第三話
「ふぅむ……どうしたものか」
レムナント王立学園の会議室。
そこには学園の長と、担当教員、召喚の研究を行っている研究員の一人。
そして今回の当事者であるリリアがいた。
「召喚の儀で人型が出ることは前例があります。 しかし人そのものが出ることは今までありませんでした」
「本人はサムライとか名乗ってるいんだったか」
「サムライというのも始めて聞く種族ですね」
学園始まって以来……どころか有史以来といっても過言ではないこの状況に誰もが戸惑っていた。
この世界では魔法と呼ばれる超常現象が当たり前のようにある。
火や水、風や土などの属性魔法がありそれらが生活の基盤ともなっている。
魔法は強い魔法ほど発動までに長い時間を必要とするため、一昔前は魔法使いは戦いにおいて不利と言われていた。
しかし、とある魔法使いが編み出した召喚魔法による使い魔の使役によって魔法使いの地位は一気に跳ね上がった。
勿論召喚される対象によって強さは変わってくるが、魂の契約が交わされた使い魔は主を守る心強い従者だ。
かつての大魔法使いは竜を召喚し、その名を馳せたという逸話もある。
使い魔は魔法使いにとって大切な相棒というだけではない。
それ自体が魔法使いの実力ともとられる。
「リリア嬢……契約は交わされているのだったね?」
「はい……」
魂の契約。
魔法使いは使い魔と契約することが出来るが、それは一体までだ。
それ以上契約しようとすると魔法使いの魂が多重の契約に耐えきれず破壊される。
召喚の儀は一回きりの大博打でもある。
「むぅ……。 人格に問題は?」
「い、今のところは問題ないと思います!」
「そうか……。 いまここに出てきてもらうのは可能かね?」
「き、聞いてみます! …………大丈夫みたいです!」
「では頼む」
リリアは促されるままに宝石を翳し、ゼクトを召喚した。
学園長達の前に漆黒の髪の青年がリリアが呼んだときと違い、儀礼用にも見える何らかの衣装を纏っていた。
ゼクトは右手を胸にあて軽く、しかし丁寧に頭を下げる。
「主の名により参上しました。 何なりと御用命を」
「うぇあ!?」
「どうしたねリリア嬢?」
「あわわわ、えぇっと何でもないです!」
学園長は慌てるリリアに視線を向けるが、何でもないとの事なので特に追求せずに改めて現れた青年を見る。
(ふむ。 使い魔としての心得はあるのか? 随分と堂にいった態度と言葉遣い。 更に立ち振舞いは洗練された執事のようだ)
「君がリリア嬢に召喚された使い魔か。 見たところ人間のようだが……。 使い魔となる以上戦いも必要になる。 その辺りは大丈夫かね?」
「主であるリリア様の為に戦うというのであれば問題なく。 戦いには多少の心得も御座います」
「一ヶ月後に初等生の新人戦がある。 そこで君が使い物にならなければリリア嬢に出来損ないと評価される可能性がある。 ……使い魔に求められるのは生活の支援よりも戦闘能力である部分が大きい」
「人である私では他の使い魔に劣る可能性が非常に高い……ということでしょうか?」
「リリア嬢自身は非常に優秀だが、いくら優秀でも盾無しでは魔法の詠唱など出来ん」
「成る程。 承知いたしました。 では私がリリア様をその新人戦で優勝にでも導けば問題ない、という事ですね」
にこやかなゼクトと対照的に難しい顔をしている学園長面々。
その空気を感じてたのかゼクトの態度を見てなのか、リリアは終始アワアワしている。
「もし君が使えないようなら場合によっては、召喚ではなくテイムした魔物をリリア嬢につける必要がある。 暴走の危険性はつきまとうが、使えないよりはいいからな」
「理解しました。 リリア様が優秀であるという事をこの学園に知らしめて御覧にいれましょう」
いい笑顔で深々と頭を下げるゼクト。
険しい視線のままの学園長。
卒倒しそうなリリア。
面倒事の予感のする副学園長は頭を抱えたのだった。
「何やってるんですかゼクトさん!? いきなり畏まった挨拶で出てきたと思ったらあんな事言って!?」
「いや~、第一印象大事だよなと思って丁寧に出てきてみたらあのじいさんが煽ってくるから調子に乗っちゃった。 てへ」
いやまぁ、この世界で自分がどの程度の強さなのかまだ分からないのに何であんな事言ってしまったのか。
ちょっと訂正してきたほうがいいかな。
「てへ、じゃないですよ! デイバーさんと同期で優勝の可能性なんてゼロなんですよ!? あの人学生の癖にレベル三十台なんですよ!? そんな人の使い魔があのソウルリーパーなんですよ!? あぁぁぁ……どうしよう」
「よく考えてみたら、俺が別に負けてもリリアは問題なくないか? 負けても魔物が一匹護衛に増えるだけじゃないのか?」
「……そうなった場合、私は自分を守る事の出来る使い魔すら呼べなかった出来損ないの判子が押されるんです。 別に私自身はそんな事気にするほうではないんですけど、色々としがらみも多くて……。 優勝は無理にしても多少は勝てないと色々と面倒が起きる可能性も。 あぁぁぁ……」
「なるほどなぁ。 リリアも色々大変なんだなぁ」
しかしさっきのリリアの発言。
レベル三十台だと強いって事なのかな。
もしそうだとしたら俺サブクラス含めても大変な事になるんだけどなぁ。
「因みにリリアのレベルっていくつ?」
「……私は十八です」
「それって凄いのか? というかどのくらいあれば強いってことになるの?」
「……だいたい二十あれば十分強い方です。 三十もあれば国のエリートコースですね。 私が知る限り過去最高のレベルは確か七十八です。 冒険者ギルドの英雄ディミトリ・ファーレンクライン様ですね」
「ほほぅ。 七十八かぁ」
過去最高レベルが七十八か。
これは対処に困るな。
「なんでそんなに余裕そうなんですかぁ? ……わたしもう胃が痛くなってきた気がします。 ぅぅぅ……」
「はっはっはっ。 まぁなんとかなるさ。 ちなみに俺とか相手の使い魔って死んだりしたらどうなる? 相手の使い魔って殺したりしてもいいの?」
「…………普通の使い魔は死に至る損傷を受けると宝石に戻って、しばらくするとまた復活するので、おそらくゼクトさんもそうなると思います」
確証はないけど少なくとも他の使い魔はそうなのか、いいこと聞いたな。
それなら容赦なくやっていいんだな。
しかし、自分がどの程度動けるのかは気になるな。
スキルとかも使えるのか確認したい。
「分かった。 ついでにどこか自分の力を試せる場所ってあるかな? さっきも言ったけど戦いの心得はあるけど、この世界でどの程度のもんなのか知りたいんだ」
「……でしたら私が冒険者ギルドに登録していますので、レムナント周辺に出るコボルト退治でもしてみますか? そのくらいなら私でも余裕ですし、お小遣いも稼げますので」
コボルトか。 リベラルファンタジアではゴブリンと並ぶ雑魚の代名詞だったな。
コボルトキング程度でもカウンター一撃で沈んでたからなぁ。
「まぁそれでいいかな。 行ってみよう」
リリアの案内で学園を後にした。
リリアに案内された冒険者ギルド。
ログハウスみたいな家の中に酒場があって冒険者がどんちゃん騒ぎかと想像していたが全然違った。
なんと言えばいいか。
そう事務室みたいな感じだ。
受付の奥では結構な数の人が事務処理をしているよだ。
受付の横には掲示板があり、色々な紙が貼ってある。
残念だが何が書いてあるのかは分からない。
勉強しないといけないな。
「すいませんターシャさん。 コボルトの討伐ってまだやってますか?」
リリアは手慣れた様子で受付れと近付いていった。 どうやら知り合いのようで、ターシャと呼ばれた人物がにこやかに対応してくれた。
「あらいらっしゃいリリアちゃん。 コボルトならまだしばらくは常設の依頼だから大丈夫よ。 あらそちらの方は? 随分格好いい方ね。 もしかしてリリアちゃんの彼氏?」
「ち、ちちちち違います!」
「……リリア様にお仕えする事になりました使い魔です。 どうかお見知りおきを」
「…………ゼクトさんそれいつまでやるんですか?」
「人前であれば主人をたてるのは道理かと」
人前ではな。
「やだこんな格好良い人が執事なの!? 羨ましいわリリアちゃん! 私もこんな人に御奉仕してほしいわ!」
使い魔って言っても人間だし、俺の対応から執事だと思ったようだ。
「はぁ……。 じゃあコボルト討伐受けますね」
「知ってると思うけど数に応じて報酬は上がるからね~」
「はーい」
リリアは疲れたように何やらカードをターシャに出す。
ターシャはそれに何やら施すと、リリアに返却した。
「リリア様、今のは?」
「え? あぁ、今のはギルドカードって言って今のに依頼を受けましたっていう事が記憶されたんです。 あの状態でコボルトを倒すと自動的に倒した事を判別してくれるんですよ」
なんという超技術。
町並みを見た感じは中世から少し発展したくらいかと思ったけどなかなかどうして。
こういった魔法的な何かの部分はかなり発展しているのかな。
依頼を受けて町の外へと向かう。
この町がレムナントというらしいのだが、規模がデカい。
町を一周する超巨大な壁があり、中に町があるのだがこの規模を作るのに一体どれだけの時間がかかったのだろうか。
町行く人々には活気があり、この町が中々に栄えている事を思わせる。
道には商店や露店様々なものがあり、獣人のような種族も共生しているようだった。
「という訳でやってきましたけど、何してるんですか?」
「んー、敵が俺だけを狙うようにしてる」
符術の一つで敵のヘイトを集める怨恨符とかいう恐ろしい名前の符だ。
それを俺の体に貼り付けると青い炎が一瞬にして符を燃やし尽くす。
「お、さっそく効果ありか」
効果範囲はそんなに広くない符だが、周辺のコボルト達が近づいてきた。
まずは五体。
倉庫から引っ張り出してきた昔のバージョンの刀を引き抜く。
六紋刀という銘で、フレンドがおふざけで造った刀だ。
これがしっかりと通じるようなら暫くはこれでいくつもりだ。
鞘から刀身を抜き構える。
この世界のコボルトはリベラルファンタジアと然程見た目は変わらないようだ。
犬種?の違いはありそうだが、二足歩行の犬でやや顔が人間寄りとでも言うべきか。
見慣れてはいるが、正直気持ち悪い。
走ってくるコボルトを袈裟斬りで一太刀。
手に残る命を奪う感触が……少し懐かしい。
さらに返す刀で近づく別のコボルトを逆袈裟に切り払う。
斬った傷から遅れて血が舞い、コボルトの体が両断される。
怯まずに陣形を取ろうとするコボルト達に、一瞬で間合いを詰めて構える。
『一の太刀 紅蓮』
刀身が炎を纏い、横凪ぎに一閃する。
熱したナイフでバターを切るようにあっさりと両断されるコボルト達の体。
吹き出た炎が強すぎたのか、体は地に落ちる前に上半身も下半身も灰となって消えていった。
「……感覚はリベラルファンタジアとあまり変わらないな。 殺した感覚が少しリアルになったくらいか。 お、まだいるな。 いいぞ、どんどんこい」
向かってくる敵に同情しつつ、感覚に慣れるために敵の中へと突撃していくことにした。
私は、夢でも見ているのかもしれない。
ゼクトさんがコボルトを倒せるのは素直に助かる。
それは別にマイナスじゃない。
ただ、コボルトをただ倒すのと瞬殺出来るというのは意味が違うと思う。
コボルトが集団で来たときは陣形を乱させて各個撃破したり、壁役の人が受け止めて魔法で一気に薙ぎ払うのが主流だと思う。
ただし、こちらが少人数の場合は普通コボルトは二匹から三匹までしか相手にしちゃいけない。
それ以上は数の暴力に押されるからだ。
だから今のゼクトさんみたいに五匹まとめて一人で相手にするというのは普通に考えれば無茶だ。
そんな事はレベル二十以上の近接職の人でも命をかけて戦ってやっと、という位だと思う。
「……うそ、ゼクトさんこんな強かったんだ……」
ゼクトさんが使ったという、敵が自分に向かってくるといった道具も考えてみれば正気の沙汰じゃないと思う。
そんな物を躊躇いなく使えるという事は慣れてるっていうことだろうし、しかもそんな状況で敵の集団に飛び込むなんて自殺行為だと思う。
でもゼクトさんはさらに現れた他の魔物達も難なく斬り捨てていってる。
あ、アーマービートル!?
あれは武器が効きにくいから魔法でえん……ご……する暇もなく斬ってる。
うん。おかしい。
ゼクトさんおかしい。
そう言えば使い魔の倒した魔物って私が倒したことにもなるから私もレベルが上がりやすくなるって聞いたことがあるけど、この調子だと私何もしてないのに勝手にレベル上がりそうだなぁ。
あ、十九になった。
………………わぁい。
取り敢えず思考停止してみることにしました。
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