頂いてますが、読んでいただきありがとうございますーー(n‘∀‘)η





 王城内のとある一室。

 そこでは王子であるレイモンドがとある人物から依頼の報告を受けていた。

 

 「殿下。 超人結社の者達ですが、やはり全員が死亡したと見たほうがよろしいかと。 彼らの本拠地は最早完全に瓦解しており、いくつか死体のようなものも残っておりました」


 「……そうか。 有用な者達であったのだが。 大方自分達で作り出した術式が暴走でもしたのか……。 何か使えそうな物は残っていたか?」


 「いえ。 すべて灰塵となったようです」


 「まったく、忌々しい。 せっかく援助してやっていたのだから、死ぬ前に少しは役に立つものを残しておけばよいものを」


 レイモンドは超人結社の者達に多額の支援金を送っていた。

 その見返りとしていくつかの依頼を引き受けさせていたり、レイモンドにとって有用となるような薬や武器などを融通していた。

 それらの供給源が断たれた今、レイモンドにとって手足となるのはシルバーファミリーの者達だ。


 「妹の件はどうなった?」


 「王女殿下であれば、滞りなく処理できたと担当より。 お頭が王の暗殺はどうするかとお尋ねでしたが」


 「そうかそうか! 女の癖に無駄に才能など発揮して俺の邪魔をしようとするからこうなるのだ! くくくく。 親父のほうも早めにやってくれて構わん。 なんなら今日でも構わんぞ」


 妹であるフィオナが死んだという報告を受けて満面の笑みを浮かべるレイモンド。

 その表情や態度に憐憫など一切なく、晴れ晴れとした様子が見て取れる。

 

 「了解しました。 でしたら本日中に事を済ませておきましょう。 毒殺しておきますので、発見は王子……いえ、陛下にお願いしとうございます」


 「うむ。 ……陛下、か。 意外と悪くないものだな。 くくくく、俺が王となったならば貴様等をさらに重用してやる。 しっかりと励めよ」


 「勿体ないお言葉……」


 「うむ、下がってよいぞ」


 影のような男は音もなく部屋から出ると気配もなく消え去った。

 その姿を見てレイモンドは鼻を鳴らし、窓から王都を見下ろす。

 そこには自分の物となる人々や物に溢れており、活力に満ち満ちている。


 「……俺は親父とは違う。 妹よりも優れている! 俺こそが王だ。 全てを手に入れてやる」


 レイモンドの目には濁った光が宿っている。


 そもそも彼が少しずつおかしくなっていったのはアリアに求婚を断られた時からだった。



 

 レイモンドはその端正な容姿と、決して悪くない実力を持ちながらも王族という事に胡坐をかき努力をあまりしない青年だった。

 それでも一応はそこそこの成績をとる事が出来ていた彼は自分を才ある者だと信じて疑わなかった。

 そんな彼が学園内で一目置いていたのがアリア・クラッツェ・ヴィスコールだった。

 もともと王家を補佐する家系として優秀なヴィスコール家の長女で飛びぬけた魔法の実力と、おっとりとした性格。さらにはその柔らかな雰囲気のなかにある美貌に憧れる者も多かった。


 当然レイモンドもその魅力に惹かれ、そして自分ならアリアを篭絡するなど容易だと思っていた。


 しかし、結果は拒否という形で終わった。


 実家に送った手紙も断られ、その後に父であるゴードからも破棄したとの旨を受け取り信じられなかったレイモンドは直接アリアの元へ向かい、求婚を拒否する理由を問い詰めた。


 「ごめんなさい。 殿下とはどうしても性格が合わないと思いますので……遠慮させていただきますね」


 今まで特になんの不自由もなく生活をしてきたレイモンドにとって初めての他人からの拒絶。

 それは彼にとって許しがたい怒りを覚えさせた。

 アリアに自分を振った事の報いを受けさせようと考えたレイモンドは、しかし彼女が学園で人気もあり表立って彼女を攻撃するのはまずいと考えた。

  

 彼は丁度そのころ付き合いを始めた超人結社の者にアリアへの復讐を行う事を依頼した。

 超人結社の者達もその程度の依頼を受けるのは面倒だとも思っていたが、金蔓としては優秀なレイモンドを手放す訳にもいかないため仕方なく依頼を遂行した。


 アリアが使い魔との連携を図る授業中。アリアの使い魔はウィスプと呼ばれる光の下位精霊で、その力で光を強めたその瞬間。超人結社からの刺客はその光に乗じて更に強い閃光弾を使用して周囲の視界を潰し、それに乗じてアリアの周囲に爆発を引き起こした。 

 爆発によってアリアは吹き飛ばされ、腰部から骨盤にかけて骨折し足が炭化するほどの重傷を負う事になった。


 表向きはウィスプの暴走という事で片付き、それによってアリアはウィスプを呼ぶこともなくなった。

 動けなくなってしまった事でアリアは学園を退学する事になる。


 そうして暗い感情を満たす事に喜びを感じたレイモンドは徐々に徐々に性格が歪んでいってしまった。




 




 フィオナの暗殺成功の報を受けた翌日。

 レイモンドは暗殺者より王であるゴードの暗殺が成功した報を受ける。


 「……とうとう来たか」


 逸る気持ちを抑え、ゴードの部屋に向かうレイモンド。

 普段なら警護の者がいるはずの王の部屋の前には誰もいない。

 そんな事も気にならないほどに逸っていたレイモンドは王の部屋の扉を開ける。

 

 そこには杯をこぼして倒れこむ父の姿があった。

 レイモンドはピクリとも動かない父のその姿を見て、次第に込み上げてくる笑いを抑えるように顔を伏せる。


 「くっくっくっく……くふふふ。 はははははは! これで! この城もこの王都も! この国も俺の物だ! どいつもこいつも俺の事を見下しやがって! はははははは!」



 狂ったように哄笑をあげるレイモンド。

 その姿には悲しみなど微塵もなく、愉悦と高揚感のようなものがまざった感情が色濃く表れている。


 「……どうか嘘であってほしいと思っていたが……事実であったか」


 「はっ!? な、ななななななんで生きている!?」


 死んだと思い込んでいた父であるゴードがむくりとその上体を起こし、レイモンドを見つめている。

 憐憫すら込められたその視線に動揺を隠す事のできないレイモンド。

 

 「ばかな!? あいつらが毒殺したんじゃないのか!? どういう事だ!?」


 「全ては芝居よ。 ……主の手足であった暗殺組織はすでにとある者の手によって潰されておる」


 「じゃあさっき報告に来ていたやつは!」


 動揺し、隠す事すら忘れてしまっているレイモンド。そんな息子の姿に諦めと呆れが同時に去来しゴードはため息をつく。どうしてこうなってしまったのかと。


 「すべて芝居だ。 余もレイモンドが確実に犯人だという事を確かめたかったのだ。 ……信じたくはなかったのだがな」


 「ま、待ってくれ父上! 違うんだ! これはとある奴らに唆されて! そう超人結社って奴等が!」


 「もうよい! ……もうよい。 ……ゼクト殿……あとは頼む。 処刑までの間は預けておく。 準備はこちらで進めておこう」


 ゴードはゆっくりと立ち上がり、レイモンドには一瞥もくれず部屋を出る。

 部屋の外にはエレインとチサトが待機しており、ゴードを気遣っている。

 部屋の扉が閉じられ、鍵がかけられる音がした。



 「はっ!? おいちょっと待て! これは違うんだ! 罠なんだよ! 頼む! 開けてくれ!」


 扉を開けるように懇願するレイモンド。先ほどの愉悦に満ちた様子はすでになく、今後待ち受けるであろうその未来を想像し不安が押し寄せる。


 「さて、陛下のお許しも得た事ですし……。 改めて名乗っておきましょうか。 こんにちは、殿下。 ゼクトと申します」


 どこから現れたのか、執事服に道化のような仮面をつけた男がいつの間にかレイモンドの背後に立っていた。


 「な、貴様何者だ!」


 「いま名乗りましたでしょう? ゼクトと申します」


 「な、なな。 お、俺をどうするつもりだ!?」


 「そうですねぇ。 殿下はどうしてほしいですか?」


 「な、なに?」


 質問に質問で返すゼクトの言葉に、レイモンドは焦る頭でどうにか考える。

 いまこの部屋に人は二人。

 もしこのゼクトを懐柔できればまた助かる道はあるのではなかろうかと。


 「お、俺を助けろ! ここから出すのだ! 俺が父上を殺し、上にたてば貴様には望むものすべてを与えよう! どうだ!?」


 まだ勝機はあると考えているレイモンドはゼクトに向けてそう提案をする。

 その提案が叶う可能性など零だというのに。


 「……ふぅ。 もう少し情に訴えかけてくれるかと思いましたが……所詮はそんなものですか……つまらない」


 仮面で表情は伺えないが、明らかに小ばかにしたようなゼクトの動作に先程までの不安を忘れ、怒りを覚えるレイモンド。

 

 (なぜ俺がこんな男に見下されなければならん! そうだ、俺には切り札がある!)


 レイモンドは超人結社の連中から手に入れた薬を思い出す。

 どうしても命の危険が差し迫ったときには使用するように言われた薬。

 レイモンドは懐に手を伸ばし、その薬を一気に飲みこむ。


 「俺はぁぁ! こんなところで死ぬ男ではないわぁァァァァァァアアアアアア!」


 薬を飲み、血走った眼をしたレイモンドの言葉尻が徐々に明瞭さを失っていく。

 全身の血管が浮き出ているのではと思える程体表に青筋が浮き上がり、徐々にその体が変容していく。

 


 背中から蜘蛛の足のような節のある足が六本程生えてきた。

 体は青黒く変色し、硬質化した皮膚は金属のような鈍い輝きを持っている。

 腕も節のような関節に変化し両手の先には人間とは思えないような五指がある。鋭利な爪はそれだけでも鉄を容易く切り裂いてしまいそうなほどに鋭い。


 『コレガ! チカラダァァァァ!』


 「おぉぉぉ……言葉通り……変態だ」


 『死ィィィネェェェェェ!』


 レイモンドだったそれの振るう剛腕による一撃。

 それは周囲への配慮など一切考えないもので、一撃で部屋を蹂躙し最上階の壁を吹き飛ばす。

 

 『ソウダ! モウ地位や名誉ナドカンケイナイ! スベテ! スベテスベテスベテ! 俺ガブチ壊シテヤル!』


 レイモンドだったものは吹き飛ばして瓦解した部屋の壁から身を乗り出し、先ほどどこかへ向かったであろうゴードを探す。

 きっと玉座方面だと睨んだレイモンドはその変化した体躯を活かし、最上階の壁から城の一角に向けて砲弾のように飛び出していく。


 崩れた壁の中から傷一つない姿を見せた仮面の男は去っていくレイモンドを見て仮面の下でにやりと笑う。


 「これは……なかなか使える状況だな。 兵士達には悪いが……少し利用させてもらうか」


 仮面の男はまるで幻でもあったかのように一瞬にしてその場から姿を消した。






 


 『ドコダ! 父上ーーー!』


 飛び込んだその先で目に付く人間のすべてを引き裂き、喰らう。

 もはや人としての在り方を失ったレイモンドにとっては破壊こそが全てだった。

 玉座に向けて突き進むレイモンド。


 その進攻は圧倒的で並み居る兵士達をなぎ倒し、城に常駐していた騎士たちも歯が立たず次々にレイモンドの餌食になっていく。


 やがて到着した玉座にはゴードと王国最強の騎士であるエレインとチサトがその前に立っていた。

 そしてなぜか先ほど吹き飛ばしたはずの道化師の仮面をつけた執事服の男、ゼクトと名乗った男とアリアによく似た女が立っていた。


 『……ゼンブブチ壊ス!』


 感じた疑問など些細な事だと思ったレイモンドは予定通り、この場にいる全てを破壊すると宣言する。


 「あんな感じです陛下。 ……せめてもの救いとして、殿下はあの化け物に殺された事にしましょう。 これで多少は外聞もましになるでしょうし」



 「……うむ。 ……頼む。 リリア嬢、ゼクト殿。 一思いに……殺してやってくれ」


 「……分かりました」


 「御意」


 女が杖を構え、何かしらの魔法を唱えゼクトに支援をかけている。

 支援を受けたゼクトはまるで普段と何も変わらないとでもいうように軽快な足取りでレイモンドに近づいていく。


 『死ィネエエエエエエ!』


 節足がギチリと音を立てて動き、その鋭い先端を突き刺すように動かす。

 すさまじい速度で迫るそれは多角から襲い掛かり、普通ならば避けることも防ぐ事も出来ずに貫かれる。

 ゼクトは迫りくる脅威を前に悠然と構え、いつの間に用意していたのか武器の柄に手をかける。

 

 

 『参の太刀 氷華』


 ふわりとした柔らかい風が通り抜けた瞬間。

 ゼクトを襲う節足のすべてが一瞬にして刻まれ、その断面が凍り付く。

 氷結は断面に留まらずそこから一気に氷結領域を拡大していきレイモンドを襲う。


 『ヌゥアアアアア!』

 

 氷結が進む自分の節足を自らの爪で切り裂き、体への侵攻を防ぐレイモンド。

 今の一瞬で何が起きたのか理解できず、目の前のゼクトを見る。

 ただ柄に手をかけただけにしか見えなかったレイモンド。

 しかし結果は千々に刻まれた自分の節足が何よりも雄弁に語っている。


 自分は斬られたのだと。


 『……コノ化物メ!』


 「……その見た目でそれを言いますか。 お互い様だと思いますが」


 『貴様サエ殺シテシマエバ、他ノ有象無象ナド!』


 悔し気な目で父であるゴードを見るレイモンド。

 あと少し。

 あと少しでこんな国など破壊できるというのに目の前のゼクトという男のせいで進めない。

 

 「ふむ。 一つ勘違いをしているようなので教えておいてあげましょう」


 『……ナニ?』


 「もう斬り殺させて頂きましたよ殿下」


 『……ッ! ば、バカナ!? イツノマニ!?』


 ゼクトの言葉と同時にズルリと体が断面にそってずれ始める。

 痛みもなにも感じぬ間に自分の体が切り刻まれている事に恐怖を感じるレイモンド。

 視界が一気に落下し、床に広がる黒い血だまりの中に落ちる。

 ゆっくりと遠のいていく意識の中、レイモンドの耳に一人の女性の声が届く。


 「お姉ちゃんの痛み。 ……少しは味わって死んでください」


 冷たくもどこか悲し気なその声が、レイモンドが最後に耳にした言葉だった。

















 ※小話



 

 ミソラ「……ますたーがおふろにいったよあか姉」

 アカネ「分かっていますわ美空」

 ミソラ「どっちがさきにいくか……」

 アカネ「もちろん姉である妾が先ではなくて?」

 ミソラ「おもしろいじょうだん」

 アカネ「……やはり勝負するしかありませんわね」

 ミソラ「……うけてたつ」

 アカネ「ご主人様のお背中を流すのは妾よ!」

 ミソラ「ますたーのからだをすみずみまできれいにするのはわたし」

 アカネ「いきますわよ! じゃんけん!」

 ミソラ「ぽん!」

 アカネ「くっ! たった一瞬で何手も変えるなんて!」

 ミソラ「あか姉も。 それにあわせてかえてくるなんて」

 アカネ「まだまだ!」

 ミソラ「かつのはわたし!」


 数時間後


 ミソラ「かった!」

 アカネ「触手を使うのは反則ですわ!」

 ミソラ「これでますたーといっしょにおふろ!」

 アカネ「くぅっ、あそこでパーを出しておけば!」


 ゼクト「なにしてるんだお前ら」


 ミソラ「……ますたー? あれ、おふろ……」

 ゼクト「何時間前の話だ? お前らも入れよ」

 アカネ「……」

 ミソラ「……あか姉」

 アカネ「…………次は一緒に行きましょう」

 ミソラ「そうしよう」

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