第10話 幕間『ユキ視点』

 率直に言おう。


 完璧を目指す、わたし――宇佐見 雪から見ても、三枝レオには敵わない点がある。


 それは『人を引き付けて、素直にさせる力』とでも言おうか。

 言葉で説明しようとしても、なかなか難しいことである。

 

 発明をしたとか。

 作品があるとか。


 そんなバロメーターが存在すればいいのだけど。


 顔が最上級にいいというわけじゃない。

(わたしは好きだけども)

 口が詐欺師のように達者というわけでもない。

(声は嫌いじゃない)


 なにか素晴らしいものが目立つわけではないのだけど、とにかくレオという存在は人を惹き付ける――いや。


 惹き付けていた、と過去形で語るほうが正しいか。


 一番危なかったのは小学四年くらいまで。

 とにかく、レオは事件に巻き込まれた。


 本人は『空き巣』と思っている事件も、実際はレオを狙って、おっさんが家屋に侵入してきたのだ。


 そのときは、なんと妹のリコちゃんが納豆を使っての逮捕劇を繰り広げたのだけど……、いや、あの話を思い出すのはやめよう。

 犯人がかわいそうという事件もなかなか起きないよね。うん。


 とにかく、そんなことが頻発していた小学生時代。

 みんなは『ちょっと顔がよくて、金髪碧眼だから、目立つんだろ』なんて、楽観視してたけど、私は気がついていた。


 これはレオの才能――たとえばそれはギフトとも呼ぶべき特異点なのだ。もしかしたら超能力かも。


 レオの【なにか】にあてられてしまった人間は、レオの前では自分の本質を抑えられない。

 だからレオは、人からなにかの【欲】をもたれたら最後。

 空き巣まがいの誘拐犯がでてくる。


 リコちゃんだって、私と似たような結論に達しているのだろう。フェロモンがどうとかいっていた。

 だから二次成長あたりには、一定の落ち着きがどうのこうのとか……。


 まあ、難しいことはいい。


 大事なことは、中学にあがってレオがどんどん男らしくなって、反面、愛らしさが消えていき、親の言うことをきかなくなって、勉強よりゲームを優先したという点にある。


 そのころから、レオの中に「フツーなレオ」が現れた。

 天使のように光輝いていたレオの中に、一滴のインクが垂れたような影ができた。


 それはある意味では劣化であり、ある意味では『リコちゃんによる、兄さんはバカでいいんですよ作戦』の功績ともいえた。


 それからである。

 レオは少しずつフツーになっていった。


 女の子も、レオに偶然ふらふらと吸い寄せられたあと、中身のフツーな部分で目を醒ますらしく、事件性を伴う愛の告白も大幅に消えた。


 わたしは、その時、気がついた。


 これは大好きだった芸能人が、メチャクチャ、フツーだったときに目が醒める効果と一緒では?


 なるほど!


 レオの中身を常にフツーの男に保っておけば、心も体も下――いや、まあ、とにかく、わたしのレオで居てくれるんだ!


 まるでパッケージだけメチャクチャおもしろそーで、プレイしてみたらフツーにつまらないゲームみたいに――いっそクソゲーのほうがマシとも思えるほどに、フツーな奴にしたてあげれば、この弱まったギフトの効果も消えるんだ!、と。


 だから、わたしは願った。

 レオはどんどんバカになってくれればいい。フツーになってくれればいい。


 そして、わたしは決意した。

 わたしは、それをレオに疑わせないほど、完璧な人間になろう。

 世間的にエリート街道まっしぐらな完璧美少女が、常にレオをバカにしていれば――レオは自分のことを、『フツー』だと信じこむだろう。


 そうすればレオの下半――いや、まあいい、とにかくレオはわたしのもの!

 事件もなくなるにちがいない。


 つまり、これらすべてはレオの為なのである。

 バレンタインデーに、チョコを見たくなくなるくらいに食べさせるのも、全部全部、レオのためだ。


 ただ。

 残念ながら。


 この作戦には、問題が2つある。


 一つ目。


 気がついている人はいないだろうが、レオの特異点を認識しているわたしは、ぶっちゃけ、レオにメロメロなのである。


 正直なところ、はやくチューしたい。してもらいたい。

 手をつないで、公園を散歩して、綺麗な景色のなかで、抱き締めてほしい!! それから外でいいから――はっ!?


 い、いけない。

 すぐにこれだ。

 だからレオと二人きりになると、完璧主義のわたしは超テキトーになる。


 超テキトーにしていないと、あふれでてくる欲望になんだか、押し潰されそうになるから。


 本当に悲しいけれど、きっとこれがわたしの本質なのだ。

 レオの前では、人は自分の気持ちを隠せなくなるのだ。


 そして、二つ目。


 それはごくたまに、レオが本領を発揮してしまうと、それに影響されてギフトが発動してしまうということ。

 

 たとえばこの前、猫を助けたとき――レオの本当の魅力に気がついてしまった人がいたのだろう。


 それが図書室の先輩だ。

 わたしがこれまで調査したところによると、レオの落とし物拾得は自作自演だ。


 まちがいなく図書室で先輩は、レオのカバンから生徒手帳を抜いたにちがいない。


 なんでそんなことが、わかるかって?

 簡単だ。

 わたしだって、そうするからです!!


 そして偶然を装ってレオに近づいた先輩だが……、最悪なことに相手はレオにとって、天使のように美人だったらしい。


 話はかつてないほどのスピードでとんとん拍子に進んでいる。

 これはしばらく、なりをひそめていた、事件性のニオイがする。

 

 なんたって、明日、レオはその先輩の家に呼ばれているというのだ。


 もちろん止めたけど、ダメだった。

 リコちゃんは、わたしとは少しだけ違う意見を持っているので、止めることはしないようだ。


 というわけだから。

 レオの持ち物に盗聴機をしかけておく。

 いや、おきました。

 すでに実行済みである。

 

 これは決して、わたしの為ではない。

 全ては、生まれつきかっこよすぎて、やさしくて、バカなところも可愛くて、ときに乱暴で、でもやっぱり優しいレオがわるいのだ!


 よし。

 これで完璧――証明完了。


 最後にリコちゃん直伝の『なんでも許される魔法の言葉』で終わりにしよう。



 てへぺろ。


 

 ……いや、意味はわからないんだけどね?

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