第6話

見えてしまうのだ。


はっきりと。


一人の男が立っている。


痩せて低身長。


今時流行らない肩まで伸びたぼさぼさの髪。


わざとではないかと思えるほどの、極端な猫背。


そしてよれよれの半そでシャツに、一見作業ズボンに見えるが作業ズボンではない非日本製のズボン。


ファッションと言う概念が欠片も感じられない服装だ。間違いない。


後姿だが、あんな男は俺の二十年の人生の記憶において、ただ一人しか存在しない。


小久保だ。


二ヶ月前に確かに死んだはずの。


「……」


俺は小久保を見ていた。


呆けたように口を開けたままで。


すると千石が動いた。


ためらいなどというものは露ほども感じさせない動きで、つかつかと真っ直ぐに小久保に向かって歩いて行くのだ。

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