第十三話


 レムナントの町から西に向かい、馬車で十日ほどの距離にヴィスコール家の治める小さな町がある。

 名前もそのままヴィスコール。

 

 特産品は森の果実や野菜、それに森に住む魔物の毛皮等々。

 この時代ではごくありふれたことで、他の町も似たようなものだとか。

 昔は森の開拓などで栄えていたが、とある事情から国からの支援を打ち切られているらしいが、それでもしっかりと暮らしているたくましい町らしい。

 

 今回家督相続というかそこら辺の問題を解決する必要があるとの事なので、学園を休みリリアの実家へ帰省中である。

 俺が御者を担当しリリアには中に入ってもらっている。

 と言っても個室タイプの馬車ではないので普通に話すことが出来る。

 周囲の景色が一面畑に変わり、収穫時の小麦が黄金にも見える穂を揺らしている。

 

 「牧歌的というか……畑ばっかりだな」

 

 「この辺りは良い小麦がよくとれるんですよ」

 

 「ほほぅ。 少し仕入れていきたいな」

 

 「え? ……ゼクトさんってもしかして料理も出来るんですか?」

 

 「まぁそこそこ?」

 

 「私……女子力で負けてる気がする」

 

 別に料理が出来ないからといって落ち込む事もないと思うけどな。

 ただ独り暮らしをしていたから、炊事洗濯はある程度覚えた。

 料理に関してはそこそこの腕前だと自負している。

 

 「そうだ。 今日の昼飯は俺が作ってやろうじゃないか」

 

 ホームのなかなら調味料系は完璧だからな。レムナントで仕入れた小麦もあるしお好み焼きにするか。

 出来れば豚肉欲しかったけど、レムナントでは無かったのがなぁ。

 

 「楽しみなような怖いような」

 

 「スーパー執事ゼクトさんの腕前を見せてやるぜ」

 

 「ふふふふ。 じゃあ楽しみにしてます」

 

 あの夜の一件以降、距離感はあまり変わらないのだがリリアがよく笑うようになった気がする。

 昔はたかがキス程度と思っていたけど、まさかあそこまで動揺させられるとは思わなかった。

 

 「あー。 ……そろそろ到着かな?」

 

 「あ、見えてきましたね。 あれ、何か止まってますね」

 

 「ああ。 馬車が壊れたのかな?」


 町も視界に入りもうすこしという所で道を塞ぐように馬車が止まっている。

 馬車の外には武装した柄の悪い三人の男がおり、こちらを見てニヤニヤとしている。

 こちらが近付くと一人の男が妨害するように立ち塞がった。

 

 「護衛もつけずに来るなんてな。 とりあえず金目のもんは貰っていくぜ。 そこの女も上玉だな。 楽しめそうだ」

 

 下卑た笑い声をあげる男と、それに釣られて他の二人も笑っている。

 それが合図なのか馬車の中から更に五人の男が姿を見せる。

 

 これは……。

 

 

 「おぉぉ! こいつら盗賊か!? 始めて本物を見た! ほらリリア! 盗賊だ!」

 

 「盗賊は分かりますけどなんでそんなに嬉しそうなんですか!?」

 

 「ばっか! リアル盗賊だぞ! 人生で一回会えるかどうかも分からない相手に会ったんだ。 ちょっとサイン貰ってくる!」

 

 「え……。 えぇ……」

 

 何やらドン引きしているがそれどころじゃない。

 向こうの世界では盗賊なんてもはや存在しないのだ。

 強盗なんかもほぼほぼない平和といえば平和な場所だったので俺のテンションは上がりまくりだ。

 

 「あんたがボスか」

 

 「お、おぅ」

 

 「盗賊か!?」

 

 「そ、そうだが」

 

 「うっは! マジもんだ! この紙にサインくれ!」

 

 「俺は字はかけねーよ! つかさっきから何なんだテメー! さっさと出すもん出せや!」

 

 鬱陶しかったのかお怒りの盗賊ボス。

 拳を振るってきたのでさっさと下がりリリアの前に立つ。

 

 「全部で八人か。 三人くらい残ればいいかな」

 

 「あぁん!? な、なに言ってやがる!」

 

 「んー、そこのボスとお前とお前は活きが良さそうだな。 後はいらん。 死ね」

 

 体格の良いボスと顔の良い男、あとちょっと品の良さそうな引き締まった身体の男の三人を生き残らせる事にする。

 主であるリリアにあまりグロいものを見せるのもいかんよな。

 

 「縛縄符」

 

 五人の男に符を飛ばす。

 符が貼り付いた男達は金縛りにでもあったかのように動かなくなる。

 

 「な、なんだこれ!? 体が動かねぇ!」

 「魔法使いか!? 厄介な魔法使いやがって!」

 「助けてくれてお頭ぁ!」

 

 ギャーギャー喚く盗賊達に更に追加で符を貼る。

 符は盗賊達の体に貼り付くと青い炎によって燃え尽きていった。

 

 「い、今のって確か……」

 

 「あ、覚えてた? 怨恨符だ」


 「動けないようにして魔物を引き寄せるとか鬼畜すぎますよ!?」 

 

 「いやー、目の前で切り刻むとリリアにトラウマ残しそうだからソフトに死んでもらおうかと」

 

 「いっそ殺してあげた方が優しいですよ!?」

 

 「あら、ほんと? じゃあスパッと」

 

 いやー、主から斬殺の許可が出るとは。 人目につかない所で勝手に死んでもらおうかと思ったけど優しい主ですな。

 

 「や、やめ」

 

 いつまでも待たせるのもアレなので一息に五回刀を振り、首を落とす。

 辺りに血飛沫が舞い、残った盗賊達は腰を抜かしていた。

 

 「た、たたた助けてくれ!」

 「ひ、ひぃぃ化け物ぉ!」

 「こ、こんな事って」

 

 いやぁ返り討ちにあう盗賊のテンプレみたいな反応で可愛いなぁ。

 一度やってみたかったけど、まさかこんなにもあっさりいくとは。

 

 「大丈夫、お前達は殺さないさ」

 

 「ほ、本当か!? あ、いや本当、ですか?」

 

 「あぁ、勿論さ。 一応聞いておくけど、お前らは仕事がないからここで盗賊やってるんだよな?」

 

 「そ、そそそうだ!」

 

 「そうかそうか。 じゃあ俺の手下にしようかと思うんだが、どうだ? あ、拒否するならそのまま死んでもらう予定なんだが」

 

 「選択肢があるようでないじゃねぇか!? くそっ、てめぇなんぞの手下になるくらいな」

 

 「じゃあいらんな」

 

 話している途中だが盗賊ボスは仲間になるのを拒否したのでスパンと首を頂き、残り二人を見る。

 顔が青ざめてますな。

 

 「さて、お前らはどうする?」

 

 「わ、分かった。 従おう」

 

 「僕も……従う」

 

 品の良い男と顔の良い男は納得してくれたようだ。

 俺の真摯な説得に応じてくれて助かったぜ。

 

 「いやー、平和的に解決出来て良かったなリリア」

 

 「……それが平和的ならたぶん大概の争い事は平和という名前がつきますよゼクトさん」

 

 「だって盗賊に襲われても被害はなく、盗賊は二人が生き残り改心したんだ。 これが平和と言わずなんというのか。 なぁ? お前らも今後盗賊なんてやらないよなぁ?」

 

 

 「は、ははははい! 勿論です! 私は改心しました!」

 

 「脅してるじゃないですか!? もう……あれ? ぜ、ぜぜゼクトさん!? 魔物がいっぱい来てますよ!?」

 

 リリアの視線の先には結構な数の緑色の小鬼……ゴブリンがいた。

 ざっと見た感じ三十匹くらいかな?

 

 「よし。 そこの二人名前は?」

 

 「ナイルだ」

 

 「エイワスです!」

 

 品の良い男がナイルで顔の良いのがエイワスか。

 オーケーオーケー。

 

 「よし、二人のレベル上げと実験をするけど……近くにいれば大丈夫かな?」

 

 課金アイテムのEXPブースト四百%アップを使い、二人を捕まえる。

 逃げられると面倒なので傀儡符で動きを操らせて貰おう。

 ついでに剛力符と金剛符に神速符でバフをかけて……。

 レムナントの町で買ったそこそこ良い剣も持たせてと。

 

 「よし完璧! ハハハハハ楽しくなってきたぁ!」

 

 「なんだ!? 体が勝手に!?」

 

 「え!? 嘘!? これ魔物の方に向かってるよ!?」

 

 「俺の操作テクニックを見せてやる!」

 

 「「うわぁぁぁ!」」

 

 「……うわぁ……」

 

 俺の操作によって魔物の群れに突っ走る二人。

 良い悲鳴を上げながら剣を振るいゴブリンと戦っている。

 何やら呆れというか諦めというかそんな声も聞こえたよな気がしたが、多分気のせいだろう。

 

 あ、死体処理しとかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「死ぬかと思った……。 冗談じゃなくて本当に死ぬかと……」

 

 「そんな良い身体して情けないなナイル君。 見てみろエイワスなんか取り乱してないぞ」

 

 「ゼクトさん……あれ気絶してますよ」

 

 「…………情けない。 絶対死なないように頑張ったんだから安心安全のレベリングだろうに」

 

 「ふざけるな! 思いっきり攻撃当たってただろう!」

 

 「補助かけてたんだから痛くないだろ」

 

 「顔面に何度も棍棒当たってたじゃないか!? あれ絶対わざと避けなかっただろ!」

 

 怖かったのか、かなり反論してくる奴等だな。まったくたかがゴブリン三十匹程度でグチグチと小さい奴等だ。

 というか気絶してたんじゃないのかよ。

 

 「まーすたー。 ごはんできたよー」

 

 文句を言う二人をどう黙らせ……じゃなくて落ち着かせようかと考えていたところでホームからミソラが現れた。

 ナイルとエイワスは突如現れた美ミソラに驚き、先程の勢いが無くなる。

 

 「あとそこのドレイ二匹。 ちょっとこっちこい」

 

 「ど、奴隷ではない!」

 

 「そうです! 僕達は部下です!」

 

 二人の反論に目から光の消えた美空がナイルとエイワスの頭を掴み口を耳元に寄せる。

 

 「だまってこいや、ころすぞ」

 

 ボソッと放たれたその言葉に、従わなければ冗談抜きに殺されると判断した二人はビクビクと動き出した。

 

 「ますたーにくちごたえしてたから、ちょっとお仕置き……じゃなくてちょーきょーしてくるー。 ごはんはそこ」

 

 「助かる。 よしご飯にしようか」

 

 「…………アカネさんもミソラさんもゼクトさんの事になると怖いですね」

 

 「…………」

 

 用意されたパンとスープをリリアに渡し、離れていくミソラ達を見る。

 自分でデザインしたキャラだから愛着もあるし、見た目も好みではあるんだけど何と言うか父性が働くんだよな。

 

 「ご主人様に何を吹き込んでいるんですかリリアさま?」

 

 いつの間にか現れていたアカネがぬるりとリリアの後ろから現れて、リリアの顔を覗きこんだ。

 

 「ふぁぁぁい!? い、いいいきなり出てこないでください! びびび、ビビりますからね!」

 

 そこはビックリじゃないのか。

 いやあんな覗きこまれかたしたら俺もビビるけど。

 着物姿なのにどういう理屈なのか、するりと動き俺とリリアの間に座り俺に抱き付いてきた。

 

 「いくらご主人様の召喚主であろうと、ご主人様は渡しません」

 

 頬を膨らませ拗ねる仕草は子供っぽい。

 

 「……むぅ。 じゃあこっちに行きます」

 

 別に競う事でもないのだが、リリアは反対側にすわりパンを食べ始める。

 前のリリアだったらここでビビって引いていたと思うんだが……。

 

 「ますたーもてもて? わたしのとくとーせきは渡さなーい」

 

 調教を済ませたミソラは俺の膝の上に座りニヤニヤとしている。

 軽いから別にいいが食べにくい。

 

 「ふふふ。 じゃまでたべにくいでしょますたー。 はい、あーん」

 

 スープをスプーンで掬い、差し出してきた美空。

 「その手があったか!?」とか「なんて高等テクニック!」とか隣から聞こえてくるけど聞かなかったことにしておこう。

 

 「じゃあ頂きます。 あーん」

 

 「ふふふ。 おいしい?」

 

 「ん。 野菜と肉の旨味が良く出てる。 美味しいよ」

 

 「やった。 じつはわたしのしょくしゅがざいりょー」

 

 「…………え?」

 

 「う・そ」

 

 「尻叩き十発な」

 

 「しまった。 いやでもこれはこれでごほうび」

 

 タチの悪い冗談に噴き出しそうになったじゃないか。

 馬車のなかに美空を連れ込み尻を叩く。

 

 「あぁん! ま、ますたー! あぁ……そこは、だめぇ!」

 

 わりと強めに叩いてるつもりなんだが、頬を染めて喜んでいる。

 というか、子供のくせに声がエロい。

 

 「……なんか負けた気がする」

 

 これ以上は色々とアウトな気がしたので止めることにした。

 

 べ、別に逃げる訳じゃないからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る