43 元也との対決

 祐介の言おうとしていることは分かる。しかし、英信が本当に死んでいたとしたら、あのような状況を生み出した理由はなんなのだろうか。

「どうして、そんなことをしたんだ」

「容疑を英信さんに押し付ける為です。根来さん。あの時、どういう状況だったか、思い出してください。ちょうど、沙由里さんが内部犯説を唱えて、尾上家の人間に疑いがかかりはじめた、その直後のことでしたね。犯人は、はじめ我々に、外部犯説を信じ込ませようとしていたはずです。ところが、あの頃から内部犯説が明確になってきた。そうなると、犯人はこれから殺人を犯してゆき、人が死んでゆくことで、容疑者を減らしていってしまうということに気付いたはずです。容疑者が減ってゆけば、最終的には自分に容疑がかかる可能性が増えるでしょう。犯人が何人殺そうとしているのかは分かりませんがね。そこで、犯人は手を打った。英信さんを真犯人に見せかけ、実は生きているのではないか、と我々に思わせるようにして、殺害したのです。だから、わざと不自然な証拠を残した。つまりは偽装殺人を偽装したのです」

 根来はその説明に頷く。

「確かにそうだな。それなら、例え、自分以外の人物を皆殺しにしたって、英信に殺人の容疑をなすりつけることができるものな」


 祐介の推理によれば、英信は本当に死んでいるのだ。今頃は、海底を漂っているだろう。

「ところで、第一の殺人や第二の殺人のトリック、そしてダイイングメッセージ、犯人が誰かはまだ分からないのか……」

「もう少しだと思うのですが……まだ……何か大きな勘違いをしている気がするんですよね……」

 祐介はぼんやりとしている。だんだん疲労が溜まってきた。頭の回転も鈍くなる。

 どれほどの時間が経ったことだろう。もう外は真夜中だろう。祐介と根来は、だんだん弱ってゆくようだった。

 何かがおかしい……。

 あのダイイングメッセージ……。

 もしあの内容が本当なら、とんでもないことになりはしないか。

 祐介の頭は、その場所で立ち止まる。

 あの言葉の意味は……。


 二人ははっとした。目の前に元也が歩いてきていた。懐中電灯をかまえて、右手には日本刀……。ふらふらになりながら、こちらへ歩いてくる。その目に、根来と祐介の姿が映ったのだろう。

「ここに……いたか……」

 元也は日本刀を構えると、どんどんこちらへにじり寄ってくる。

「こんなところまで、探しに来たのか……」

 根来が立ち上がる。しかし、根来もすでに疲労困憊である。

 元也がにじり寄ってくる。日本刀を構える。床に置かれた懐中電灯の明かりが、やけに眩しく感じられる。大きな影が二つ、鍾乳洞の天井に映っていた。

「お、お前たちのせいで……!」

 元也が日本刀で上から斬りかかった。根来はすかさず飛び込むと、その刀身を避けながら、元也の外側に飛び込んで、その手首を外側にひねった。

 たちまち元也は、日本刀を持ったまま、両足で円を描いて、空を舞った。そのまま、鍾乳洞に溜まった水の中に飛び込んでいったのであった。

 大きな水音が鍾乳洞に轟く。そして、そこからもがく水音が聞こえる。

「行くぞ!」


 根来と祐介は、その場を後にした。二人はとにかく、その場から離れようと思った。

 また見知らぬところにやってきた。ここはどこなのだろう。

「あいつも可哀想なもんだ……」

 根来は、ぼそりと元也のことを思って言った。

「なんだかな、本当に可哀想なもんだよ……」

 根来はそう言うと、その場にしゃがみこんだ。

「青月の夜……か」

 祐介もその言葉を聞いて、色々なことを考えていた。

 青月島。この島には不幸が渦巻いている。一刻も早く、この島から出ないといけない。

 そういえば、自分たちはこの島に上陸してから、英信からの情報で全てを判断してきたな、と思うのである。

 その時、祐介の頭にふと思い当たることがあった。

 まさか……。

 そんなことが……?

 ……その時、根来と祐介は、ある音を聞いて、一斉に後ろを振り向いたのであった。

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