第二話

 


 「えぇっと……。 ハロー?」

 

 「……」

 

 挨拶したんだから返せよこの野郎。

 じゃなかった。ここは何処で、この美人は誰だろうか。

 目の前には青を基調とした学生風の衣装を着た蒼銀の髪の美人がいる。ドレスでも着せればまんまお姫様だ。しかもスタイル抜群。男のロマンがつまっ……いや何でもない。

 周囲には同じような服を着た人達が大勢。

 更に言えば数が半々ぐらいに分けられていて、片方の方々は何やら種々雑多なモンスター達とそれぞれ戯れている。

 

 「……はっ、すすすすすいません! えっと……貴方が使い魔でよろしいんです……か?」

 

 なんのこってすか?

 ツカイマ?

 あぁ使い魔ね、はいはい。

 

 「違います。 ていうかここは何処?」

 

 「あぁぁぁ、すいませんすいません! こ、ここはレムナントの王立学園です!」

 

 レムナント? そんなタウンあったかな?それに王立学園なんて無かったような気がするけど。

 ふと、自分が座り込んでいる場所の地面に触れて違和感を覚えた。

 地面の感触がリアルすぎる。

 それに自分の五感も妙にリアルだ。

 まるで現実と同じような……。

 

 自分の服装に目を向けるとリベラルファンタジアでの装備、というかコスチュームだ。

 

 ならゲームの中だと思うんだが、どうも現実的すぎる。

 そうだ、ログアウトすれば分かる。

 女性が何か言いたげだが、取り敢えず無視してメニューを呼び出す。

 アイテム欄はある。

 装備欄もある。

 ペットの欄もある。

 

 他は何もない。……課金した残りのキャッシュ……ってそうじゃない。

 今はそれよりもログアウト出来ないという方が問題だ。

 それにこの妙に現実的な世界というか……、いや目を逸らしすぎだな。

 どう考えてもこれは仮想空間じゃない。

 自分のアバターで現実の世界に来ていると考えるべきだ。

 そして、ここが何処か分からないと。

 あ、いやさっきレムナントとか教えてくれたな。

 

 「あ、あのぉ……」

 

 「ん? あぁごめん。 なに?」

 

 「契約……終わってしまったんですけど……大丈夫ですか?」

 

 「契約?」

 

 彼女はおずおずと右手を差し出し、甲の部分を見せてきた。

 白くほっそりとした綺麗な指だ。

 ペロペロしたい……って違う。

 その甲部分には鮮やかな黒龍のような刺青があった。

 ……いや刺青とはまた違うか?

 違いが分からん。

 

 「その……私が使い魔を召喚したのですが……貴方が出てきまして……」

 

 申し訳なさそうにモジモジしている美人。なんかエロいけどそれどころじゃない。

 つまり何処かの世界の何処かで召喚したら俺が来ちゃったと。

 なんてこったい。

 この一言に尽きる。 どっかの学者がニュースで異世界がどうとか世界間の壁を超えるにはとか色々話してたっけ……。

 

 「か、帰る方法は……ある? というか還せる?」

 

 美人さんは無言で目を逸らした。

 あぁ、もうその反応だけで分かるわ。

 分かってしまうわこの野郎。

 

 「……すいません」

 

 あぁ、本当に困ってるんだな。

 目尻に涙を貯めて、顔を伏せる美人さん。

 こういうのには弱いんだよなぁ。

 

 「……悩んでも仕方ないな。 俺は何をすればいい?」

 

 「いいんですか? その……契約が既に成されているので、私に絶対服従になってしまうのですが……」

 

 絶対服従!? マジで!?

 

 「……使い魔って言っても無茶な命令はしないよな?」

 

 「あ、はい! そこは大丈夫です! 色々と手伝って欲しい時とか戦う時にお呼びするだけなので」

 

 戦う執事みたいなものと思っておけばいいのか?

 しかし絶対服従か……。 

 この美人さんに絶対服従……。

 ……………………。

 はっ、いや。何でもない。

 

 「……俺の名前はゼクトだ。 宜しくたのむ」

 

 「私はリリアです。 リリア・クラッツェ・ヴィスコールです。 宜しくお願いしますね」

 

 差し出された手を握る。

 この世界にも握手あるんだな。

 色々考えないといけない事は多いけど、取り敢えず呼んでくれたのがリリアみたいな美人で良かった。

 いやマジで。

 

 こうして俺はリリアの使い魔となった。

 

 

 

 

 

 

 

 「そう言えばゼクトさん。 その……普通の使い魔って普段はこの宝石の中で過ごすんですけど……入れます?」

 

 「なぬっ!?」

 

 リリア以外の生徒達も召喚の儀が終わり一段落。

 ちなみに呼ばれた中で人型は俺だけだった。

 周りには一応サムライですとだけ名乗っておいた。通じたかは分からないけど、種族を聞かれた時にサムライと答えた。

 まぁ種族=サムライってのも面白いよな。

 そんな流れを経験した後にリリアが唐突にぶちこんできた謎。

 つまり俺はあの小さい宝石に入るのか……。

 入れるかバカ野郎。

 

 「ちょ、ちょっとやってみて良いですか? どうなるのか気になります」

 

 「危なそうだったら止めろよマジで」

 

 少し話してみて気付いたが、このリリアは控え目で可愛らしい所もあるが何というか好奇心旺盛だ。

 控え目と好奇心旺盛って両立する事を今日始めて知ったわ。

 リリアが宝石を俺に向けるとまるで掃除機に吸引されるように吸い込まれた。

 目を閉じていたが、終わったようなので目を開けると見慣れた風景があった。

 

 「マジか……俺の拠点じゃないか」

 

 リベラルファンタジアのホームタウンに作ってあるマイホーム。

 課金で千五百円で買えるこのマイホーム。

 ホームと言っても部屋は二つしかないけどな。

 一部屋は完全にプライベートルーム。

 開放的な作りでリゾートを思わせるような部屋だ。

 部屋の角にはキングサイズのベッドが置いてある。

 壁の一つは開閉可能で、解放すると外に面しておりそこにバスタブが設置してある。

 ソファとテーブルも部屋に合うようにモダンなタイプを設置している。 

 かなり気合いをいれて内装を整えていたので、過ごしやすさは問題無さそうだ。

 無駄に冷蔵庫とか置いてたけど使えるのかな?

 冷蔵庫のドアを開けてみると中身はないがヒンヤリしている。

 電源はどうなっているのかと思ったがコンセントはない。

 というか電源コードそのものが無い。

 

 「どういう理屈で動いてるんだろうな」

 

 もう一室は来客用のものでソファとテーブルがあって談話室のようになっている。 

 キッチンも設置しており、料理スキルがあれば材料で料理可能である。

 この部屋の隅にアイテム倉庫へのアクセスポイントがあったんだけど……。

 

 「うぉ、アクセスポイントがある! 倉庫のアイテム残ってるのかな?」

 

 長年リベラルファンタジアで貯めてきたレアアイテム達だ。

 無くなったとかだと流石に泣く。

 触れてみると宙にコンソールが浮き上がり中身の確認が出来た。

 

 「……良かった。 アイテムは問題ないみたいだな。 ただ消費アイテム系は手に入れる事が難しいだろうし、なるべく使わない方がいいか」

 

 回復系のアイテムは腐るほどあるけどな。

 それに初期に使っていた攻撃アイテムとかも結構残ってるな。

 高レアリティの武器もしっかりと残っている。良かったです本当に。

 

 『ゼクトさん。 大丈夫そうですか?』

 

 「ん? あぁ、大丈夫そうだ。 むしろ過ごしやすそうだ」

 

 『えぇ!? そうなんですか!? うぅ、ちょっと行ってみたいです』

 

 「出来るのか?」

 

 『聞いたことはないですけど……多分無理だと思います』

 

 そうなのか。

 ……ん? 宝石のなかにここがあるってことは宝石が破壊されたらここも壊れるのか?

 ……あの宝石だけは命懸けで守るとしよう。

 取り敢えずしばらく宝石のなかにいることを伝えて色々と確認してみる事にした。

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