第5話

「着いたぞ」


言われなくてもそんなことはわかっている。


実際にアクセルを踏んでいるのは俺の足であり、実際にハンドルを回しているのは俺の手なのだから。


車はキャンプ場の駐車場に着いたのだ。


俺は無言でエンジンを切り、無言で車を降りた。


千石が無言でその後に続く。


俺が無言で鍵をかけていると、千石が無言で歩き出した。


俺は無言でその後を追った。


ほどなくしてキャンプ場に着いたが、目的地はここではない。


そのまま森に分け入った。


道はないが傾斜も少なく、木々の間の雑草もそう多くはない。


山の中としては歩きやすいほうだ。


押し黙ったまま二人歩いていると、視界が開けた。


ここから断崖の崖っぷちまでそう遠くはない距離だ。


そしてここから断崖の縁まで木々はおろか草の一本すら生えていない。


つまり断崖絶壁の縁にたどり着くまでもなく、もう見えるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る