第八話

 

 話は少し遡り新人戦前日。

 リリアが真面目に授業を受けている間は暇なので改めての確認がてらメニューを開いてアイテム欄を色々と見ていてふと目に入ったペット欄。

 

 思い出して欲しい。

 俺がここに召喚された時に確認したメニューの中にペットの欄があった事を。

 

 リベラルファンタジアではペットを飼うことが出来る。

 ペットを連れて戦闘に行くことも出来る。

 育てる訳だから勿論好感度的なものとか色々あるんだ。

 専用装備とかもあるしレベルもある。

 

 ゲーム内ではその使い勝手のよさからコミュニケーションが苦手でソロで戦う事が多い人はだいたいこのペットをガッツリ育てている。 

 勿論俺も強化しまくっていたし、好感度だの強化値だのはすべてMAXまで上げている。

 問題はそのペット自体と好感度MAXの所だ。

 

 そもそもこのペットという名前で想像するのは犬や猫なんかの所謂愛玩動物だ。 

 だがリベラルファンタジアはリベラルをタイトルに冠するだけはあり、とにかく自由というか製作陣の遊び心と悪ふざけが酷い。

 

 敵をペットにしたい?頑張ればペットに出来るさ!

 無機物をペットにしたい?課金すればペットに出来るさ!

 NPCをペットにしたい?課金すれば以下略。

 好きな子をぺ以下略

 

 つまり課金すれば結構色々なものがペットに出来るわけだ。

 愛玩動物(意味深)とかいう言葉が一時期リベラルファンタジアでは流行ったものだ。

 

 

 さてそんな中で俺が何をペットにしていたか。

 サムライなんてやってるんだし和風な感じでいこうかと思い、課金しキャラメイクして一から作った。計二体。

 

 一体は鬼をモチーフにした色気のある美女。名前はアカネ。少し癖のある真っ赤な髪を伸ばした着物姿の女性。前が軽くはだけてるのが実にエロイ。作ったのは俺なので多分に俺の趣味が……いやなんでもない。

 細かくキャラ設定が出来るのでその時に流行っていたキャラの設定を丸パクリしていた。

 

 そしてもう一体。

 こっちは青い髪の美少女だ。名前はミソラ。身長百五十くらいの可愛らしい子供である。

 見た目は美少女だが、戦闘時は別の形態に変身する。

 普段はこっちも着物姿で過ごさせている。ジト目が実に良い。

 

 さてこんな美女美少女の何が問題か……。

 さっき言った好感度だ。

 

 もともと性格や台詞なんかは初期に数百パターンある中から選んでいく事になり、それを元にキャラがクエスト中なんかに喋るようになる。

 そして俺は知らなかったのだが、MAXまでいくとペットという名の彼女達が割りときわどい台詞を話すようになる。

 

 具体的に言うとだ。

 

 『おや、御疲れのようですねぇ。 妾とゆっくり休みますか? ふ・た・り・で』


 『ますたー。 あいしてる』

 

 とか言ってくる。

 

 俺が敵の攻撃を受けて体力低下時も凄い。

 

 『あぁご主人様! この、腐れ○○○がー! 消し炭にしてやる!』

 『ますたー!? ……選ばせてやる。 刺殺、斬殺、撲殺どれがいい?  まぁ全部やるけどなぁー!』

 

 とかだ。分かっていただけるだろうかこのヤバさ。

 昔若干ヤンデレ好きな所があったので、これ良いじゃんと思ってキャラを作るときにその項目にカーソルを入れてしまったのが原因だ。好感度MAXになってこういう台詞が出るようになった時に結構後悔した。

 

 ちなみに毒の継続ダメージを引き摺ってる時に、誰もいない所でHPが一定値以下になっても発言するときがある。

 

 かなり切なくなる。

 

 

 

 それは置いといて。

 そんな彼女達を出したら一体どうなるのか。色々と大変そうなのは間違いない。

 間違いないのだが、リベラルファンタジアの仕様で一ヶ月に一回はエサをやらないといけない。

 やらないとレベルダウンのペナルティがあるのだ。

 既に二百五十五の彼女達のレベルが下がるのは正直困る。

 このレベル帯までくると一上げるのも正直クソ面倒なのだ。

 故に……。

 

 「出さない……訳にはいかない……のか」

 

 振るえる指を必死で動かしペットの欄を押す。

 瞬間光の粒子が集まり数瞬した後、目の前に見慣れた二人が出てきた。

 

 「よ、よう」

 

 そんな言葉しか出なかった俺はきっと悪くない。

 

 「ご主人様……あぁ、御会いしとうございました!」

 

 「まーすたー」

 

 二人同時に抱きついてきた。

 嬉しい部分があるのだが、思い出して欲しい。こいつらはヤンデレだ。

 何を言い出すのか警戒する必要がある。

 

 「ご主人に触れる!? なん……と……!? こ、これはもう伽ですわ! さぁご主人様! 伽をしましょう!」

 

 「ほんとーだー。 ねーますたー、けっこんしよっかぁ」

 

 やべぇ。 好感度一下げれば大丈夫なんだよ。

 誰かそんなアイテム持ってない?

 課金アイテムでそんなのない?

 

 ……無かったわ。

 取り敢えず暴走している(?)二人を宥めて、今の状況をきちんと説明してみた。俺が召喚されたことも含めて。

 ついでにご飯も作って一緒に食べながら。

 

 「ふむふむ。 つまりご主人様を呼び出したその小娘をくびり殺せばよろしいのですね?」

 

 「よーしぶっころそー」

 

 「やめい。 ……まったく先が思いやられる。 まぁ状況は分かったな? じゃあ戻すぞ」

 

 「「嫌」です」

 

 メニューからペットを戻そうとしたところ拒否された。

 反抗してきた……だと……!

 

 「その……やはりこうしてきちんとお顔を会わせていたいのですわ」

 

 「うん。 なんというかさびしい」

 

 ……そうだよな。

 メニューアイコンで簡単に呼び出せるといってもここではこうして触れ合えるのだし、感情を持っているみたいだし可哀想か。

 

 「……仕方無い。 取り敢えずここから勝手に出ようとはするなよ」

 

 「分かりました」

 

 「ほーい。 りょーかーい」

 

 不安しかないが、多分きっとなんとかなるんじゃないかなぁ……。

 なるかなぁ……。

 

 「ところでご主人様? 先程から気になっていたのですが、その匂い。 その匂いがリリアとかいう女の匂いですかぁ?」

 

 「ちょー、きになーる」

 

 ……え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 「俺は……自由だ……」

 

 新人戦に呼び出された俺。

 まるで十年ぶりにシャバに出たような気分だ!

 今の俺ならきっと空も飛べる!

 

 「ゼクトさん何だか幸せそうですね」

 

 「まぁな。 ちょっと問題が大きすぎてな」

 

 「取り敢えずパパっとやれます?」

 

 「多分やれるけどやらん。 ジックリ時間をかけて戦わせてもらう」

 

 「え? な、何でですか!? ゼクトさんならあんなガーゴイルだってスパッと殺れますよね!?」

 

 嫌ですよー。 そんなすぐ終わらせたらあっちに戻らないといけないじゃないですかヤダー。

 

 「……あっちに帰りたくない」

 

 「知りませんよそんなこと!?」

 

 ん? 何やら睨まれてる?

 ガーゴイルを連れた人か。

 もしかして今のリリアの言葉が聞こえちゃった?困ったやつだなリリアさんや。

 

 『では、始めなさい!』

 

 審判の開始の合図と共に他の使い魔達が一斉に動き出す。

 犬型の何かだったり蛇っぽいなにかだったりと色々いるなぁ。

 

 あ、さっき睨んでた人のガーゴイルこっち来た。

 

 振り上げられた腕をバックステップで回避して後ろに回り込む。

 普段の俺ならここで一閃して終わりだろう。

 

 しかぁし!

 

 刃を裏返し峰打ちで軽ーーーーく当てる。

 

 「流石にガーゴイル、硬いですね」

 

 執事モードをONにし、さも相手が硬いように振る舞う。

 素晴らしい演技だろう。

 周りからも流石にガーゴイルは斬れないだろうとか、相性が悪いとか聞こえてくる。

 

 ガーゴイルは俺が避けた事がか、はたまた攻撃を当てられたのが気に食わないのか猛攻撃をしかけてきた。

 その両腕から繰り出される連撃をステップで綺麗に回避していく。

 

 『グォォオオオオ!』

 

 ふふふふ。 当たったように思うだろう。残念だろうが、俺のステップには無敵時間があるのだ。 タイミングはシビアだけど、ジャスト回避からだいたい一秒の無敵時間がある。

 

 故にその猛攻撃も無駄なのだ!

 時間稼ぎには良いのでひたすら避けますけども。

 

 「スゲェぞあのにいちゃん! あのガーゴイルの攻撃を全部見切ってやがる!」

 「なんて目をしてやがるんだ!」

 「しかしあの岩の体をどう攻略すんだよ!?」

 

 観客すごい盛り上がりだな。

 俺も見る側なら楽しいんだけどなぁ。

 

 と、余裕で回避しまくっていると次々と勝負が終わっていき、犬がガーゴイルに突進してきた。

 取り敢えず大きく距離をとると、犬の体に炎が纏わりタックルしていった。

 流石にガーゴイルも衝撃には耐性がなく、吹き飛ばされた。

 が、まだ頑張れそうだ。

 

 頑張れガーゴイル!

 

 そんなガーゴイルの喉元を犬は炎の牙で噛み砕いた。

 岩をも噛み砕く犬とか怖いです。

 

 『不意打ちでなければガーゴイルも避けれたでしょうが、流石にあの状態だと無理でしたね。 ヘルドッグの作戦勝ちですね』

 

 なんか実況も始まったな。

 意外と本格的だ。

 

 ヘルドッグはこちらに視線を向け、牙を剥き出しに威嚇を始めた。

 乱戦だったら時間を多少稼げるけど、犬ってあんまり好きじゃないんだよな。

 あんまり早く終わらせたくはなかったけど仕方ない。さっさと終わらせよう。

 

 また炎を纏い突撃してきた犬をすれ違い様に一閃。

 綺麗に横に両断されたヘルドッグとやらは臓物をばらまきながら光の粒子となって主の宝石に吸い込まれていった。

 

 「うーむ、意外と綺麗な臓物してたなあの犬」

 

 飯を食わないから腸も綺麗だったのかな?

 飯とか食った後だと胃を切ったときとか腸を切った時に色々入ってるからな。

 想像したら汚いな。止めよう。

 

 「……ゼクトさん」

 

 「終わりましたよ主。 いやぁなかなか強い魔物でしたね」

 

 良い笑顔で答えてみたのにすごいジト目ですね。

 

 「授業でゴーレム斬ったゼクトさんがガーゴイル斬れないわけないじゃないですか。 どうするんですか。 私が相手を舐めまくってたみたいにしか見えないんですよ」

 

 「………あ。 ……ドンマイ!」

 

 やっちゃったものは仕方無いよね!

 あ、誰かがガーゴイルの主さんに何かを吹き込んでる。

 あ、凄い睨んできた。 ……てへっ。

 

 「まぁ苛められそうなときは教えてください。 こちらで御話をしますので」

 

 「今の御話とかいう言葉がすごく意味深だったんですけど!?」

 

 良いツッコミだ。

 君ならすぐに意味深を使いこなしそうだな。うむ。

 

 

 

 控え室に戻るとセインはおらずエルレイアが可笑しそうに迎えてくれた。

 

 「ゴーレムは斬れるのにガーゴイルは斬れないのか?」

 

 クックックッと意地悪そうに笑うエルレイア。

 それに頭を抱えるリリア。

 いやー悪気は無かったんだけども。

 

 「あの人マリスさんでしたっけ……。 結構怒ってましたよねー」

 

 「最後は顔を真っ赤にしていましたね」

 

 「誰のせいですか!?」

 

 「私ですけど」

 

 「うぅぅ……エルちゃーん!」

 

 耐えきれなくなったのかエルレイアに抱きついていった。

 良かったエルレイアで。

 俺に抱きつかれたらホームに戻ったときに匂いが云々言われる所だった。

 

 「よしよし。 まぁ勝ってくれただけいいじゃないか。 それに悪気はないだろうし」

 

 「そんな事ないですよぉ! ゼクトさんは悪気の塊ですぅ!」

 

 そうだったのか。

 俺って悪気の塊なのか。覚えておこう。

 

 「そういえばセインさんは何処かへ行かれたのですか?」

 

 「セインさんならお前がヘルドッグを斬ったあと急いでトイレに行くって言い出してたな。 なんというか……艶っぽい顔をしていた」

 

 …………へー。

 嫌な予感しかしない。

 いや待て俺には関係ないはずだ。

 

 「ふぅ……。 あ、お帰りなさいリリアさんにゼクトさん。 まるで舞っているようでとても素敵でしたわゼクトさん。 うふふふふふ」

 

 アーアーアーアー聴こえない。

 なーにーもー聴こえなーい。

 なーにーもー見えないーい。

 

 「ありがとうございますセインさん。 ……セインさん顔赤いですけど大丈夫ですか?」

 

 素直に喜ぶリリアさん。

 君は純粋だなー。

 そこのエルレイアさんはちょっと顔赤いぞ? 多分感付いてるんじゃないか?

 こいつもしかして耳年増な感じか?

 

 「うふふふふふ。 大丈夫よ。 下着の替えも持ってきてるから」

 

 「下着?」

 

 リリアは頭に?マーク浮かべてるけど流石にエルレイアも誤魔化しが効かなくなったのか顔が真っ赤です。

 俺はポーカーフェイスなので顔には出しません。

 というかこのレベルはちょっと引く。

 

 そういやリベラルファンタジアでフレンドの神パンツさんがこういう話をよくしてたなー。

 元気にしてるかな神パンツさん。

 

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