38 元也の激怒
根来と祐介は、リビングに関係者を集めた。富美子の死のことを伝えなければならないからだ。
根来は元也の顔を見て、ふうとため息をついた。なんと伝えたらよいものか悩ましい。しかしストレートに言うより他にないという気もした。
「さて、みなさん。皆さんにお伝えしたいことがあります。実は先ほど、地下室で富美子さんの遺体が見つかりました……」
その瞬間、元也はあっと声を上げると、自分の顔を両手で抑えた。そして、よろめいてソファーに座り込んだ。
「……犯人に殺されたのです」
元也は、弾かれたように立ち上がった。元也は根来にふらふらと歩み寄ってゆく。
「あんたのせいだ……あ、あなたがもう犯罪は起こさせないと……それなのに、父さんも富美子もみんな殺されてゆく……」
根来は、元也に掴みかかられた。しかし、根来は何の抵抗もせずに、無言で俯いていた。確かに元也のいう通りなのだ。自分は失敗した、と根来は思っていた。
「そうだ……この島にいる部外者は、あなたたちだけだ……あなたたちが一番怪しいじゃないか」
「何を言う……」
「お前たちが殺したんだ……」
元也はそう言うと、気を失ったように床に倒れたのであった……。
根来は、元也をダイニングのソファーに寝かせておいた。これによって、リビングには時子、幸児、未鈴、沙由里の四人の容疑者が残った。
「今日のアリバイをお尋ねしましょう」
しかし、四人にはこれといったアリバイはなかった。皆、蒼白の表情でソファーに座っている。
時計を見る。二時……。もうじっと考えている時間はなかった。
元也はダイニングルームで目を覚ますと、ふらふらと地下室へ向かった。
「富美子……」
階段を降りてゆくと、そこは血だまりになっていた。そして、富美子の変り果てた姿。元也は富美子の血まみれの体を抱きかかえた。
「なんで……こんな……」
元也は、富美子の遺体を離すと、血にまみれた手で、箪笥の中から一本の日本刀を取り出した。
「……日本刀か……こうなったら、俺は富美子とゆくぞ……」
元也は自分の体に日本刀を突き立てる。しかし、刺せない。震えてしまって、駄目だ。恐怖が込み上げて、手が動かないのだ。
「情けない……俺はお前を愛していると言いながら……まだ自分が可愛いのか……」
元也は、日本刀の刀身をしばらく見つめていた。悲しい気持ちが込み上げてくる。
しばらくして、立ち上がるとそのまま、階段を登っていった。
リビングルームでは、根来と祐介が関係者から話を聞き出していた。しかし、一向に真相は見えてこない。その内に、ドアがギイと鳴った。
根来と祐介は、はっと振り返った。そこには真っ赤な血にまみれて、日本刀を握っている元也の姿があった。その目は、すでに生気を失っていて、恨みのこもったものに成り果てていたのである。
根来と祐介は、あまりのことに言葉を失う。元也の刀身がこちらに向いている。
「何を……考えている……」
「お前たちが……富美子を殺したんだろう……お、俺は馬鹿だった……お前たちしか部外者はいないんだ……い、一番怪しいのはお前たちなのには……はは……こ、殺してやるっ!」
根来は慌てる。
「な、何を言っているんだ……元也さん……馬鹿なことはやめて……その日本刀を降ろすんだ……」
「黙れっ! 第一、あんたら、何の為にここに来たんだ……殺人を起こさせない為じゃなかったのか! それなのに、みんな、死んでるじゃないか……東三も双葉も父さんも……富美子まで……お前たちがちゃんとしていなければならなかったんだ……お、お前たちが殺したんだっ!」
「お、おい! 羽黒! お前からも言ってやれ!」
根来は焦って、祐介を前に突き出す。
「元也さん! 確かに我々は失敗しました。確かにあの四人が殺されたのは僕たちのせいかもしれません。しかし、ここは冷静に話し合いましょう!」
元也は一歩詰め寄る。
「うるさいっ! 俺も死にたかったっ! しかし、死ねない! こ、この気持ちがお前に分かるかっ!」
「元也さん……」
周りの人間は、凍りついてこの様子を遠くから眺めているだけである。
元也がにじり寄る。その目は本気である。
元也は、大きく踏み出し、刀身が宙を舞った。
「くらえっ!」
その瞬間、根来が飛び出し、元也の胴を両手で突き飛ばした。元也はすっ飛ばされて、床に転がる。しかし、すかさず起き上がると、持っている日本刀を振り回した。
「羽黒、逃げるぞっ!」
根来はそう叫ぶと、リビングを勢い良く飛び出した。祐介も後ろから急いでついてゆく。
「まてっ!」
元也は、日本刀を握りしめたまま、二人を追いかけた。
根来と祐介は玄関に飛び出し、大急ぎで靴を履くと、一目散に外に飛び出した。
元也も一生懸命、それを追う。
しかし、根来と祐介は浜辺の方まで弾丸のように一気に駆けていったので、元也は到底、追いつかなかったのである……。
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