第4話
先ほどの千石の話では、もう十人以上もの人間が目撃しているとの話だ。
いつごろから小久保がそこに出現するようになったかは知らない。
しかしそのことを踏まえても、その噂が俺や千石の耳にこれまで入ってこなかったのが、不思議でしかたがない。
千石が聞いたのも、ごく最近のことであるのは間違いない。
なぜなら千石がそんな噂を聞きつけたのなら、どんな状況であれ真っ先に俺に伝えに来るはずだからだ、千石とはそういう男であり、千石と俺と小久保の三人には、それなりに大きな因縁があるからだ。
小久保とは大学のゼミで知り合った。
小柄でやせ細り、陰気で気弱な男だった。
そいつがいまいましいことに、あのキャンプ場奥の断崖絶壁にのこのこと姿を現す。
小久保が普通の人間であれば、何故そんなところに一人出没するのか、と言うことが問題になるであろう。
しかし小久保は、全くもって普通の人間などではない。
その訳は、小久保は二ヶ月前の七月に、その断崖絶壁から落ちて死んでしまったのだから。
原因はあろうことか崖っぷちでふざけていた小久保が足を踏み外して下に落ちてしまったことだ。
断崖から下まではけっこうな距離があり、おまけに崖下は岩場となっていて、草の一本すら生えていない。
人がそこに落ちて命が助かる可能性は限りなくゼロに近く、その結果人間である小久保は死んだのだ。
そばにいた二人の目撃者が口をそろえてそう証言したので、警察、そして世間一般も、本人の不注意による不幸な事故、ということに収まった。
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