第12話 幕間『秋葉視点』

 放課後の図書館。

 裏庭が見える窓に面した机に座って、わたし――主代秋葉は本を読んでいた。


 窓の外に人影を感じて、ふと顔をあげる。

 同学年のカップルが前をよぎったようだ。


 男女の背を目で追いかける。

 あんな男の、なにがいいのかしら。

 貴重な青春なのだし、本のなかの素敵な男性に思いを馳せるべきだと思うのだけど。


 まあいいか。

 本に目を戻そうとしたところで――彼は空から落ちてきた。

 その腕の中には一匹の子猫。


 地面に落ちたようだが、傷だらけなのは人間のほうで、子猫は野生の勘を失ったかのように無傷だ。


 嬉しそうに男の子は、笑った。

 子猫を地面にはなしている。

 

 ああ、なるほど、木の上から子猫を救ったのね――理解するのに大した時間は必要なかった。


 一つ下のネクタイの色。

 金色の髪の毛が光輝いている。


 ぼんやりみていたら、気がついた。


 数瞬前には私の中になかった【なにか】が私の中に芽生えていた。


   ◇


 うん!

 縛りたい!

 なんていうか、可愛いあの金髪の男の子を束縛したいよね!


 ……なんでだろう?


 昨日、金髪の彼を見てから、わたしのなかにムクムクと変な気持ちが浮かんでくる……でも、これはなんていうか、わたしの中にもともとあった感情でもあるような気がする。


 わたしは昔から好きな本には、時間が溶けてしまうほどにのめりこむ。

 その本を食べてしまいたいぐらいに、はまってしまう。


 これまで男性とつきあったことはないけれど、母親からは「秋葉ちゃんは、刺すくらいに人を好きになるタイプよ。だってわたしがそうだから」と言われたことがある。


 刺すなんてこと、わたしはしたくはないけれど。


 でも。


 縛りたい!!


   ◇


 ああ、だめだ。

 あれから必死に、縛りたいという気持ちを押さえていたのに……。


 図書館で彼を見かけたとたん、窃盗を決意し、実行してしまった。


 反省文かなにかを書いている彼にぶつかるふりをして、バッグのなかみをぶちまけて、生徒手帳をうばってしまったのだ……。


 なんてことだろう。

 わたしは犯罪者ではないか……あ、名前は三枝レオくんというのね!

 名前も縛りたい!


 まあ、いっか!

 どうせ返すのだし!

 減らないもんだし、お礼に縛ればとんとんだよね!


 あれ……なにを考えていたっけ?

 ま、いっか。


   ◇


 三枝くんと仲良くなれた。

 お借りしていた生徒手帳を返しただけで仲良くなれるなんて本当にプライスレス。


 それにしても、都合がいい。

 彼もわたしが好きみたい?

 もしかしたら縛られたいのかも?


 胸ばかりみてくるから、それっぽい衣装を用意しておこう。

 とっておきのやつを、カマゾンでぽちっておいた。


 彼は本は読まないようだ。

 自習だってしておらず、わたしの為に図書館にきているらしい。

 本に興味があるふりをしてて、可愛い。


 わたしのなかに、イタズラ心が芽生えた。

 彼が絶対に読めないような本……罪と罰を読んでみよう。


 きっとそうすると……彼はわたしと話すために、ドストエフスキーを読まないといけなくなる。

 でも読むことは難しいから、漫画版でも読むのだろう。


 あ!

 良いことを思い付いた!

 図書館から漫画版をすべて借り上げてしまおう!

 市内全部の!

 

 ああ、そうしたら、あれじゃない?

 金髪の天使みたいな彼が、わたしのために市内を駆け回るのかしら……わたしのために、お金を払ってまで話をあわせるのかしら……彼の大事な青春の時間、わたしひとりで拘束しちゃうんだ……。


 これもひとつの緊縛ってこと?

 なんだか癖になりそう……。


   ◇


 あ、だめだ、もう我慢できない(笑)

 明日、食べちゃおーっと。

 

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