第十二話
「という訳でギルドに加入しないか?」
「御断りします」
「何故だ!? 貴殿ならその武勇をもって世界最強という頂きにすら届くかもしれないのだぞ!?」
「いやそんなものに興味はありませんので。 私はリリア様の使い魔で十分に満足しております」
夜も更け人が少なくなったギルド支部。
その支部長たるギルドマスターの部屋に呼び出されたかと思えば勧誘でした。
世界最強とかそんな無駄な称号はいりませぬ。
「ぬぅぅ……まぁ良い。 今回の火竜の襲撃について少し話がある」
「火竜の襲撃について……ですか?」
「憶測ではあるが、我々がワイバーン達を倒したことが原因かもしれぬ」
いきなりのカミングアウト来たけど、なんで俺に話すよ?
俺関係ないよ?
そういうのは襲われた人達に話して、怒られるべきでは?
あ、いや。ちょっと待て。
いまは俺達が火竜を倒したことで町の人達の感情は英雄を讃える方向で前向きにもなっているが、ここでこいつらが自分達のせいだと公表したら折角の皆の感情が犯人憎しの方向に行きそう。
「それは……公表しない方がいいでしょうね。 ギルドマスター殿達が原因だという確証はどこにもありませんし、何より今の状況でそれを公表するのは誰にとってもマイナスにしかなりません」
「分かってはいる。 だが俺を含めてワイバーン討伐に動いたチームはかなり責任を感じていてな」
チームで動いていたのか。
しかしこの世界ではレベル三十もあれば強いって言ってたけどワイバーン倒せるのか……。ワイバーンは結構レベルも高かった気がするけどこの世界だと違うのか?
「ここで公表して責任を取るといっても死んだ人は生き返りません。 それにもし皆さんがワイバーンを倒していなければ、いずれ誰かが犠牲になっていたでしょう。 原因がどうなどと言い出したならキリがありませんし、悔やむ心があるのならこの町の人々のために全力で生きてみればいいのではないでしょうか」
「この町の為に……か。 ……そうだな」
少しスッキリした表情で笑うマッチョもといギルドマスター。
もっと考えれば火竜を退治してあの程度の被害で良かったともとれるしな。
この手の問題は悩みすぎない方がいい。
「聞き耳を立てている隣の部屋のチームと話をしておいてください」
「気付いてもスルーしてくれるのが優しさだと思うぞ」
「私が優しくするのは主と部下だけですので」
見ず知らずの他人に俺が優しくする訳ないだろう。
面倒そうだったら目の前で児童誘拐があっても余裕で無視できる自信がある。
「……そうか。 いや、引き止めて悪かった」
「では私はこれで」
一応丁寧に礼をして部屋を出る。
しかし、組織のトップに立つってのも大変だなぁ。
色々と考えることも多そうだ。
そういうのは主に任せてのんびり使い魔ライフを送りたいものだ。
俺が部屋を出たあとに、ギルドマスターの部屋の隣から八人の男女がギルドマスターの部屋に入っていった。
恐らくあれがさっき言っていた冒険者チームだろう。
最後に入ろうとした男と一瞬目が合い、頭を下げられた。
返礼すると男は照れ臭そうに部屋に入っていく。
もしかしてあのチームのリーダーかな?
「……まぁいいか。 主のもとへ戻るか」
ギルドマスターもあの冒険者チームも前に進めるといいな。
あ、いい加減ギルドマスターの名前聞かないと。
ずっと忘れてた。
祝勝と慰安を兼ねた野外パーティが町の広場で開かれた。
国王であるゴードと学園長であるヘイゼル、そして町長であるダナンがそれぞれに今回の火竜襲撃によっておきた悲劇と苦労を労い、また同時に火竜を討伐出来るほどの英雄が現れたことを祝った。
一際高いステージには紹介された英雄が笑顔で手を振っている。
町の人々は火竜がどう倒されたのかは把握していないが、英雄が使い魔を使役して倒した事になっている。
また英雄自身も火竜襲撃の際に救助に尽力したことを町の人々は知っているため彼女がステージに立ち紹介を受けたとき、広場は凄まじい熱気と歓声に包まれた。
美しい蒼銀の髪を整え、その美貌を更に引き立てる黒を基調としたドレスに身を包んだ英雄。
『英雄リリア様だ!』
『あれが生ける伝説となったリリア様!』
『三匹の使い魔を使役するという過去にもない大魔法使い!』
『うぉぉーーリリア様ーー! 結婚してくれーー!』
火竜殺しの英雄リリア。
レムナントに誕生した英雄に誰もが興奮し、歓喜した。
挙がる歓声にどこかやけくそ気味の笑顔で英雄は応え続けた。
夜に差し掛かる頃に始まったパーティは日付が変わって尚も続いていた。
町の人々はそれぞれが火竜が討伐された事を喜び、亡くなったものを悼み、そしてこれからも向き合わなければならない現実に立ち向かうためにその時間を楽しんでいた。
「…………」
「流石に疲れたみたいだな」
「…………何というか詐欺をしているみたいで良心が痛みます」
ゼクトは入れ替わり立ち替わり来る人々を相手に対応するリリアの限界が近そうだと判断し、リリアを中座させて学園の屋上へと避難させた。
緊張の解けたリリアは座り込み放心していたが、ゼクトの言葉に少し気まずそうに答える。
疲れからか顔が真っ赤になっている。
「いやいや。 使い魔として俺を呼んだのはリリアだろ? 使い魔の力は主人の力だ。 それにリリアも朱音や美空と一緒に頑張ってたんだ。 誰もリリアに不満なんてないさ」
「……ゼクトさんって意地悪なのか優しいのか分かりませんね」
「俺はいつだって優しいぞ?」
「そこ疑問系になってるじゃないですか!?」
つっこむリリアだが、ゼクトと目が合い二人とも声をあげて笑いだした。
少し落ち着いたあと二人は並んで座り、屋上から町を見下ろす。
まだパーティは続いており、広場には魔法による灯りが輝いていた。
「……ゼクトさんが使い魔として召喚された時、正直すごく不安でした」
「それは……そうだろうさ。 普通は人間が出てこない所から出てきたんだし」
「ふふふ。 それもありますけど、ゼクトさんは人間ですから召喚して無理矢理契約されたことに怒ってないかなって」
「あぁ……。 別に怒りはしないさ。 前も言ったような気もするけど」
「覚えてますけど、だってあれは初日だったじゃないですか。 いまこうやって使われてみて、やっぱり私みたいな小娘じゃ嫌だなぁとか思ってません?」
恋人のような距離で隣り合い座る二人。どこか興奮気味で顔を赤くしたままのリリアはグイとゼクトに顔を寄せる。
「えらく絡んでくるな。 ……そうだなぁ。 俺はそんなに立派な事をしてきた訳じゃないからさ。 誰かの為に生きるって意外と良いもんだなと思ってる」
「……本当ですか?」
「ああ。 呼んでくれたのがリリアで本当に良かった」
ゼクトが前にも見せたような笑顔を見せ、リリアはその表情を見て更に顔を赤くする。
「……やっぱりゼクトさんは意地悪です」
「今の流れで意地悪はおかしいだろ」
「いーえ! ゼクトさんは意地悪です! 間違いありません!」
立ち上がり叫ぶリリア。
いきなり立ち上がった事でふらつき、ゼクトがその体を受け止める。
「まったく。 何をしてるんだか。 お前酒入ってるな?」
「あぁぅぅ……」
抱き寄せたリリアをゆっくりと座らせ、改めて隣に座るゼクト。
先程よりもリリアがゼクトに寄り掛かるような体勢になっている。
暫く沈黙が続き、やがて大きく息を吐いたリリアはゼクトを見つめた。
「……ゼクトさん」
「ん?」
「私を助けてくれてありがとうございます」
「……ああ」
「意地悪だけど……凄く優しくて意地悪なゼクトさんが……私は好きです」
「……え? んむっ」
花が咲くような、始めて見るリリアの笑顔での告白。
リリアはその笑顔に意識を奪われたゼクトの頬に、熱をもった熱い両手を添えてゆっくりと唇を重ねた。
甘い柑橘系の香りとリリアの柔らかな唇に驚くゼクト。
実際はほんの数秒だったが、二人にとっては長い時間のようにも短い時間のようにも感じた。
重ねていた唇を離したリリアは恥ずかしそうに、しかしとても嬉しそうな笑顔をしている。普段真っ白な肌が首もとまで真っ赤になっている。
「私も……ゼクトさんが使い魔で良かったです!」
恥ずかしさが限界に来たリリアは普段からは想像できないほど俊敏な速度でその場を逃げ出した。
あとに残されたゼクトは唇に指を触れ、パタンと倒れこむ。
「……明日顔見れるかな」
おふざけではない、本気で向けられた好意にどうすべきか分からなくなったゼクト。
意外と悪い気分ではない事に気付きゼクトは頬を弛め、満天の星空をいつまでも眺めていた。
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